乱戦の始まり
本日投稿分その1です。残酷・グロテスク描写にご注意下さい。
ガタガタと音を立てて箱が揺れる。ディ・ライトは椅子から立ち上がり、臨戦態勢に入る。
「なんだ……!?」
身構えておきながら、ディ・ライトはうろたえる。いくら紫外線を扱うことができるとはいえ、吸血鬼や魔族を大幅に弱体化させるしか能はない。それに加え、日々のトレーニングの効果もむなしくディ・ライトはかつて魔物ハンターの中でもかなり貧弱な部類に入っていた。そんな彼でも戦わなくてはならない。
箱の揺れはさらに激しくなり、上の方に穴があけられた。そこから伸びる褐色の手。爪にはアーミーグリーンのネイルが施されており、手の形状から女性であると推測できる。その手はさらに箱の穴を広げる。
「クソ……戦わなければならないんだな。せめてアルセリアかアモットがいれば……」
ディ・ライトはイデアを出した。ブラックライトのように光り、紫外線を放つ鞭。吸血鬼ハンターでなければ役立てることのできない能力だ。
箱から伸びた手によって箱は完全に破壊され、中から一人の女性が現れた。彼女は褐色肌で前髪だけを虹色に染めた白髪、眉や唇の下にピアスを開けている。一言でいえばかなり前衛的ともいえる外見だった。
「……て、手品か?」
木箱の中から人が出てきたことに混乱を隠せなかったディ・ライトは言った。
「手品?違うね。あたしはとある目的があってここに来た。抵抗するかい?」
その女は言った。
「抵抗だって?それはお前次第だ。俺はアルセリアやアモットよりは敵の話でも聞くつもりだ。どうなんだ?」
ディ・ライトはその女に尋ねた。自分に戦闘の手段がほとんどない以上、穏便に解決せざるを得ない。
「あたしの目的はルーン石。ぜったいに25個揃えさせるつもりはないよ。逆に言えば1つでも奪えるのなら奪う。」
その女は言った。
「やれやれ、よりによって和解できねえ敵か。」
と、ディ・ライトも言う。彼はブラックライトのように光る鞭のイデアを出した。紫外線。その女が吸血鬼でなかったとしても、皮膚をガン化させる程度の事はできるだろう。
ディ・ライトは一歩を踏み出し、その女に鞭を叩き込んだ。その女もディ・ライトに向けて光の束を放つ。ディ・ライトは間一髪で避ける。
「紫外線……ねえ。コイツを単体で使うやつは初めてだ。あたしにとって実にタチの悪い能力だねえ。」
光の束が薄くなる瞬間、その女は言った。
「ついでに言っておくと、あたしは魔族。セリオンの洞窟に閉じこもっていたルツという魔族さ。」
「ならばこちらのものだな!」
ディ・ライトはルツに畳みかけた。紫外線を放つ鞭がしなる。その鞭の軌道を読んだルツは鞭をひょいと躱すと水色のルーン石を手に取った。
ルツはそこから窓際へ向かうと強化ガラスでできた窓を破壊して飛び降りた。
「……おいおい。ここは高層階だぜ……」
ディ・ライトはルツの飛び降りた窓から身を乗り出して下を見た。本来、人間がここから飛び降りればまず生きていられない。見るも無惨な死体となってしまうが、果たしてルツは、魔族は生きていられるのだろうか。
窓から見えるビルの下。やはりルツは落下しても無傷というわけにはいかなかったようだ。しかし、ここからのルツは人間と違った。
――腕と足が体から離れた状態の体を引きずったルツは胴体から離れた方の腕と足を手に取ると、傷口に無理やりねじ込んだ。
「……おいおい、ここまで規格外なのか。魔族ってやつは。」
ディ・ライトはそう呟くと部屋を出た。エレベーターで下に降りて、ルツからルーン石を取り返さなければならない。そのルツも再生に時間がかかるだろうとディ・ライトは予測した。
ディ・ライトはエレベーターのボタンを押し、1階へと向かう。
ルツの体全体に痛みが走る。少しでも動けるようにした結果がこれだ。地面に着地したときの衝撃でルツの体はボロボロになり、左腕と左足は一度胴体を離れ、再び強引に傷口にねじ込まれている。また、ルツのいる場所は地面に血だまりができており、その原因となる傷口は見られたものではない。
「ふう……さすがに飛び降りて追ってくることはないか。人間ってやつも難儀だねえ。」
ルツはつぶやいた。吸血鬼に比べると再生力の劣る魔族。魔族であるルツはまだ動けない。
「いや、階段で降りてくるかな?それかエレベーター。紫外線を使われればこちらも厄介だ。」
ルツはそう言うと、口から赤黒い血の塊を吐き出した。
「ぼちぼち隠れるか……」
しばらくしてビルからディ・ライトが出てきた。まず彼の目に飛び込んできたものは道路にできた赤黒い血だまり。その血だまりから路地裏に向かって、何かを引きずったような血の跡がある。その血の跡は徐々に薄くなっている。どうやら傷がふさがっているようだった。
ディ・ライトは血だまりから路地裏に続く血の跡をたどることにした。飛び降りてボロボロになった状態であれば、いくら魔族だろうと小細工は難しい。ディ・ライトはそう考えていた。
血の跡をたどり、ディ・ライトは路地裏に入り込んだ。このあたりともなると、血が滴った跡もそれほど残っていない。
「さすが魔族。噂には聞いたこともあるがどこまでも規格外だ。そもそも吸血鬼と違ってもともと人間じゃねえからな。」
ディ・ライトは言った。
街灯の光が届かない路地裏にルツの姿はない。ルツはどこへ行ったのか。ディ・ライトは継続時間がそれほど長くないイデアを出さず、血痕をたどった。




