ティアマットの事実
腹痛をのりこえ、なんとかこの話とストックを書けました。誰か私を褒めてください…!(厚かましい)
「……甘い。血糖値が高いね。」
ジョシュアは血を吸い尽くされて息絶えた中年男性を放り出した。中年男性の遺体は抜け殻のようにカラカラに干からびている。ジョシュアの吸った血液がどこに行ったのか、シオンには知る由もない。
「先を急ごう。念のため、ノエルたちの後を追いかけてみるか。」
シオンたちはノエルとグランツが向かっていった方へ向かっていった。
町を進む杏奈たち。
角を曲がって一本道に差し掛かった時にそいつらは襲い掛かってきた。
「つけられていた!!!」
咄嗟に杏奈は叫ぶ。杏奈たちをつけていた住人は一斉に銃を構えて発砲する。銃声があたりにこだました。
片方からではない。挟まれるような形になって射撃される。前に5人、後ろに4人、全員男性。その上、最後には手りゅう弾まで投げられる。即死するような威力のものだ。
手りゅう弾が炸裂する瞬間、住人は低く体を伏せた。
手りゅう弾の爆風と破片が辺りを吹き飛ばす。近くの建物のガラスが割れ、壁が傷つけられる。
「……待ち伏せと尾行はしてみるものだな。」
住人のうちの一人が声をもらす。
しばらくして土煙が晴れるとそこには無傷の杏奈達が。イデアを目視することのできない相手はシールドなどもなしに手りゅう弾から身を守った杏奈たちを見て目を疑った。
「危なかった。私がバリアを張っていなければ私たち、死ぬところだったね。」
ノエルは言った。
彼女を見た住人達は「嘘だろう」と言わんばかりの顔をしている。
余裕のあるように見えるノエルであったが、杏奈がノエルを間近で見れば消耗していることくらい目に見えてわかる。だが、ここでノエルのいない状態で戦うとなると杏奈たちもきびしくなる。
「……そうだね。」
杏奈の発言はそれだけだった。イデアが無限ではないとわかっておりながらノエルに頼らざるを得ない。
「ノエル、まだいける?相当息が上がっている。」
「大丈夫。それに、向こうは弾切れ。仕掛けるなら今だよ。」
ノエルはふっと笑った。
ここでグランツが先陣を切った。前にいる5人に向かってダーツを撃つ。そのダーツは適格に銃を破壊し、敵を無力化していった。
杏奈は後ろ側にいた数人を狙う。――隙を見てひとり目の足を蹴り上げ、転ばせると四肢の腱を切る。ここで杏奈は後ろの敵が4人であるとわかる。
(ここは筋肉だけ切って重要な事を吐かせるか。)
考え事をしておきながらも敵の持つ刃物はきっちりと避ける杏奈。すれ違いざまに三人の両腕と肩の筋肉を切断。敵の両腕は支える力と動かす力を失ってだらりと垂れ下がる。
「このアマ……調子に乗るなよ……!」
敵のうちの一人が叫ぶ。
「口だけで何ができるんだ?」
杏奈は見下したように言った。その一言が敵の癪に障ったのか、肩の腱を切られた三人は杏奈に向かってきた。
だが、腕を切られた人間のバランスなどたかが知れている。杏奈は三人の足元を順に蹴り飛ばし、彼らを転ばせた。彼らは当分立ち上がれないだろうと杏奈は予想した。
「グランツ。終わったよ。」
杏奈は言った。
「おう。……って筋肉を切っただけか!?」
「そうだよ。アレを刺されているとはいえ、殺すのはさすがにためらうよ。それに、何の経緯でアレを刺されたか聞かなければならない。」
杏奈は立ち上がることのできない四人に近づいた。彼らは、一人は四肢から血を流し、残りの三人は両腕から血を流している状態だ
「で、どうなんだ?待ち伏せしていたやつらはグランツが倒した。私は聞き出さなければならないんだ。」
立ち上がろうとしない四人に杏奈は言った。案の定四人のうちのだれ一人として杏奈の問いに答えるようなことはなかった。誰もが口をつぐむ。ここでグランツが四人の前に出る。もちろんダーツのイデアを出している。その先は町のわずかな光を浴びて鋭く輝く。
「お前たちに何があった?その釘みてえなのは何だ?しゃべらなかったらこれで串刺しだ。」
グランツは言う。だが、四人はまだ口を割らない。すると、グランツは無言でダーツを放った。放たれたダーツは四人のアキレス腱を切断し、彼らを全く立てない状態にした。
「野郎……」
一人が言うと、再びダーツが飛ぶ。今度はそいつの頭部を貫通する。辺りに鮮血が飛び散って地面を赤黒く汚す。
「口答えは求めていない。私はただ質問に答えろと言っただけなのだけど。」
と、杏奈は言って一番近くにいた男に近寄る。その男の手を取った杏奈は彼に顔を近づけた。
「もう一度聞く。何があった。答えなければ人差し指を切り落とす。」
杏奈は言う。答えるか答えまいか迷う様子を見せる男。彼を見ているのは杏奈だけではない。グランツはダーツのイデアを構え、ノエルも顔をしかめているが彼を見ている。
杏奈たちは殺そうと思えばその男を殺すことができる状況にある。
「……アヴラズだ……。」
その男は答えた。
「よく答えたね。でもお前が言う事が嘘の可能性もあるからね。」
杏奈はその男に情がわかないように淡々と言う。凄まじい緊張感が辺り一帯を包み込む。これはまさに拷問だ。その光景は慣れていないノエルの精神を確実に傷つけていた。
「杏奈……」
ノエルは口ごもる。
「嘘ではない……アヴラズがこの町を乗っ取ってこいつを……」
その男の目の焦点は合っていない。杏奈とグランツはそのことに気づいている。その男は自我を保ちつつも何者かに操られているように見える。杏奈は痛覚によってそいつが自我を取り戻したのだと推測した。
「信じよう。それで……アヴラズはどこにいる?」
杏奈は言った。
「役所にいる……噂では、町長を殺害したとか……な。役所に人を集めてコイツを刺している……」
「ありがとう。もしまた私たちを襲うのなら、今度はお前たちを殺す。」
杏奈はそう言うと、答えた男から離れた。そして、彼らに手を下そうとはしなかった。襲ってきた相手だが。
「おい、杏奈!殺さないのか!?」
と、グランツは尋ねる。確かに彼は前にいた5人を全員殺害している。
「殺さないよ。私が人殺しをしたくないのもあるけれど、ノエルの前で人が死ぬのもきついだろうと思ってね。」
杏奈は答えた。
普段はそっけないふりをしておきながら、魔物ハンターでもない一般人だったノエルの事を考えていた杏奈。ノエルは彼女の考えをどことなく理解した。
「杏奈……」
ノエルはつぶやいた。
「やれやれ、はやくシオン先輩たちと情報を共有しよう。」
杏奈はノエルに見透かされたことに気づき、取り繕うように言った。
ほどなくしてシオンたちも同じ場所に到着する。
「ここにいたんだな。尾行されていたみたいだが。」
シオンは何も知らず、杏奈に言った。
「それについてはもう大丈夫です。あと、共有したい情報があるんです。」
杏奈は言った。本人は隠しているつもりであるが、シオンには杏奈の機嫌がいいことに気づいていた。




