表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
アナザーパーティ編
60/107

力の使い方

注意!

今回の話はグロテスクな描写を含みます。耐性のある方のみどうぞ。

 ジョシュアに向けられた銃口は光を帯びる。ジョシュアはその瞬間に光の正体を知る。吸血鬼の弱点とする光。ジョシュアはメックスの銃を奪うべく、間の距離を詰めた。それと同時に銃弾が放たれる。


「ジョシュア!!!」


 エレベーターの中で杏奈は叫ぶ。ガラスに遮られて声は届かない。杏奈の叫びはエレベーターの中だけにむなしくこだまする。杏奈はわかっていた。メックスの使う弾丸はイデアそのものである。ジョシュアが弾切れを待っていたとしても意味はなかった。


 ジョシュアが銃を破壊したと同時に彼の頭をかろうじて光の弾丸がかすめる。光の弾丸がジョシュアの頭を浸食し、その部分だけがえぐれたようになった。血が噴き出し、脳も露出している。ジョシュアはふらつき、ぼうっとした目でメックスを見た。


「やれやれ……君のような相手が私の味方であればどれほど心強いものか。」


 ジョシュアは地面に尻をつく瞬間にイデアで壁を張り、メックスの銃から放たれる光の弾丸を防ぐ。そのさなかにジョシュアの受けた傷は少しずつ癒えてゆく。損傷した脳が修復され、さらに頭蓋骨、皮膚。光で浸食された部分の傷は残っているものの、髪が血でぐっしょりと濡れた状態でジョシュアは再び立ち上がった。


「嘘だろ……吸血鬼は光に弱い……お前は何者なんだ……」


 動揺したメックスは言った。もともと整っていた顔が動揺によってゆがむ。彼が相手にしていた者は化け物の部類に入る。


「魔物だ。私や杏奈に危害を加えなければこれ以上の攻撃はしない。どうなんだい、メックス。アルセリアの居場所を教えてくれないか?」


 自分が優位に立てるからこそ、ジョシュアは言った。彼は快楽殺人者ではない。強い者がどうあるべきか理解し、この戦場に立っている。彼の鋭い目はしっかりとメックスの心のうちを見据えている。


「はぁ……アルセリアはお前に会いたくないらしい。このタワーにもいない。残念だったな。」


 ジョシュアが優位に立った状況でもメックスは抵抗する姿勢を見せた。メックスは上着に忍ばせていた銃を抜くと再びジョシュアに向け、発砲。光の弾丸がジョシュアに吸い寄せられるように撃ち出される。ジョシュアはイデアで受け止めた。


「どうしてもというのか。私も容赦はしない。吸血鬼と人間の差をここで知る事だ、メックス。」


 本気を出そうとしたジョシュアを前にして、メックスはさらに銃弾を撃ち込む。今度の銃弾はジョシュアのイデアをも貫通するものだ。ジョシュアに銃弾が撃ち込まれ、彼の体から出た血で展望台のフロアと窓ガラスが赤く染まる。


「口ほどにもないな、吸血鬼。あとどれくらいで死ぬんだ?」


 メックスは言った。ジョシュアの傷は塞がっていくものの、再生スピードは落ちている。彼自身の再生力が落ちてきている証拠だ。ここでジョシュアは手刀まがいのやり方で自らの口を裂く。


 イデアを出したままのジョシュアは再びメックスに詰め寄った。ジョシュアの右腕がメックスの右腕をつかむ。メックスの右腕は本来ありえない方向に曲がり、鈍い音がした。さらに、メックスはもう一つの痛みを知覚する。――脇腹を蹴られ、内蔵と肋骨がぐちゃぐちゃになる。口から血を噴くメックス。ジョシュアは彼の首根っこを掴み、牙を首筋に突き立てる。


 杏奈はその様子を見ていることしかできなかった。ジョシュアは吸血鬼。杏奈はそれを理解していた。理解したうえで同行させていたが、エレベーターの窓ごしに吸血鬼の恐怖をひしひしと感じている。本来、人間の感覚はこうなのだ。



「終わったよ、杏奈。私が怖いかい?」


 メックスの遺体を抱えたジョシュアはエレベーターのドアを開けて、中に入る。ところどころ血で濡れたジョシュアは杏奈を気にしているような目線を彼女に向けた。


「……こんな事を言っていいのかわからないけれど、違いを突き付けられた気分だね。人間は吸血鬼の前に、こうまで無力だなんて。」


 杏奈は迷いを含んだ声で答えた。彼女の声は震えている。


「べつに、あんたが怖いわけじゃない。むしろ頼もしい。私が怖いのは、いずれ戦うことになるアンジェラ・ストラウスやドロシー・フォースター。」


 杏奈は続ける。光の魔法もなしに吸血鬼であるアンジェラ・ストラウスやドロシー・フォースターと戦うことはあまりにも無謀だ。ジョシュアの一方的な力の振るい方を見たアンジェラにその事実が突き付けられた。


「何を言っているんだい?君は一人で戦っているのではないだろう。私や二コラもいる。シオンもグランツもノエルも。我々が6人で戦うんだよ。」


 ジョシュアはメックスと戦っていた時とは打って変わって優しい口調で言った。


 エレベーターは地上へ向けて動き出し、周囲の景色がみるみるうちに変わる。だが、窓にまでめり込んだ銃弾の跡は変わらず、ジョシュアとメックスとの戦闘の凄惨さを物語る。


「さて、アルセリアを探そう。私も感情的になりすぎてしまったね。」



 エレベーターを降りた二人はタワーの外をもう一度確認してみた。

 アルセリアらしき人物はいない。


 ジョシュアはそっとメックスの遺体を地面に寝かせた。


「杏奈。猫も探してみようか。アルセリアは猫と協力して索敵をしていた。彼女は目があまりよくないからね。」


 と、ジョシュアは言った。


「そうする。アルセリア本人は分からなくても、彼女の猫はわかる。マゼンタの首輪をつけたサバトラの猫でしょ。」


「ああ。猫を見かけたら追いかけてくれ。」


 杏奈は頷いた。杏奈とジョシュアを取り巻く空気がほんの少し揺らめいた。




「ジョシュア……」


 杏奈とジョシュアを、猫を肩に載せた女が見ていた。



紹介

メックス

弾丸のイデア

密度:並 展開範囲:拳銃と弾丸の射程距離次第 継続時間:10分 操作性:並 隠密性:良

弾丸そのものがイデア。銃弾に込めながら撃つことができるので装填不要。通常の弾丸、貫通する弾丸、光の弾丸の3つがある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ