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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
アナザーパーティ編
72/107

不和につけこむ者

ちょっと遅くなりましたが70話です!

次の更新は10月15日です。

 異界ではない場所から来た者は個人差があるが異界で体調を崩す。どうやらディ・ライトも杏奈やグランツと同じくそのタイプらしい。


「何があったかわからないが相当なケガなのか。誰がやったんだ?」


 二コラは倒れていたディ・ライトを背負い、階段を駆け下りた。




 ディ・ライトに重傷を負わせたグランツ。彼はホテルに戻ってきた。すでにジョシュアは戻っており、相変わらず杏奈はベッドで寝ている。


「おかえり。すごい傷だね」


 ジョシュアは言った。それもそのはず、グランツは止血こそしているものの顎と腕に浅くはない傷を負っている。彼は今腕をパーカーで縛り、顎の傷にはハンカチを当てて無理やり止血している。


「おう。ルーン石をなんとか一つ取り返したぜ。多分グレイヴワームで手に入れたアレだろ」


 グランツはズボンのポケットに入れていたナイフを椅子の上に置いた。そのナイフには黒くてよくわからない印の刻まれた石がはめ込まれていた。


「ありがとう。このルーン石を持っていた覚えはないがとにかく二つは確保できたわけだね」


 ジョシュアは言った。


「二つ?」


 聞き返すグランツ。だが、ジョシュアが「二つ」と言った理由をじきに理解した。杏奈の枕元に水の入ったボトルとともに置かれているルーン石。異界に来る前、渡されたものだ。一度ルーン石を奪われるまで杏奈が持っていたものだ。


「とにかく、あいつらがルーン石をすべてそろえることは防いだ。それから二コラとノエルもこの町に到着したみたいだ。合流は明日の夜だよ」


 ジョシュアは言った。だが、彼は少し不安に思っていることがあった。かつての仲間であるディ・ライトとアルセリアは敵となった。彼らと相対した二コラはどのような顔をするのだろうか。できればジョシュアはディ・ライトたちと二コラを会わせたくなかった。





 次の日の夜9時頃、体調が良くなった杏奈とジョシュアは二コラと合流するためにクロックワイズの総合病院に向かった。


 クロックワイズの総合病院は今までの診療所とは違い、現代的な造りをしている。病院によくある心霊現象とは無縁のようにも見える。そんな病院から二コラが出てきた。ノエルはいない。


「よお、お前ら。クロックワイズの町ってどうだ?」


 二コラは言った。


「とても現代的だね。夜景もきれいだ」


 ジョシュアは答える。どうなのかと聞かれた彼はこれまでのできごとを話すようなことはできなかった。かつての仲間が敵となって襲い掛かり、自己防衛のために重傷を負わせざるをえなかったということだけは知られたくないのだ。


「それはわかるぜ。俺もあの空中庭園に行ってみた。ディ・ライトが倒れていなけりゃ最高の眺めだったがな」


 何気ない二コラの一言はジョシュアの心を激しく打ち砕いた。ジョシュアはどうしても彼のことだけには触れたくなかった。二コラは知らずともジョシュアはディ・ライトの裏切りを知っているのだ。

 ジョシュアは二コラと目を合わせることができなかった。今のジョシュアはディ・ライトを敵だと認識している。


「ジョシュア……」


 杏奈も事情は察していた。だが、二コラはこの空気をぶち壊すように言った。


「ディ・ライトに何があったんだ……?相当深い傷を負っていたぞ」


「それは……」


 ジョシュアも杏奈も知っている。ディ・ライトとグランツが戦ったことを。詳しいことはグランツがすべて昨日話していた。杏奈の脳裏にグランツの顔が浮かぶ。彼が話した後のジョシュアは顔色を変えなかった。だが、そのときのジョシュアは何を考えていたのだろう。


「……ディ・ライトもアルセリアも死んだという認識でいいだろう?もともと彼らが生きていたとは思っていなかった。私も君も」


 ジョシュアは言った。


「ジョシュア……ここまで頭おかしいとは思わなかったぜ。生きている人間を死んだ呼ばわりってどういうことだ?仲間を見殺しにしたときと変わらないじゃねえか!」


「君も頭を冷やしたらどうだ?鮮血の夜明団の裏切り者は殺すという決まりだろう。ディ・ライトもアルセリアも裏切り者だ」


 ジョシュアが言うと二コラは黙り込む。二人の間に緊張した空気がたちこめる。


「あの二人が……?」


「ああ。信じられないのなら確かめたらどうだ。君も丸くなりすぎたんだよ」


「ちっ……頭いかれちまったのかお前ら。俺はアルセリアを探してくるぜ」


 二コラはこれ以上の話が無駄だと判断したのかその場を去る。どこへ向かっているのかわからないが、その姿を見た杏奈は嫌な予感がしてならなかった。




 ――なぜディ・ライトとアルセリアが裏切った。ジョシュアの言う事は二コラにとって簡単に信じられるものではなかった。何か裏がある。二コラはそう確信していた。


(俺は信じないぜ。できるかよ、あの二人を殺すことが……)


 二コラの頭に、かつてディ・ライトやアルセリアとともに任務を遂行したことなどが映画のワンシーンのように流れる。元の世界でセリオンの洞窟を調査したこと、付近の「廃棄所」で正体不明の生物と戦ったとこ。二コラはすべて覚えている。


 そんな中サバトラの猫が現れ、空気の流れが変わる。アルセリアが索敵や不意打ちを試みるときのような風だ。


「アルセリア……アビス……」


――彼女は何を探している?


 二コラの陶酔を破るように爆発が起き、風の砲がたたきつけられた。視界にはアルセリアが映る。動揺する二コラ。だが、アルセリアはお構いなしに攻撃。二コラは爆風と突風でビルに激突した。


「お前に恨みはないけど、我々に殺されなくてはならない。悪く思わないで」


 アルセリアは瓦礫に埋もれた二コラに声をかけた。返事はない。


「みゃうぅー」


「わかってる。二コラは攻撃のチャンスを……」


 瓦礫の隙間から炎が噴き出した。アルセリアはそれがわかっていたかのように炎を避けた。

 いくつかの瓦礫が投げ飛ばされ、二コラは脱出に成功。だが、もう一人の敵が後ろから迫る。


「よし、アモット。おねがい」


「まかせろ」


 爆風。二コラの身体は爆発によって半分くらい吹き飛ばされた。


「油断しないで!吸血鬼はあんたが思うほど弱くない。ディ・ライトがいないと格段に倒しにくくなる」


 アルセリアは言った。彼女の言葉を聞き取ったアモットは二コラが吹き飛ばされた方へ。アルセリアも追撃を試みたが、彼女はもう一人の敵の存在に気づく。それも彼女自身が探していた敵。


「アルセリア……まさかここにいるなんて」


 その声を聞いたアルセリアは後ろを振り向いた。


「神守杏奈……」


「私はここだよ」


 杏奈は「ふっ」と笑った。



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