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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
アナザーパーティ編
62/107

アンジェラとアルセリア

本日投稿分です。

この部分の途中までアルセリア視点の一人称となります。

「穴」に引きずり込まれてたどり着いた場所から10キロメートルほど離れた町。その町はタリスマンという町であり、住宅が立ち並ぶが元の世界のディサイドほど発展した場所ではなかった。

 私がドリーに連れられた先には洋館があった。赤レンガ造りで整備された庭つきの洋館だ。ドリーはドアを開け、中にアルセリアを案内する。中は暗く、光を嫌う者が住んでいそうな場所だった。正直なところ、私には暗くて様子が見えなかったが。


 ドリーは洋館の一室のドアを開けた。ひんやりとした空気が流れ出る。ぼうっとした明かりの奥、アルセリアの知る人物がいた。アンジェラ・ストラウス。彼女は椅子に腰かけ、ティーカップに入った赤い液体を口にしていた。


「来てくれたのね、アルセリア。」


 薄明りに照らされたアンジェラは私の目の前でティーカップをテーブルに置いた。7年ぶりに会うアンジェラ・ストラウスは人が変わったかのように美しかった。憂いを帯びた目は赤く、吸血鬼のよう。


「お久しぶりです、アンジェラさん。」


「久しぶり、アルセリア。」


 アンジェラは言った。私は今気づいたが、この肌寒い部屋の中でアンジェラは薄着。吸血鬼は温度変化を気にしない、寒がりや暑がりではないことを思い出す。私の中に一つの疑惑が浮かぶ。人が変わったかのような外見、気温に見合わない薄着、彼女の飲んでいる赤く濁った液体。アンジェラ・ストラウスは吸血鬼なのではないか?私は軽く寒気がした。


「あら、恐れることはないわ。もっとこっちに来ていいのよ。」


「はい……。」


 彼女の得体のしれぬ説得力と迫力と強制力に押され、私はアンジェラに歩み寄った。アンジェラが私に触れられる距離にまで近づくと彼女は私の頬に優しく触れた。冷たい。人間の体温というレベルではない。


「あの、アンジェラさん。貴女は人間なのですか……?」


 私はこのことを聞きたくなかった。人間の味方を名乗っていたアンジェラ・ストラウスが人間であるか確かめるなど、したくなかった。


「違うわ。私はもはや人間ではない。ごめんね、アルセリア。鮮血の夜明団に戻れと言われてもできないわ。私はあちら側の世界を壊す。こちら側を真に正しい世界とするの。あちら側は、寛容ではないから。」


 この言葉を発したアンジェラはどこか世界に失望したかのようだった。私はまだあちら側・こちら側を理解することができていなかったが、アンジェラの目的はどことなく理解できた。世界が寛容でないことくらい、私も11歳までに思い知ったから。


「そこで頼みがあるの。私に協力して。貴女はこちら側で生きるべき人間。世界を壊すときに貴女を壊したくないの。私、貴女を助けたでしょう?」


 アンジェラは言った。彼女の言うことはあまりにも利己的でねじ曲がっている。それでも私はなぜか「はい」と言っていた。とにかく、彼女のために動かねば。彼女に恩を返さなければ。それしか考えていなかった。

 怖い。アンジェラの強制力とカリスマ性は私をいとも簡単に従わせた。


「ありがとう、アルセリア。貴女は信じているわ。」


 こう言われたのだから、私はもはや後に引けない。私は覚悟を決めた。




「猫……」


 杏奈はつぶやいた。杏奈目の前を通り過ぎた猫はいわゆるサバトラの猫で、マゼンタの首輪をつけていた。紛れもなく昼間、杏奈に手紙を持ってきた猫だ。


「追いかけるぞ!」


「うん。私が先に行く。」


 杏奈とジョシュアは猫の後をつける。町の曲がり角を曲がった時、杏奈は妙な空気の揺らめきを感じた。何か来る。杏奈は身構えた。ジョシュアはまだ曲がり角を曲がっていない。


「よかった。ジョシュアではないか。」


 特徴的な上着を羽織った20代前半くらいの女が杏奈の目の前に現れた。彼女の肌と髪は色素が失われたかのように白く、目は血のように赤い。さらに、彼女の傍らには杏奈が見た猫がいる。


「聞きたいことが二つある。タワーに来てって手紙を送りつけたのと、アルセリアという人物はあんたでいいのか?」


 杏奈は尋ねた。


「どちらも私だよ。もっとも、私がお前たちに協力するつもりはない。むしろ敵だ。タイミングが悪かったね。」


 ゆらり。空気が揺らめいた。アルセリアと名乗った女の背には伝承に出てくる風妖精を思わせる翅が。


 3秒後、風の大砲が放たれる。風速にして105メートル。範囲は狭く、杏奈はそれをかろうじて避けたものの、彼女の後ろにあったビルは破壊された。


「避けたね。お前の実力は聞いている。元の世界にいた時はイデアもなしに6年も魔物ハンターをやってこれた。すごいよ。」


 感情をこめず、淡々とアルセリアは言った。彼女の話し方はあまりにも無機質で、杏奈は恐怖すら覚えた。アルセリアは一体何を考えているのか。

 杏奈はアルセリアが何もしない瞬間を狙って接近し、鉄扇を開いて切り付けた。アルセリアの頬が裂け、鮮血が流れ出る。白肌に鮮血は映える。アルセリアは無言で杏奈をはねのけた。


「アルセリア……!」


「またね、神守杏奈。今度はタイミングがいい時にお前を殺す。今日の私は調子が悪い。」


 アルセリアは風を纏いながら牽制し、杏奈の元から去る。


「私は、この状況にどう向き合えばいい?」



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