化け物と化け物
本日投稿分その2です。引き続き残酷・グロテスク描写にご注意下さい。主人公は出てきません。
少しずつではあるが、ルツの傷は癒えている。一度胴体を離れた手足も無事にくっついた。ルツは立ち上がって路地裏を進む。裂けて血が流れる腹部はまだ放置していたが、これから治ることだろう。ルツは自分の体に走る痛みを無視する。人間であれば命にかかわるケガであるが、魔族であるルツは光の魔法を浴びるか、紫外線を浴びた後にさらなる致命傷を受けない限りどうということはない。
「……問題はこのルーン石だね。あいつらに渡すことができるのならそれに越したことはないんだが。光で簡単に殺されるかもしれない私よりよっぽど適任だ。」
周囲の様子を見ながら、ルツはかつてセリオンの洞窟で会った4人組を探していた。そのうちの一人でもいい。とにかくルツはルーン石を託すことのできる人を探していた。ルツにはルーン石を託す理由がある。
歩いていると、ルツはどこかから戦う力のある人の気配を感じ取った。これは人なのか。その気配の方向は自分から見て左側の斜め前。青色のゴミ回収ボックスからの気配だ。ルツは『不燃ゴミ』と書かれたゴミ回収ボックスに近寄ると、その蓋を開けた。
ゴミ回収ボックスの中には、不燃ゴミのゴミ袋をクッションのようにして横たわる一人の男。人間であれば確実に死ぬような傷を負っており、ゴミ袋は血で濡れていた。どういうわけか、その男には息がある。だが、先は長くないだろう。
「……なんだ、満身創痍の男か。生きているかも怪しい奴にルーン石を託すこともないね。」
ルツはそう言って蓋を閉めようとした。
「待て……今ルーン石といったね?」
横たわる満身創痍の男――ジョシュアは言った。彼の目の光は消えてなどいない。橙色と緑色の入り混じる瞳には何かの意思があるように見えた。
「なんだい?」
ルツはゴミ回収ボックスの蓋を閉めるその手を止めた。
「私たちがルーン石を持っていた。それも私がディ・ライトという紫外線使いの男に奪われたものだ。」
ジョシュアは言った。
「それで?」
「私に託してくれていい。私は吸血鬼。直にこの傷も癒える。私を待つ仲間もいる。」
ルツは汚いものを見るような表情を変えた。ジョシュアなら託せるだろう、と判断したのかルツは水色のルーン石をゴミ回収ボックスに投げ込んだ。
「別にあんたの仲間を信じたわけではないぜ。紫外線使いの味方じゃないならあんたに一つくらいくれてやっていいだろ、って判断したわけさ。せいぜい感謝しな、吸血鬼。」
その言葉を吐いたルツは乱雑にゴミ回収ボックスの蓋を閉めた。ジョシュアの視界は再び闇に包まれる。
「誰だかわからないが感謝するよ。これで、ルーン石を一つ取り戻せた。」
ルツはゴミ回収ボックスを離れ、元来た方へと戻ることにした。場所がばれてしまっては意味がないとルツは判断した。ディ・ライトを迎え撃つ。あわよくばディ・ライトを倒す。それができなくともディ・ライトをゴミ回収ボックスに近づけない。ルツはそう考えていた。
元来た場所へ向かっていると、ルツは知っている気配を感じた。紫外線使い、ディ・ライト。ルツはふっ、と笑う。ここで一泡吹かせようと考えていることはある。
「おいルツ!ルーン石はどこにやった。」
出会いがしらにディ・ライトは言った。ルツとディ・ライトの距離は10メートルほど。ディ・ライトの鞭は届かない。手りゅう弾で意味があるかもわからない。
「それはあたしを倒してから探しな。」
傷の癒えていないルツはそれもお構いなしに光の束を放つ。攻撃のタイミングを察したディ・ライトは、ルツの攻撃に合わせて距離を詰めると手りゅう弾のピンを抜いて投げつけた。金属の外装がない攻撃用の手りゅう弾だ。
ルツは飛んできた手りゅう弾を右手で受け止める。――炸裂。ルツの右手の中で手りゅう弾は鈍い音を立てて爆発した。手りゅう弾の爆風はすべてルツの手の中に納まり、彼女の手からは血がポタポタと垂れていた。
「嘘だろ……攻撃用の手りゅう弾でも吹き飛ばせねえ化け物か!?」
ディ・ライトは言う。
ルツの右手は爆発によって大きく傷つき、手のひらに至っては皮膚がなくなっているに等しい状態だった。
「そうだね、化け物だ。あんたの仕事が化け物退治ならあたしを倒してみな!ほら、完全に傷が治っていなくても倒せないのかい?」
たちの悪い笑みを浮かべたルツ。彼女は挑発している。焦りに駆られていたディ・ライトは表情をゆがめた。紫外線を放つ鞭のイデアを出し、ディ・ライトはルツに突っ込む。紫外線を浴びせて手りゅう弾で吹き飛ばす。ディ・ライトはそれだけを考えていた。
ディ・ライトがルツに突っ込む瞬間、ルツはふっと笑った。
「メンタルがなってないねえ。」
放たれる光。ディ・ライトはかろうじて光の束を躱す。だが、光の束はディ・ライトの左頬をかすめる。その瞬間にルツはディ・ライトの頭の上を飛び越え、彼の反対側へと走り出した。だが、一瞬だけルツの体は紫外線を放つ鞭に触れた。
追わねば。ディ・ライトの頭にその考えがよぎる。ディ・ライトは反対側へ走っていったルツを追い始めた。




