箱
今回も宜しくお願いします!
アルセリアとディ・ライトから襲撃を受けた場所の近く。シオンとジョシュアは合流した。
「何があった?」
二人が合流すると、まずシオンが言った。ジョシュアは人間であれば死んでもおかしくない程度の傷を負っており、片手を失っていた。
「紫外線使いを相手にしたんだ……。私は紫外線が苦手でね、それを受けて再生力をなくしている。朝までに快復することはないだろう。さすがにホテルに血だまりを作りたくもないな。」
と、ジョシュアは答えた。
「ああ、そうだ。私をそこのゴミ回収ボックスに入れてくれるかい?不燃ごみの方だ。可燃ごみは明日の朝回収だからね。」
ジョシュアは続け、近くにあるゴミ回収ボックスを指さした。赤色の箱には「可燃ゴミ」と書かれ、その下には「回収日は月・木」とある。その隣にある青い箱が「不燃ゴミ」と書かれている。
「いいのか?」
シオンがジョシュアに聞き返した。吸血鬼であるとはいえ、生きている味方をゴミ回収ボックスに入れる事にシオンは抵抗があった。
「大丈夫だ。何も考えずにやれ。私にも考えがある。」
ジョシュアは答えた。シオンはしばらく黙りこみ、頷いた。
「生きて合流するぞ。敵との相打ちはナシだからな。」
そう言うと、シオンはジョシュアを背負い、青いゴミ回収ボックスのところまで歩いていく。蓋を開けて中にジョシュアを座らせる。
「ありがとう。これでやり過ごせるはずだ。」
ジョシュアのその言葉を聞きながらシオンは蓋を閉めた。もちろんジョシュアは生きているが、シオンは棺の蓋を閉める納棺夫の気分にでもなったような気がした。
高層ビル――アルセリアやディ・ライトが滞在するホテルの一室にアモットが戻ってきた。彼は大きめの木箱を台車に載せて持ってきている。不気味な木箱は差出人がわからず、ただ「受け取り拒否はできない」との話だったという。
「それにしても不可解な話だな、アモット。そいつは爆発物じゃねえんだろうな。」
ディ・ライトは言った。彼はこのレムリア大陸における郵便物について一通りしらべていた。そのうちの、爆発物を郵便として運ぶことはできないことも知っている。だが、アモットの持ち帰ってきた木箱はあまりにも怪しい。
「爆発物ではないだろう。受け取り場所からしてその可能性はない。それよりもヤバイものだと俺は思う。病原体とか毒ガスとかな。」
アモットは言った。
病原体にしろ、毒ガスにしろ、危険であることには変わりない。特に毒ガスは政府を襲撃した危険な組織が使っていることもあり、恐れられている。
「ミャァアー。」
アルセリアの猫、アビスが箱をカリカリと引っかきながら何かを伝えようとしている。アルセリアは何かを察したように、アビスに近寄った。
――この中にあるものは生きている。アビスに正確なところはわからなかったが、中身には脈拍と細胞がある。
「もう一つの可能性もあるのだけど、言っても驚かないかな。」
アビスを肩に載せるとアルセリアは言った。
「ああ。続けていいぞ。」
と、アモット。
「この中身、爆発物でも毒ガスでも病原菌でもない。生き物が入っている。既存のよく知られた生き物とは違う……人工生命体か魔族が妥当じゃないかな。」
アルセリアが言うとアモットは顔をしかめた。百歩譲って人工生命体であれば理解できないこともない。だが、アルセリアは「魔族」とも言った。魔族はこのレムリア大陸において知らない者も多く、伝承の存在と考える者も多い。アモットも魔族を伝承だけの存在であると信じていた。
「アルセリア。今俺たちは神話や伝承の世界にいるわけじゃないんだぜ。」
アモットはアルセリアの話を信じる気になれず、そう言った。ここでアルセリアは思い出す。自分自身は別の世界から「穴」を超えてやってきた。知られている生命体の範囲も違っていて当然なのだ。
「そうだよね……私やディ・ライトの常識はあんたに通用しない。でも、その中身が安全である保障なんて、どこにもないから。」
アルセリアは自分が折れたような気分だった。それでも箱の中身に対して、嫌な予感しかしなかった。
「わかった、わかった!それで、ルーン石は集まったんだろうな!俺も昼間に二人の魔物ハンターから奪ったぞ!」
アモットは強引に話の内容を変える。
「もちろん。これで全部そろうんだろう?」
と、ディ・ライトは答えた。
「そうだな。早速、ビリー・クレイに連絡だな。直接アンジェラ様に渡せばいいものを。」
アモットは紙を取り出し、それに連絡内容を書いた。
――ルーン石は集まった。いつそっちに渡せばいいか?
短い文を手紙に書くと、アモットはそれを紙飛行機の形に折り、空中に飛ばした。折られた手紙は空気の流れだけを残して窓から外に出て行った。
「さて、あとはビリーの連絡を待つだけだな。俺は少し出かけてくる。どうせ手紙は俺のところに来るんだからな。」
アモットはそう言って、再び外に出た。
「ディ・ライト。あんたにならルーン石は任せられる。私も杏奈を倒しに行く。」
アルセリアも言った。ディ・ライトとしては止めたいところだったが、彼女の性格を知るディ・ライトはあえて引き留めなかった。
アルセリアもアモットに続いて外に出た。
「やれやれ、俺だけが残ることになったか。箱とルーン石は見張っておくよ。」
ディ・ライトは部屋の椅子に腰かけた。
不気味に置かれた台車と箱。そこから漂う異様な気配。ディ・ライトは嫌な予感しかしなかった。
そして、早い段階で箱に異変が現れた。




