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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
アナザーパーティ編
71/107

ヒーローじゃない

疲れ目が酷いです。

調子よくなったら2日に2話ベースにしていこうかと思います。

 クロックワイズの町に出たグランツ。ルーン石を取り戻すため、ディ・ライトかアルセリアを探す。彼はなぜルーン石を取り戻そうと奔走するのか。それはルーン石が異界での体調不良を防ぐ働きを持っているから。杏奈とグランツは特に体調不良を引き起こしやすく、ルーン石なしでは定期的に頭痛と吐き気と高熱に悩まされることとなる。

 グランツは昼間からずっとディ・ライトとアルセリアを探していた。だが二人は見つからない。町の中心部も公園も見た。


「畜生。どこにいるんだ?」


 グランツは立ち止まった。今彼がいる場所は空中庭園と呼ばれる屋上のガーデンだ。60メートルほどの高層階であり、落ちればひとたまりもない場所。グランツとしてはここで戦うことを避けたかった。


 そうそうに空中庭園を立ち去りたかったグランツはここで何者かの足音を聞く。警戒して忍び寄るような足音が逆に怪しい。


「誰だ……?」


 その気配が誰のものなのか。それがわかるまでに時間はかからなかった。イデアを扱える者が発する気配。たとえそれが戦闘に向いているものであろうがそうでなかろうが発するものは同じ。


「グランツ・ゴソウでいいんだな?」


 独特な外見をした男――ディ・ライト。空中庭園にいたのは彼だ。グランツが彼を見るのは初めてだが、その顔はどこかで見たことがある。異界へやってくる前、スリップノット支部の資料にあった写真。その一つに写っていた顔と同じ。名簿に書かれていた名前もディ・ライト。


「俺を知っているんだな。話が早いぜ」


 ディ・ライトが敵であることを事前に聞いていたグランツ。彼はすぐさまイデアを出し、臨戦態勢に入る。ディ・ライトも同じ。

 彼はグランツより先に動き、残りの手りゅう弾のピンを外して投げた。それに気づいたグランツはダーツで軌道をずらし、庭園の下に落とした。


「恨みはないけど殺そうとするなら話は別だぜ」


 グランツの声とともに放たれるダーツ。ディ・ライトはダーツを跳ね返すことなく、ただ避ける。ダーツの当たったオブジェなどはことごとく破壊された。その様子を目にしたディ・ライトは隠し持っていたナイフを抜いた。このナイフでグランツの首筋をかき斬ることしか彼に残され戦法はない。グランツは吸血鬼ではないのだから。


 それは一瞬だった。距離を取ってディ・ライトと戦っていたグランツは油断していた。ディ・ライトはグランツの懐に飛び込み、ナイフを振りかざす。


「油断大敵だぞ」


 空中に散る血液。グランツはそれを確認して初めて自分が傷を受けたことを認知する。遅れて痛みがやってきた。切られた場所は顎。グランツはとっさに動いたことで首への傷を回避できた。だが、顎に負った傷は浅くない。

 グランツはさらなる一撃を警戒し、距離を取る。同時に牽制としてダーツをいくつか放つ。少なくともディ・ライトの接近を遅らせることには成功。だが、ディ・ライトはもう一度グランツの喉を狙う。その姿は暗殺者のよう。


「ちっ……」


 グランツに向けられる刃。避けられなければ防ぐ。グランツは左腕で刃を受け止めた。ディ・ライトの振るう刃はグランツの服を裂き、皮膚にも食い込む。皮膚と刃が接触した場所から血が流れる。痛みを肌で感じるグランツはナイフに埋め込まれた「あるもの」が目に入った。自分が探していたモノ。ルーン石。


「暗殺だけを考えるべきだったか……?」


 ディ・ライトは刃をグランツから離し、彼から距離を取った。


「どうやらお前も俺を殺しに来たんだな」


 顎と左腕から血を滴らせるグランツは言った。


「ああ。命令だからな」


 ディ・ライトは答えた。


 命令。任務。グランツとディ・ライトの戦う「理由」はあまり変わらない。果たすべき事である以上お互いに手を抜けない、失敗できないというのは同じ。

 グランツは限界までイデアを出した。これでディ・ライトを倒す。殺さなくとも再起不能と言えるくらいにまで徹底的につぶす。

 緊張した空気の中、ダーツが放たれた。同時に動くディ・ライト。彼はダーツの間を縫ってグランツに近づく。ここまではグランツもわかる。だが、ディ・ライトはここでイデアを出した。ブラックライトのように光る鞭。


(何をする……!?)


 ディ・ライトの行動を見たグランツは咄嗟にダーツをいくつか飛ばした。はじかれるダーツ。そのうちの1本がディ・ライトの肩に命中する。


(骨を貫通した!?)


 ディ・ライトの動揺は戦況を大きく変える。彼が一瞬動きを止めたところを見計らい、グランツはさらにダーツを撃ち込んだ。撃たれた4発のダーツはすべて命中し、ディ・ライトの両足4か所を確実に貫通する。


「あっ……」


 筋肉や腱を貫通され、骨も折られたディ・ライトはその場に崩れ落ちた。


「クソ……何としてでもお前だけは……」


 立ち上がることのできないディ・ライト。彼は歩いて近づくグランツを攻撃するためなのか、ナイフを握りしめた。彼はまだ戦意喪失していない。


「グランツ・ゴソウ……」


 グランツがディ・ライトに近寄った時、グランツはナイフを振り上げた。立ち上がれないディ・ライトの高さではせいぜいグランツの足に傷を入れることが関の山だ。


「無駄だ」


 グランツはナイフを持つディ・ライトの右手首をつかんだ。腕力で劣るディ・ライトはそこから手を振りほどくことなどできない。彼にはもうどうすることもできない。


「あんたが持っていたんだな。ずいぶん探したんだぜ」


 グランツが言ってもディ・ライトは黙ったままだ。グランツは強引にディ・ライトからルーン石のはめ込まれたナイフを取り上げた。


「やめろ……それだけは……」


「俺はヒーローじゃなければ正義の味方でもない。すまねえな」


 グランツはディ・ライトにとどめを刺すこともなく去ろうとしていた。その姿はあまりにも身勝手だ。


「グランツ……」





 30分後、グランツと入れ替わるように南側のビルから一人の男がやってくる。ディ・ライトと似た体格の赤髪の男、二コラだ。


「嘘だろ……?」


 二コラはつぶやいた。

 ――目の前には両足と肩から血を流した男が倒れている。二コラは彼を知っている。かつて共に戦い、異界の調査へと同行したはずのディ・ライト。

 二コラは彼に近寄った。倒れているディ・ライトは高熱を出して寝込んでいた時の杏奈のような表情をしている。



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