修羅の如く
今日も宜しくお願いします!
杏奈とノエルとグランツはさらに路地を進む。ここには誰もいない。まるで、町のある特定の場所にだけ人が集められたようだ。
人がいるのか否か判断しかねる場所でノエルは足を止めた。
「どうしたんだ?」
ふいにグランツはノエルに尋ねた。
「見ればわかるよ。口に出すべきかわからなくてね。」
ノエルはそう言うと、周囲の様子を確認。敵が誰もいないことがわかると、足元にイデアを展開した。
――ノエルのイデアは地面に張り付けるのであれば、展開範囲の外でも作動する。それはすなわち罠に適しているといえる。ノエルはそれをわかって地面に罠をしかけていた。
「空でも飛ばない限りどうということはないよ。」
ノエルはそう付け加えた。
3人は周囲の様子をうかがいながら先へ進んだ。だが、ティアマットの住人のうちの数人が杏奈たちの後をつけていることを3人はまだ知らなかった。
後をつける者たちは自分にとって有利となる状況を待っていた。彼らは忍耐強いのだ。
同じ頃のシオンたち。彼らも宿の周囲を取り囲む住人達を相手取っていた。真ん中にシオンが立ち、その両脇に二コラとジョシュアがいる。
「どれくらいいるんだ?」
ジョシュアはシオンに尋ねた。
「ざっと150くらいだ。まとめて無力化できればこっちのもんだけどな。」
シオンは答えた。
彼は宿を出た時から音波を飛ばして敵の状況を探っていた。人数、動き、増援の有無。索敵能力に優れたシオンのイデアを使えばそれらが手に取るようにわかる。
「杏奈たちがある程度離れてからまとめて攻撃してくれ。今は俺たちがやられないように粘るぞ。」
「了解だ!」
粘る、と言っておきながら二コラは敵に突っ込んでいく。ジョシュアが止めるのも無駄で、気が付けば二コラは敵の目の前にいた。
だが、二コラは単に攻撃しようとしたわけではなかった。敵と二コラとの間に炎を撒く。地面にガソリンでも撒かれたかのように炎が燃え上がり、炎の壁ができた。
「これで奴らは入ってこれねえ。少なくとも俺たちの身は守れるだろう?」
炎をバックにして二コラは言った。彼の赤い髪が炎のあかりを受けてさらに赤く輝く。
「ああ。炎が収まるまで待つ必要ができてしまったが。」
シオンはあきれたように言った。
「いいや、それも問題ねえよ。まあ見てな。」
二コラは言う。
炎の壁で遮断された状態では住人たちもこちらに来ることはできない。時折「じゅっ」という音がして住人たちの悲鳴が聞こえる。また、髪の毛が焦げたような臭いもシオンの鼻を突く。
だが、シオンは索敵を続けていた。音波で周囲の状況を探る。ノエルたちの反応はかなり遠くなっていた。だが、ノエルたちに数人の敵が付いて行くのをシオンは感知した。
(ノエルたちなら何人かくらいは相手できるよな……?)
シオンはできるだけ楽観的に考えたいところだった。ここでジョシュアがシオンに声をかけた。
「ノエルたちはどうなっているんだ?」
「ああ、もう大丈夫だろうな。尾行しているやつがいるみたいだがここの攻撃は問題ないぞ。」
シオンは答えた。ここで前にたつ二コラとジョシュア。それぞれ、イデアを最大限に出している。闘志をむき出しにしているのが一目見ただけでわかる。
「了解だ。シオンは状況を見て指示を出してくれ。私は意外と周りが見えないからね。」
次の瞬間、二コラとジョシュアは動いた。攻撃開始。
まず先陣を切ったのは二コラ。炎のついた蝋燭のビジョンから大量の炎を召喚し、辺りに放つ。その炎は無差別に住人を襲い、焼いてゆく。体や衣服が燃え上がり、黒い煙が舞い上がる。炎と煙に包まれ、二コラは不敵な笑みを浮かべる。その一方で二コラの指先も燃えているようだったが瞬く間に再生する。これが吸血鬼。
ジョシュアも負けてはいない。こん棒を手に取るとイデアをこん棒に纏い、近寄る住人たちを殴打する。
殴打された住人たちはそのまま倒れる。もちろん血も流している。
「……さすがだ。経験が違いすぎるな。」
シオンは二コラとジョシュアの活躍を見ながら様子をうかがっていた。音波を飛ばしながら。ここでシオンが敵の動きに気づく。
「敵が何か使ってくる!魔法か武器だ!!!」
シオンは叫ぶ。音波で跳ね返ってきた反応は攻撃の手段。シオンにとってはかなり不都合なものである。
「見えたぞ!爆弾じゃねえか!」
二コラが言う。
二コラは自分の能力をよく理解しており、弱点もわかっていた。二コラの能力は爆発物に弱い。特に、魔力を含んだ爆発物の場合、二コラの炎で点火してしまう。
(まずい……俺爆弾で体半分吹っ飛ばされたことがあるんだよな……)
二コラはすぐに守りに転じた。ここで二コラと敵との間に入ったジョシュア。
「君が爆発物相手に無能だということはよく知っているからね。溶かせばいいんだろう?」
ジョシュアはそう言うと、二コラの前にいた住人たちを蹴散らし、爆弾を持った住人に接近した。
イデアを手に纏い、ジョシュアは爆弾に触れた。
浸食と爆発が同時に起きる。ジョシュアの手の中で。ジョシュアの手の指の隙間から煙が立ち上る。
「……よし。」
ジョシュアは手を開き、自由だった左手でその住人の首を絞める。
「血を頂くよ。」
ジョシュアは右手でその住人の左手を持ち上げ、彼の血管に牙を突き立てた。




