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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
支配された町編
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小指

PCのフリーズもありましたがなんとかなりました。お騒がせしました。

 地下道へと続く階段から灰色の煙が上る。階段付近の建物に身を潜めたジョシュアはその様子をじっと見ていた。


「何が起きているのかわからないが……無事であってくれ。」



 杏奈とノエルは潜伏場所の近くまで戻ってきた。

 杏奈が先に階段を降りようとしたが、ここで違和感を覚える。

 熱い。地下から熱気が上ってきているような熱さだ。不審に思った杏奈は地下道の入口の壁に触れた。火傷するほどの熱が杏奈の手に伝わり、杏奈は思わず手を離した。


「そんな……」


 杏奈はつぶやいた。地下にはエステサロンがある。杏奈たちの潜伏場所はそのエステサロンだったが、今は入ることができない。


「杏奈!ジョシュアさんが呼んでる。」


 ノエルは言った。杏奈は引き返し、ノエルの隣に立った。ノエルの視線の先には外套を纏ったジョシュアがいる。彼がいるのはコンクリート造りのビルの中。ガラス張りになっている部分から少し顔が見えていた。彼は杏奈とノエルに気づき、手招きをした。

 杏奈とノエルはジョシュアのいる方向へと歩いていく。



 コンクリート造りの建物はところどころガラス張りになっており、ガラスには特殊なフィルムが貼られている。このおかげで強い光が入ってこない。また、床は大理石のような石でできている。ところどころ何かに溶かされた跡も見受けられる。きっとジョシュアが何かしたのだろう。

 その大理石のような床にシオンとグランツが寝かされていた。二人は寝息を立てており、今目を覚ますような様子はない。


「先輩とグランツに一体何が?」


 杏奈はジョシュアに尋ねた。


「敵襲にあってね。生命力を奪うイデアにやられた。いつ回復するのかはわからない。二コラも地下でそのイデアの処理をしている。最悪、我々にも影響が及びかねないってね。」


 ジョシュアは答えた。彼の発言、二コラが戻らないことからして状況が良くない事は杏奈とノエルにもわかる。


「わかった。今は二コラが戻るのと、二人の回復を待った方がいいんだね。」


 杏奈は言う。


「それがいい。ノエル、この建物にいた人たちは全員外に出したから、建物の周りに罠を仕掛けてくれるかい?」


「ええ。」


 ノエルが頷き、コンクリート造りのビルの外に出る。ガラスとフィルム越しにしても、彼女の様子が見て取れる。

 今は待つことしかできない。シオンとグランツの回復を。二コラの帰りを。杏奈は再び無力感にさいなまれることとなった。杏奈はただ、頭を抱えていた。




 シオンとグランツが目を覚ましたのが夜の11時を過ぎてから。その時間になっても二コラは戻らなかった。相変わらず地下道への階段からは灰色の煙が立ちのぼっている。


 そして、5人で話し合った結果、次の夜に役所へと向かうことを決めた。




 ティアマットの町の役所に一人の男が立ち寄った。その男は青い髪をポニーテールにしており、執事のような服を身に纏っていた。

 彼は靴の音を響かせながら役所の3階に向かった。


「時間が空きましたから拝見に参りました。」


 その男、ビリー・クレイは言った。彼は紳士的な態度の奥に眠る狂気を隠しきれていなかった。いくら表面上は隠せたとしても、いずれボロが出る。


「調子はどうですか、アヴラズ。アンジェラ様の気に障る事は行っていないでしょうね?」


 アヴラズというソファに座った男にビリーは言った。アヴラズは無造作に伸ばした金髪を垂らし、不精ひげを生やしている。眉毛を整えさえすれば「かっこいい」部類に入る男であるが、どうも怠惰に見える。


「した覚えはねえよ。第一俺が面倒なことをするか?アンジェラが俺に1億デナリオンくれるだけの事以上するか?」


 アヴラズは「やれやれ」と言いたそうな顔で言った。

 ビリーもアヴラズの言い分はよく理解できた。そもそも、アヴラズとビリーは面識がある。初対面の時からアヴラズがものぐさであることを知っていたビリーはこれ以上何かを聞くことをやめた。


「それでは健闘を祈ります。彼らは各地での様子を聞く限り相当な手練れだ。一人でも殺してくれればそれでよいのですよ。」


 ビリーは言った。


「全く、お前もアンジェラも腹の底が読めないぜ。第一アンジェラも実在するんだろうな?」


 このアヴラズの発言で、ビリーは眉をぴくつかせた。アンジェラの存在を疑う発言はビリーの心のバランスを崩すに十分だった。


「貴様、アンジェラ様を疑うというのか。」


 ビリーは自身の周囲にキューブのイデアを出した。青色のキューブは柔らかいように見えて堅く、何か得体のしれない空気を醸し出していた。それはまるで、ビリー・クレイ本人の思考のよう。

 アヴラズがビリーに釘のようなものを刺そうとした瞬間、釘のようなものがキューブに取り込まれた。


「俺のイデアが!?」


 戸惑うアヴラズにビリーは冷ややかな目線を投げかけた。


「落とし前は自分でつけろ。貴様にアンジェラ様に雇われるだけの力があるのか、自分で照明しろ。」


 アヴラズが抵抗したときにはもう遅かった。

 切り取られるアヴラズの小指。切り取られた小指はビリーのキューブの中に納められていた。

 アヴラズの手からは血がポタポタと滴っている。


「ビリー……俺を殺すとアンジェラの戦力が減るぞ!」


 アヴラズは痛みをこらえながら言った。


「わかっています。だから小指だけにしておきました。本当は半身でもよかったのですよ?」


 ビリーはその言葉を残してティアマットの役所を去っていった。



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