ルーン石
残酷描写が酷いです。ご注意の上、覚悟のある方のみどうぞ。
鞭打ちで皮膚がヒリヒリと痛む。これまで痛覚を無視していたジョシュアだが、再生力をそがれた今は痛みがジョシュアを刺す。
光の鞭によってジョシュアの皮膚が裂ける。
「やはりつらいな。再生ができない分厄介だ。」
体から血を流しながらジョシュアはディ・ライトとの距離を取る。そんなジョシュアにディ・ライトは無理をしてでも詰め寄る。本来は苦手としている接近戦。加えて相手は吸血鬼である。ジョシュアにはディ・ライトの意図を読めなかった。
だが、ジョシュアはディ・ライトの作戦に気づく。――手りゅう弾だ。手りゅう弾が視界に入った瞬間、ジョシュアはイデアを展開した。緑色のスライムがジョシュアとディ・ライトの間に展開される。
「甘いぜ、ジョシュア。」
この声とともに、手りゅう弾がジョシュアに投げられた。ディ・ライトは素早く距離を取り、近くの車の影に隠れた。手りゅう弾が爆発。破片がジョシュアの展開したスライムとジョシュアの持っていたルーン石を吹き飛ばす。そのタイミングを見計らったディ・ライトは車の影から出ると再び攻撃に入る。今度は鞭。ディ・ライトはあえて攻撃を外したが、その意図にジョシュアも気づく。
(鞭……先に手りゅう弾……!?)
ジョシュアが手りゅう弾の存在に気づいたときには遅かった。消える鞭のイデア。ジョシュアに向けて手りゅう弾が突っ込んできた。そして、爆発。
「ぐっ……」
爆風と衝撃波がジョシュアを襲う。その衝撃でジョシュアは人間であれば致命傷に値する傷を負った。再生はできない。もどかしい思いを押し殺してジョシュアは無理やり立ち上がった。激しい出血。赤黒い血が舗装された道路にビチャビチャと滴る。
――これほどの苦戦は初めてだ。初見の敵であれば、自分が吸血鬼であることもあって簡単に倒すことができた。この相手、ディ・ライトは非力な存在ではあったが、自分が彼を敵に回すことになればこの上なく厄介な敵となる。
ジョシュアは再びイデアの展開を試みる。だが、思ったように展開できない。神経が分断されたかのように、イデアへの意識が途切れている。
ジョシュアの様子を察したディ・ライトはイデアも出さず、丸腰のまま彼に近づいた。
「済まねえな、ジョシュア。」
この言葉をかけたディ・ライトはジョシュアの落としたルーン石を拾う。全部で5個。それらはジョシュアの血と肉で赤く汚れていた。
「……ディ・ライト……何を間違えたんだ……?」
赤い血の塊を吐き出したジョシュアは言った。ディ・ライトが見ても、彼が立っているだけで限界であるとわかる。再生力のない吸血鬼は脆い。たとえ致命傷を負って生きていられても、再生力がなくなれば痛みと疲労にはあらがえなくなる。たとえ不老不死であろうとも。
「さあな。俺の目的はあくまでもルーン石。手に入れたんだから殺すまではしなくていいよなあ?」
そう言ったディ・ライトはジョシュアにとどめを刺すことなく去ってゆく。その姿をジョシュアはかすむ視界の中、じっと見ていた。
時を同じくして、シオンはアルセリアの後を追う。路地裏に逃げこんだアルセリア。彼女のいる路地裏から得体のしれない風が吹く。
すぐに乱気流がシオンを包み込んだ。彼が気流に紛れてみた者こそがアルセリア。彼女の背には伝承の風妖精を思わせる翅が生えていた。
「アルセリア……」
シオンは気流に巻き込まれたまま言った。
一方のアルセリアはシオンに瞬時に近づいて突き飛ばすと、どこかへと消えた。彼女には初めからシオンと戦うつもりなどなかったのだ。シオンは気流が乱れる中、立ち上がる。遠ざかるアルセリア。
風が止んだ。茫然とした表情のシオンはしばらくその場所に立ち尽くす。アルセリアがどこへ行ったのか、シオンにはわからなかった。
ジョシュアが致命傷を受けた場所から400メートルほど離れた場所でアルセリアとディ・ライトが合流する。
「ディ・ライト。私もルーン石を奪ってきたよ。」
先にアルセリアは言った。彼女はシオンが持っていた『ウルズ』のルーン石を見せた。朱色の石は夜の町の光を受けて輝く。
「よし、でかしたぞ。俺もジョシュアからルーン石を奪っておいた。ついでに致命傷も負わせた。」
ディ・ライトは言った。彼自身が施した濃い化粧のためわかりにくいが、ディ・ライトは確かに陰鬱な表情を浮かべていた。彼の中には後悔がある。
「昼にアモットが奪ったものと合わせて13。つまり25個すべてそろう。俺たちの勝ちだな。」
ディ・ライトは続ける。
「で、本当は?」
そのディ・ライトの表情に気づいたアルセリアはディ・ライトに聞き返した。ディ・ライトは何も言わなかった。
「黙っていてもいいよ。別に。どうせビリー・クレイにこれを渡せばいい。簡単なこと……」
アルセリアは言った。
アルセリアとディ・ライトの二人はただ、アモットの帰りを待っていた。彼はある荷物の受け取りに出ているようだった。




