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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
支配された町編
54/107

役所へ

あと3,4話くらいで市街戦パートが終わります。

その後はいよいよラスボスの気配が濃厚になります!

「今夜か……」


 夕暮れ時の町の様子を見ながらグランツは言った。

 西の地平線に沈むかけた太陽が町を赤く照らす。本来であれば人通りが多く、にぎわっているはずの町には人がほとんどいない。


「まさにゴーストタウンだね。」


 杏奈も言った。彼女はところどころ焼け焦げた紙を左手に持っている。グランツはその紙が目に入り、何か不思議に思っているような顔をした。


「それ、なんだ?」


 グランツはすぐさま杏奈に尋ねた。杏奈にも「それ」が何なのかはわかる。


「二コラからさっき手紙がとどいた。暗くなったら皆で読もうかと思ってね。」


 と言った杏奈はグランツに手紙に書かれた名前を見せた。筆跡も綴りも二コラのもので間違いない。


 杏奈はジョシュアが夕暮れ時を嫌っていることを知っている。そもそも会長のような知識のある吸血鬼は基本的に夕暮れ時を嫌う。その時間に油断して死亡する吸血鬼が多いと言う事を知っていれば自然な事だという。

 だからジョシュアは今、光の差し込まない場所にいる。



 2時間ほどして、ジョシュアが奥の部屋から出てきた。すでにあたりは暗くなっているが黒い外套を纏っている。


「どうしたんだ、4人で集まって。」


 ジョシュアは言った。


「待ってたぞ。これから二コラの手紙を読む。」


 シオンは言った。

 シオン以外の3人はビルのロビーにある椅子に座っている。ジョシュアも状況を察し、椅子に座る。


「よし手紙を開くぞ。」


 シオンが言うと、杏奈は手紙を開いた。焼け焦げた紙には二コラのよく使う独特な魔法陣が描かれている。


 ――今俺が何をしているのかというと、自分で蔦を燃やした時の炎を鎮火しようと試みている。はっきり言って、俺にも燃え広がった炎を扱うことはできない。ここまで燃え広がるとは思わなかった。

 俺も炎の中から脱出できれば必ず合流する。だから、お前らは早くアヴラズを討て。約束だ。


 手紙にはこう書かれていた。耐火の魔法を施されているにもかかわらず、ところどころ焼け焦げた手紙は火災の壮絶さを物語っている。


「……勝手なことを。」


 ジョシュアは手紙に目を通し、つぶやいた。


「さて、行こう。早くしないと夜が明けるぞ。」




 一行は地図に従って進み、役所に到着した。役所はそれなりの敷地面積を持つようで、敷地には様々な植物が植えられている。建物の入口は南側。


「目的とする建物に侵入するときは屋上から入るか壁を破壊して入るのが定石だそうだ。」


 敷地内に立ち入ると、ジョシュアは言った。

 驚くほどに人がいない。ダミーにしてもおかしいとジョシュアは感じていたが口には出していない。


「だったら壁を壊して入ろう。俺たちは空を飛べるわけでもない。」


 シオンも言った。それにはほかの4人も賛成する。


 ジョシュアは4人の前に立つとイデアを出した。緑色透明のスライムのビジョンが現れる。ジョシュアはスライムのビジョンを壁にぶつけた。

 壁がみるみるうちに溶かされる。20秒ほどでジョシュアが通れるくらいの大きさの穴が開いた。しかし、ここからが問題だった。

 スライムを通して何人もの敵が見える。彼らは銃などを持っていた。


「ここは私だけでやる!敵を倒してから突入するぞ!」


 ジョシュアは叫んだ。

 ――来る。


 一度ジョシュアはイデアを消すと数人が出てくるのを待った。ジョシュアの期待通り、住人たちはなだれ出てくる。

 待ってましたと言わんばかりのジョシュア。再びイデアを出すとなだれ出てきた住人たちに容赦なくぶつけた。

 スライムのビジョンがぶつけられた場所は溶けて消滅する。それが人であろうともジョシュアはあえて気に留めようとはしなかった。


 その様子を見たノエルは思わず口を覆う。目的のために手段を選べないことがある。それが魔物ハンター。人が死ぬところに慣れていないノエルにとって、この様子は非常に酷なことだった。


「……大丈夫。私は大丈夫。」


 自分に言い聞かせるようにノエルはつぶやいていた。その様子を見ていた杏奈はそっとノエルに近寄り、手を握った。


「見たくないものを見て精神をすり減らすこともない。あんたは魔物ハンターではないんだから。」


 杏奈は言った。魔物ハンターの現状を知る杏奈だからこそノエルを気遣うことができるのだ。



「これで終わりか。」


 ジョシュアはつぶやく。彼の前に遺体は1体たりとも転がっていない。それでも彼の顔には返り血が付き、床には血だまりができている。


「ありがとう。先に進もう。」


 杏奈は言う。

 一行は壁に開けられた穴を通って役所の内部へと侵入した。ひっそりと静まり返った役所の中。今ここにいる5人以外の呼吸が全く聞こえないくらいに人気がない。ティアマットの人口を考えてもおかしいと杏奈は感じていた。もちろんあの人数で終わりではないのだろう。


 受付の窓口、書類整理などの作業をする部屋、トイレ、食堂など、一行はくまなく探し回った。だが、顔も知らない肝心のアヴラズの姿がない。


「ここが階段か。」


 一行は1階の探索の最後、階段へとたどり着く。月明かりに照らされた階段はえらく不気味で、何が起きてもおかしくないような雰囲気だった。

 ここでグランツは階段に足をかけようとする。


「待つんだ。」


 グランツの後ろからジョシュアが声をかけた。


「なんだよ。早くいかねえと駄目なんだろ?」


「そうじゃない。階段には罠が仕掛けられていることが多い。下手すれば我々が全滅するかもしれない。」


 ジョシュアが言うとグランツはほんの少し後ろに下がった。全滅という言葉が堪えたのだろう。


「階段の攻略は3人がいいと聞く。私とノエルとシオンが先に行こう。杏奈とグランツは安全が確認できてからだ。」


 状況がわからない以上、この編成が最良なのだと杏奈も理解している。だが、杏奈はもどかしさを募らせていた。


「わかったよ、グランツ。」


 杏奈はくやしさを噛み殺して答えた。


「お前たちはアヴラズにとどめを刺せばいい。」


 と、シオンは言った。

 そして3人は階段に突入する。真っ先にジョシュアが階段に足をかけると何かが作動した。――小型爆弾だ。ジョシュアの足元でそれは爆発した。小型とはいえ、人を殺すための機能は十分に備えているようだった。



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