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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
支配された町編
52/107

植物は石より燃えやすい

今日中にもう1話投稿します!

 ヤンの目に入る何者かの姿。赤い髪の男が割れた窓ガラスをくぐって出てきた。意識のはっきりしないシオンであったが、彼のことはわかる。二コラだ。

 二コラは足元に生い茂る蔦などお構いなしに立っている。


「やれやれ……外がうるせえと思ったらまた敵か。」


 あきれたような口調で二コラは言った。

 割れたガラスは蔦で塞がれていたはずだったがそれは焼き切られている。二コラがやったのだ。


「二コラ……連絡が途絶えたと思えば寝返ったのか。」


 ヤンは言った。


「お前、錬金術師なのに吸血鬼の洗脳方法だって知らないんだな。ターヤより程度が低い。」


 二コラはヤンを馬鹿にしたような口調で言った。すると、ヤンの表情が一段と険しくなる。

 そして、四方から蔦が伸びて二コラに巻き付いた。体中に絡みつく蔦。その蔦は徐々に二コラの自由を奪っていった。


「無駄口をたたいていられるのも今のうちだ。」


 と、ヤンは言う。

 一方の二コラはそれほど蔦を気にしている様子がなかった。それどころか、素手で蔦を引きちぎる。ブチブチという、蔦のちぎれる音は確実にヤンの自信をそいでいった。


 二コラは引きちぎった蔦を放り投げた。引きちぎられた蔦は元となるイデアのエネルギーを失って瞬く間にしおれてゆく。


 そして、二コラは蔦だらけの悪い足場をものともせずヤンに詰め寄った。首根っこを掴む二コラ。ギリギリとヤンの首が絞まる。


「ぐ……何を…………」


「さて、俺もイデアを出そう。俺のイデアは炎。アレを焼き切るくらいはできる。」


 二コラの周囲に炎のついた蝋燭のビジョンが浮かんだ。


「さて、二人を解放しねえと俺の右手がお前の首を握りつぶす。実は見ていたんだよ。」


「そんなことはしない。お前たちを殺すのが俺の役目だ。」


 その一言がヤンの運命を決定づけた。ヤンの首を締めあげて息の根を止めると、二コラはシオンとグランツに近寄った。

 蔦の絡みついたシオンとグランツは意識を失い、呼吸も浅い。起き上がる気配もほとんどない。さらに、蔦の絡まったエリアから非常に嫌なものを感じる。体表を蟻が這いまわるような感覚だ。


「ジョシュア!」


 二コラは大きめの声でジョシュアを呼ぶ。すると、エステサロンの中からジョシュアが現れた。彼もヤンに応戦するタイミングをうかがってエステサロンの中で待機していたのだ。


「どうするんだ?黄色い奴はお前が倒したようだが。」


 ジョシュアは言った。


「感じるだろ……嫌な空気。外套持ってシオンとグランツを連れてここを出ろ!蔦は俺が燃やす。」


 二コラは答える。

 この時、ジョシュアも嫌なものを感じていた。


「わかった。私が二人を連れて逃げた方がいいか?」


「頼む。」


 ジョシュアは黒い外套を二つ取ると、片方を二コラに投げた。

 その後はシオンとグランツの解放。二人を解放するためにジョシュアは蔦を引きちぎる。吸血鬼の筋力であればヤンの使っていた蔦のイデア程度は引きちぎれる。

 シオンとグランツに絡みついた蔦を解いたジョシュアは外套を纏い、シオンとグランツを抱えて階段を上り始めた。


「よし。うまくやってくれよ。俺はしばらくここに残る。どうも嫌な予感がする。」


 二コラが肌で感じるものは、より一層強くなった。

 二コラは今までに死んで強くなる類のイデアをいくつか見てきた。ヤンの死後にも蔦は残り、二コラにとって嫌なものを放っている。それを見る限りヤンのイデアは死後に強くなるものに見える。


 蔦がウネウネと動き始めた。宿主を失った寄生虫のように動く蔦。これは死後に強くなるイデアだ。

 二コラは蔦に火を放った。


「俺は吸血鬼だから炎で焼かれた程度では死なねえよ。安心しな、二人とも。」


 燃え広がる炎。イデアによる蔦はよく燃える。勢いの強い炎は二コラのものであるが、二コラ本人をも焼き焦がす。

 蔦が燃えるにつれて、蔦に込められていた嫌な予感の正体も消えてゆく。――炎は聖なるものだ。ある民族では炎を信仰しており、また別のところでは邪気を祓うために炎を使っているという。二コラの放った炎もまた、邪な蔦を焼き払ってしまった。


 炎は蔦を焼くだけで鎮火できると二コラは信じていた。しかし、蔦を焼いていた炎は地下道の木製のオブジェなどに引火。さらに燃え広がった。


「嘘だろ……俺の炎は、コントロールも効かないのか……」


 炎の中、二コラは絶望したかのようにつぶやいた。二コラは状況を甘く見すぎていたのだ。

 炎は二コラを取り巻いていった。


「俺はこの炎をコントロールできるのか……いや、するしかない。すまねえな。」


二コラは地上には出ず、炎を手でつかんだ。じゅっ、と音を立てて火が消える。それに伴って二コラの手が焼ける。

――果たして二コラは鎮火するまでイデアが続くのか。



紹介など

ヤン

蔦のイデア

密度:やや高 展開範囲:広 継続時間:5時間 操作性:悪 隠密性:超低(一般人にも見える)

一定の体積の空間を蔦で包み込む。生命を包み込んだ場合、生命力を奪い取ることができる。なお、通常のイデアと異なり、一般人にも見える。

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