錬金術の魔物
本日もよろしくお願いします!
クリーチャー書くのは楽しいですね。
異界は元の世界より時間の経過が早く、あっという間に朝になった。とは言っても、地下道に日光は差し込まない。
「ノエル。地図を調達できるか?宿に忘れてしまってな。」
シオンは言った。
「わかりました。私と杏奈で行きますね。」
ノエルは答えた。それに続いて杏奈も頷く。時計を見た杏奈とノエルはエステサロンを出る。地下道は静まり返り、杏奈とノエルの足音がエステサロンの中にまで聞こえてきた。
杏奈とノエルの足音に交じって何かの声も聞こえてくる。シオンはエステサロンのドアを半分開けた状態で周囲の様子をうかがっていた。
「ふしゅうううう……」
何かが唸る声。その声は次第に近づいている。声だけではない。「くちゃくちゃ」、と何かを咀嚼するような音もする。そして、肉食動物の歯と歯が触れる音も聞こえる。
シオンは嫌な予感がした。
――本来、元の世界に存在してはならない存在。錬金術師の業によって造られた人工生命体。それは「魔物」と称され、百数十年前にとある町を恐怖と絶望に陥れた存在。その危険性ゆえに元の世界のレムリア大陸では生成を法律で禁じられていた。
シオンの目の前に怪物が現れた。
山羊、獅子、蛇などが合わさったような姿の怪物はよだれをたらす。そいつのよだれは赤い。人間の血だ。
「グランツ!怪物だ!5年前の案件で倒したようなやつだ!」
シオンは声を張り上げた。エステサロンの中からグランツが出てくる。そして、目の前に現れた怪物の姿を目の当たりにした。
グランツも知らないわけではない。キマイラのような、錬金術によって生み出された魔物。
「問題は光の魔法が効くかどうかだよな……」
グランツは言う。
その一方、シオンは何を思ったのか怪物の右に回り込む。
「ふしゅううううううう……」
「これが効くかどうかで攻略方法が変わってくるんだろう!?」
すっと指先を怪物に向けるシオン。その指先から振動――音波と光が撃ち出される。光は怪物に命中し、そいつの肉を半径3cm範囲で浸食した。えぐられた怪物の体から赤黒い血がポタポタと滴り落ちる。どうやら光の魔法は効いている。
シオンは再び怪物と距離を取って左に回り込む。指先に集められる光の魔力。
「風穴を開けてやる!!!」
指先から放たれる音波、それに載せられた光の魔法。まばゆい光の魔法は怪物に命中し、大きな傷を負わせた。獅子の頭の上にあった山羊の頭が半分吹き飛んだような状態となっている。
「グァアアアアアアアッ!!!」
悲鳴のような叫びをあげた怪物は発狂したのか、蛇の頭のような尾で地下道の店を破壊する。エステサロンと反対側にある店が一瞬にして破壊される。潜伏するつもりだったエステサロンが破壊されるのも時間の問題だ。
「少しくらいはおとなしくしろ!」
グランツはなんとかして怪物の動きを止めるためにダーツを撃った。しかし、ダーツは刺さっても怪物の体を貫通することはできなかった。それだけではない。怪物の体の傷はみるみるうちに再生していく。その再生力は吸血鬼や魔族と同等。つまり、光の魔法以外で攻撃しても大した影響はない。
シオンとグランツはそれぞれ怪物との距離を取った。
「グランツ。目つぶしを頼む。」
シオンは言う。
「俺のダーツはそんなに効かなかったぜ。」
と、グランツは言う。しかし、相変わらずダーツのイデアは出したままにしていた。
「それでもいい。今まで戦ってきたどんな化け物でも目に攻撃が刺さらない相手は見たことがないからな。」
シオンは言った。
グランツ、シオンは共に怪物を見た。そいつは傷を再生し、シュウシュウと唸っている。
「いくぜ!」
グランツが先に動いた。囮になるような動きで怪物に近寄るとダーツを獅子の目に向かって撃ち込んだ。それと同時に後ろから蛇の頭がグランツにかみつこうと襲い掛かる。その時、蛇の後頭部付近で閃光が破裂する。シオンがやった。
グランツはすぐに後ろを振り向き、蛇と山羊の目を潰す。これで怪物の目をすべて潰された。怪物の目は潰された状態から再生すべく、細胞分裂を繰り返すようにも見える。
「再生しながら動くことはできないってことだな!」
シオンはそう言うと、光の束を3発ほど撃ち込む。さらに怪物との距離を詰め、獅子の頭の後ろに光の魔法を撃ち込んだ。
――炸裂する光。吸血鬼を抹殺する光は怪物の体の半分を浸食し、怪物の骨や肉が露になった。血と肉が石造りの道にぶちまけられる。
「グェアアアアアアアア!!!」
怪物の岩をも砕くような咆哮が地下道のあらゆる区画に響き渡った。咆哮によって振動する空気と窓ガラス。シオンたちが潜伏するエステサロンの窓ガラスも割れた。
一方のシオンとグランツはとどめを刺す機会をうかがっていた。
咆哮が止んだ。シオンは真っ先に動き、再び光の魔法を撃ち込んだ。ほとばしる光。吹き飛ばされる怪物の頭の一つ。
「やっぱりこれで倒せるわけはないよな。」
シオンはつぶやいた。
怪物は相変わらずシュウシュウと唸り声をあげている。だが、確実に弱っている。
そしてグランツは階段を降りてくる足音に気が付いた。
「誰だ!?」
未だとどめを刺し切れていない怪物をよそに、グランツは階段の方を見た。
「気づいたか。まあ、姿を隠すつもりはなかったんだけど。」
階段から黄色のスラックスと赤いローファーが見えた。声の主は「フフフ」と不気味な笑い声とともにシオンとグランツの目の前に現れた。
――黄色のシャツとスラックスを身にまとった、杏奈と同じくらいの身長の眼鏡をかけた男だ。
「とにかく俺の話を聞けよ。」
彼は言った。




