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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
支配された町編
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不気味さの理由

「よく聞いてください。町の住人たちの頭に釘みたいなものが刺さっているでしょう。アレを刺した人はアヴラズという人なんですよ。」


 杏奈は住人から聞き出した情報を口にした。

 彼女の言葉を聞いたシオンは目を丸くしたがどことなく納得した様子だった。大元がいることくらい、シオンもそれ以外の5人も予想していたのだから。


「続けます。アヴラズなんですけど、この町の役所にいるとのことです。役所がどこなのかはわからないんですけどね。」


 フウ、と杏奈はため息をついた。


「わからなくていい。とにかく、アヴラズの場所を目指す。」


 シオンは言う。

 近くの時計は夜中の2時半を指していた。今から役所を目指せば朝になることは明白だ。


「それはわかる。だが、私と二コラはどうすればいいか?吸血鬼だから昼間に戦うことは自殺行為だ。」


 と、ジョシュアが言った。彼の発言にともなって二コラも頷く。


「潜伏する場所が欲しいな。できれば地下だ。」


 二コラも言った。


「確かティアマットにも地下道はあった。地下道のどこかでいいだろう。」


 シオンは提案した。これについて、杏奈とグランツと二コラとジョシュアは知らなかった。本来、ティアマットに長くとどまる予定などなかったこともあって杏奈たちはティアマットについて詳しく知らなかったのだ。



 一行はしばらく周囲を探索する。深夜の町はひっそりと静まり返り、不気味なほどだ。酒で酔いつぶれた人々さえいない。異界ではない方のディサイドやスリップノットではよく見られた光景がなぜかこの町で見られない。


「あれじゃないか?」


 ジョシュアが何かを発見した。

「ティアマット地下道」と書かれた看板の傍らにはあずまやのような屋根があり、そこから階段が続いている。地下へと続く階段には緑色の光を放つランプが取り付けられていた。


「ああ。あれだ。」


 と、シオンは答える。

 一行は階段を下りて地下へと突入した。この時、杏奈は地下の妙な空気に気づいていた。異界ではあまり感じていなかった、人込み特有の空気を杏奈は真っ先に気づく。


「……気を付けて。地下に何人、何十人もいる。いや、百いるかもしれない。」


 先頭に立っていない杏奈は言う。彼女の前、戦闘にいる二コラも何かに気づいたようだった。

 そして、一行の前に地下道の光景が現れる。

 ――杏奈の言った通り、百人に届くかそれ以上の住人たちが地下で待ち構えていた。彼らも地上にいた住人たちと同じく虚ろな目をしている。もちろん、彼らの額には釘のようなものがある。アヴラズという人物に刺されたであろうことは予想できた。


「本当に軍勢がいたんだな。どうりで地上に人が少ないわけだ。」


 シオンは愚痴をこぼした。相手が吸血鬼であれば、シオンは光の魔法で簡単に倒すことができる。そうできないことが、シオンにとって非常にもどかしいことだ。

 だが、そのシオンの前にジョシュアが立った。


「私がやろう。人殺しにでも悪役にでもなる覚悟はある。」


 ジョシュアは言った。彼はいつになく残酷さを浮かべた表情をしていた。これが本来の吸血鬼の表情なのかもしれないとシオンは自覚する。本来、吸血鬼は人を襲うものだ。

 ジョシュアは周囲にスライムのビジョンを出す。その後すぐにこん棒を持つと先端にスライムを纏う。そのままジョシュアは敵の軍勢に突撃した。


「ジョシュア……」


 杏奈は口ごもる。見ていることしかできない杏奈は心底もどかしかった。この状況において有利ではないことがわかっていても、やはり杏奈はもどかしさを隠せない。


「大丈夫だ。ジョシュアは強い。」


 杏奈の前で二コラは言った。


 ジョシュアは見ている5人の様子などお構いなしに、だが流れ弾が出ないようにしながら襲い来る住人たちを撃退していた。

 緑色のスライムは強酸のように人々を溶かす。さらに、ジョシュア本人の筋力も並の吸血鬼とは比較にならなかった。


「キェアアアアアアアアアアッ!!!」


挿絵(By みてみん)


 地下道の中にジョシュアの咆哮が響く。彼は吸血鬼としての本能を解放している。その姿はあまりにも美しく、恐ろしい。

 ジョシュアは攻撃の手を止めることなく、なだれ込む住人たちをなぎ倒す。――周囲には住人たちの遺体が放り出される。最終的には死臭で地下道が充満する程度には。その遺体にもジョシュアは注意を払っていた。この地下に潜伏するのだから。


 そして、ジョシュアはなだれ込んだ住人全員の命を奪った。死体は階段のすぐ近くに集められていた。それも、ほとんどが腕だけになっているか、骨にされてしまったものだ。


「……終わったか。ここまで大暴れしたのは100年ぶりだ。」


 数分前までの大暴れが嘘のように落ち着き払った声でジョシュアは言った。彼の顔には安堵と後悔が入り混じっていた。


「100年……」


 杏奈はここでジョシュアが「化け物」であることを再認識する。戦闘中のあの咆哮も確かに人間のものではなかった。ジョシュア・ノートンは人間ではない。


 一行は地下道のさらに奥へ進む。地下道には小規模な専門店がいくつも立ち並び、それなりに栄えていたことを匂わせる。

 そんな専門店などの中に、潜伏場所としてうってつけの場所を発見する一行。その場所はエステサロン。一行は誰もおらず、鍵の開いたエステサロンに入った。


「さて、ここなら腰を落ち着けられるかな。棺桶もあるからたとえ日光が差し込むことがあっても安心だ。」


 ジョシュアは言った。施術の台の横には黒塗りの棺桶が置いてあった。大きさは2メートル以上あると思われる程度。一行の中で一番大柄なジョシュアでも入れる程度だ。


「朝になってからは役所を探すか。」


 シオンも言った。



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