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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
アナザーパーティ編
70/107

命を賭けろ

お久し振りです。なんとか執筆に戻ることができました。これからも宜しくお願いします!

 ルツとの戦闘を終え、ビリーは約束の場所へ向かっていた。彼が路地裏を通るとき、視界に一人の男が入る。


「貴方でしたか、ディ・ライト」


 ビリーは言った。その男ディ・ライトは振り向く。本来は地味であるが厚化粧を施したディ・ライトの顔がこちらを向いた。


「あ……まあ、そういうことになるのか?」


「そういうことになりますね。ルツに紫外線を浴びせてくれたことは感謝します。ところで、なぜこんな場所にいるのですか?」


 人間味を感じさせないビリーの笑顔はディ・ライトに軽い恐怖を与えた。ディ・ライトにはビリーの真意がわからない。


「その、ルツという女にルーン石を奪われたので追っていた。それだけだ」


「本当に?ルツはルーン石を持っていなかった。貴方は嘘をついているのですか?」


 ディ・ライトは言葉に詰まる。ルツがルーン石を奪ったことは事実である。その事実を知る者が自分以外にはルツしかおらず、彼女が生きているのかわからない。つまりディ・ライトに証明する手段などない。


「俺は本当の事を言っている。命をかけてもいい。4人で集まるときに殺すなら俺を殺せ」


 ディ・ライトが吐いた必死の言葉をビリーは受け止めたのか、ほんの少し黙り込んだ。夜の町を静寂が包む。


「そうですね。正直なところ貴方を殺すかどうか、相当迷いましたよ。では、明日の早朝4時半。空中庭園でお待ちしております」


 ビリーは言うと、空中庭園のある方向へ向かっていった。彼は一体何を考えているのだろう。ディ・ライトはホテルに戻ることにした。残りのルーン石も奪われていないか確認しなければならないのだ



「どこ行ってたんだよ」


 一足先に戻っていたアモットは言った。アルセリアもここにいる。二人はディ・ライトを怪しむような顔で見ていた。


「ルーン石を取り返しに行っていただけだ。ほら、箱が開いているだろ?その中身が魔族だった」


 アモットとアルセリアは急に黙り込んだ。アモットは疑いを持った顔、一方のアルセリアは困惑した顔。だが、すぐにアモットは木箱の残骸に目を向けた。中から突き破られたような穴。もはや空となった木箱の残骸の中身を確認することはできない。

 アモットは再びディ・ライトの方に顔を向けた。


「立場をわきまえろ。お前はアンジェラ様の厚意で生かされているに過ぎない」


 アモットはあっさりとディ・ライトの言葉を否定した。ディ・ライトの立場は強くない。それは彼もわかっている。元は対立していたに等しいのだから。


「ああ……。そうだな」


 ディ・ライトは既に嫌な予感を覚えていた。もはや自分に後はない。


 3人がそれぞれの思いを抱えたまま、刻々と約束の時間が迫る。




 クロックワイズの町の中心部。ビルが立ち並ぶ中いくつかのビルの屋上が緑化され、庭園として利用されている。通称・空中庭園。24時間開放されている庭園には夜だろうと人々が訪れる。

 それでも午前4時、早朝に庭園を訪れる者はほとんどいない。人気のない早朝の庭園にただ一人、ビリーはたたずんでいた。夜明け前、静まり返った町は暗い。


「しかし、私も無理難題を出しすぎましたかね?アンジェラ様に従う者といえども選別しなければならないのですが」


 ビリーは自分が上ってきたビルの階段を見下ろした。人の気配も足音も一切なし。ビリーは顔をゆがめ、ため息をついた。


「ここにいたのですね」


 女の声がビリーの耳に入ってきた。彼は声の方を向く。アモット、アルセリア、ディ・ライトの3人組。


「すっぽかしたのかと思いました。たった今、君たちの処分を考えようとしたところです」


 ビリーは言った。


「言うと思ったぜ。それで、ルーン石だろう?」


 アモットはビリーの求めるもの――ルーン石を入れた袋をビリーに手渡した。様々な色のルーン石が袋の中に入っている。


「一つ足りませんね。ディ・ライトの言った通り、『ジェラ』のルーン石がここにない。どういう事かい?」


 ビリーは言った。


「あの時俺が言ったように、ルツに奪われた。その先はわからない」


 ディ・ライトは答える。彼に迷いはない。いくら証明する手段がなくとも本当の事を伝えるほかはない。ディ・ライトの目の前にいる男、ビリー・クレイはどこか狂っている。アンジェラ・ストラウスのためであれば簡単に手下を切り捨てるのだ。

 周囲をぴりぴりとした空気が包んでいた。


「最後のチャンスだ。ルーン石を探し出し、鮮血の夜明団の連中を全員殺せ。これは命令だ。お前たちはこの両方をこなさなくてはならない」


 ビリーが口を開く。


「できるかできないかではない。やれ。お前たちに次はない」


 緊張感に押しつぶされそうな3人。だが、やるしかない。


 別れ際、ビリーはディ・ライトに向けて一つのルーン石を投げつけた。


「お前がルーン石の加護で体調を保っていることを今思い出しましてね」





 ガタガタとゴミ回収ボックスの蓋が揺れる。中から無理やりこじ開けるようにしてジョシュアは外に出た。どうやらディ・ライトとの戦闘から1日ほど経っているようで、日没から少し時間が経過した頃だった。


「昨日より人がいるな。そういう時間なのかい……?」


 ジョシュアは周囲を見回した。彼は今ルーン石を隠し持っている。ディ・ライトやアルセリアに不意打ちされるのは何としても避けたいのが彼の本音である。

 覚えている限りの道を通り、周囲を警戒しながらホテルへ戻る。幸いルーン石を狙っている者に出会わなかった。



「戻ったよ」


 ホテルの一室に入るジョシュア。中のベッドで寝かされている杏奈。彼女の顔色は悪く、額には氷の入った袋が載せられている。


「おかえり」


 シオンがジョシュアを迎える。部屋の奥を見回してもグランツはいない。部屋にいるのはシオンと杏奈だけらしい。


「グランツはどうしたんだ?」


「ルーン石を取り戻すって出かけている。ジョシュアはもう大丈夫か?」


「なんとかね。本当に奇跡的だがこいつも取り返した」


 ジョシュアはポケットから何かを取り出した。水色で不思議な文字を彫られた石。ルーン石だ。


「ひとまずやつらがルーン石をすべてそろえる事だけは防げる。あとは、グランツとノエルと二コラを待つだけだね」


 とジョシュアは言うと入口近くの椅子に座った。


「ああ。手紙、飛ばしておくか」



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