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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
アナザーパーティ編
61/107

アルセリアの記憶

続けてもう一話投稿します。

この話と次の話の途中まではアルセリア視点の一人称部分となります。

 杏奈とジョシュアを見ていた女、アルセリアは複雑な心境だった。


「私はジョシュアに牙をむくことができるの……?」


 アルセリアの脳内にこれまでの記憶が走馬灯のようによぎる。



 ――2月半ば頃のスリップノットの海岸線。冬の終わりの冷たい風が私の頬を撫でる。私の前を行く3人の男たちはそれぞれ二コラ・ディドロ、ジョシュア・ノートン、ディ・ライトという。私も含めて全員が鮮血の夜明団に所属する魔物ハンター。

 私たちがなぜ海岸線にいるのかというと、最近開いたとされる異界への扉とその影響を調査するため。夜の海岸線を私たちは注意深く歩いていた。もちろん、私は猫のアビスもつれている。アビスは私たちと連携する大切な仲間なのだ。


「海流に変化あり。そちらはどうかな。」


 調査用の器具を見たジョシュアは言った。


「固有種の魚の個体数が大きく減っています。あと、風向きに異常があるくらいです。」


 私はそう答えた。ある時――私が11歳の時に輸血を受けた時から、私は不思議な力を使うことができる。まず、どんな精密な器具よりも正確に風向きを読むことができること。それから、魔法でも錬金術でもない正体不明とされるエネルギーの流れで風を操ること。それらもあって、私は魔物ハンターとして活躍していた。


「よくわかったなアルセリア。こっちの器具では数値が微妙すぎてわからずじまいだったぞ。」


 パステルカラーの複雑な色合いをした青年、ディ・ライトが言った。彼の持っている器具は暗くてよく見えなかったが、発言からしてまともに計測できなかったのだろう。


「ありがとう。私は目があまり見えないけれど役に立ててるよね。」


「もちろん。」


 私は顔があまり見えていないなか、ディ・ライトと言葉を交わしていた。

 そんな中、私はさらなる異変に気付く。私は輸血によって得た力のビジョンを出し、周囲の様子を探る。風向きは確かに変わっているが、それ以上の何かがある。空間がゆがめられているような。


「おい!アルセリア!気をつけろ!」


 二コラの声だ。空間がゆがんでいる方向から聞こえてくる。

 私は後ろを振り向いた。そこには年齢のわからない、少女のような人物が立っていた。彼女の周囲には黄色の霧が立ち込め、光で姿はわかる。金髪で、黄色の服に身を包んだ女。私はその人を知っている。ドロシー・フォースター。


「この先楽園につき……」


 彼女の言葉が途切れる。


「アルセリア!何が……」


 このとき、アビスも「フーッ」と唸っていた。状況が良くないことくらい私にもわかる。私が聞いた声はそれで一度途切れた。体が揺さぶられる感覚に陥り、穴に引きずり込まれる。めまいと頭痛に襲われ、私の意識は遠のいていった。



 目が覚めた場所はとある都市。私の知っているディサイドの町に似た場所だ。時間は深夜頃で、ちょうど街灯や24時間営業の店の明かりが私を照らしていた。

 私は顔を上げて周囲の様子を探る。変わったところはそれほど見受けられないが、元いた場所に比べれば暖かい。少なくとも、冬の夜の気温ではないのだ。時期としてはだいたい3月初めくらいだろうか。


 体を起こし、上着を脱いで付近を歩いていると、海岸線で出会った女ドロシー・フォースターが視界に入った。3階建ての店舗の屋上に腰掛け、こちらを見下ろしている。


挿絵(By みてみん)


「ドロシー……さん!?私を覚えていますか!?」


 私はその時、行方不明者を発見して浮かれていたのだろう。もっと言えば、優先順位を間違えていた。


「誰。わたしはあなたを見たことがないわ。」


 彼女はそう返した。


「どうしてですか!?あなた、私を知っていますよね!?アンジェラさんに廃棄所で助けてもらったアルセリアです!」


 私は必死にそう返した。すると、彼女は何かを思い出したかのように屋上から飛び降り、私に近寄ってきた。


「あなたは知らない。でも、アンジェラがあなたを探していたわ。やっと見つけた。」


 彼女は私の言葉を聞いて態度を変えた。


「そうそう、この子もあなたを探していたわ。大切な相棒なんでしょう?」


 彼女が言うと、その後ろからサバトラの猫が現れた。マゼンタの首輪をしている猫。間違いなくアビスだ。アビスは私を見て「にゃあ」と鳴き、私に近寄ってきて足にすり寄った。私はアビスを抱きかかえ、肩に載せた。ふさふさとした毛並みが私の首筋に触れる。


「無事でよかったわね。アンジェラの言っていた猫好きの魔物ハンターはあなたでしょう?」


 私はそう言われて頷いた。


「よかった。私はドリー・フォースター。アンジェラ曰く、こちら側のドロシー・フォースター。アンジェラがいた世界のドロシー・フォースターはもう死んでいるわ。でも、私をドロシーと呼んでくれてもいいわ。さあ、行きましょう。」


「わかりました。」


 私はドリー・フォースターという人物に連れられてアンジェラのいる場所に向かうこととなった。彼女の雰囲気は独特で、どこか人間離れしたものを感じさせた。吸血鬼である二コラやジョシュアの方がまだ人間味を感じさせる。私はドリー・フォースターが人間なのか終始疑っていた。



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