操られた住人
今回も宜しくお願いします!
北海道物産展いきたいーーーーー!
宿の1室にいる杏奈とノエルとグランツ。まずは状況を整理する必要があると、杏奈は判断した。
「で、外にいたやつらの行動パターンは?」
混乱しているようなグランツに杏奈が尋ねた。
「俺やシオンに対しては本気で殺しにかかっていたな……。『アレ』が刺さっていない一般人に対しては『アレ』を刺そうとしていた。釘みたいなやつだ!」
グランツは答えた。
ここで杏奈は考え込む。グランツとシオンに対してと、一般人に対してで反応の異なる相手であれば何者かが指示を出していることも考えられる。だが、何を基準にしてシオンたちを殺しにかかっていたのか、杏奈にとってそれが不可解だった。
「意味がわからないね。けれど、ここの住人は全員敵だと思った方がいい。」
杏奈は言った。
杏奈の警告とは裏腹に、夜まで何かが起こることはなかった。
しかし、それは夜に起きる。災害も事件も油断した頃に起こるものだ。
「お……オキャクサマ……」
ノックもせずに部屋に入ってくる宿の主人。主人の額には釘のようなものが刺さっており、彼の目の焦点は合っていなかった。それだけではない。主人はバランス感覚を失ったかのようにフラフラしている。
「コロセ……トイワレテオリマシテ……」
宿の主人はそう言うと、ドアの脇に置いていた鉈を手に取った。
宿の主人が持つ鉈の先が照明をうけて鈍く光る。
「ノエル!歯を食いしばりな!」
殺される。直感的に感じ取った杏奈は咄嗟に鉄扇を開く。パジャマ姿であろうが関係はない。鉄扇を開いた杏奈は素早く宿の主人に詰め寄る。狙いは目。人を殺すことにやや迷いのある杏奈は致命的な方法を避けた。
主人の目に鉄扇の刃が入れられ、彼の目から血が流れる。視覚を奪うことには成功した。
「貴女は……歯を食いしばれと言っている割に殺そうとはしないのね。」
と、ノエルはつぶやく。杏奈の鉄扇が主人の目を切り裂いた2秒後、ノエルは文字列で主人を拘束した。
主人にまとわりつく文字列と主人の脳内に入り込む文字列。杏奈の知るものではないが、主人の自由を奪うためのものである。
「ノエル……ありがとう。」
「いいよ。痛覚、体の自由を奪っておいた。」
杏奈はそう言うと、拘束された主人の額を観察しはじめた。
釘のようなものはイデアらしい。杏奈が釘のようなものを抜こうとすると、主人はぴくりと動いた。どうやら痛がっているらしい。さらに、ノエルがわずかな痛覚を残していることも見て取れた。目の痛覚は遮断されているように見えるが。
「痛覚は残したんだね。どうやら、こいつは脳や神経にまで達していそうだ。」
その様子を見た杏奈は言葉を漏らす。
さらに杏奈は鉈を拾い、主人の額に刺さったものを切ろうと試みた。
「あぎゃっ……!」
鉈が刺さった瞬間、主人は声を上げた。やはり体も震えていたことからするに、脳や神経にまで影響があるようだ。
主人の体はぴくぴくと痙攣している。
「コイツを抜くことはできないんだね。やっぱり殺すしかないのか。」
あきらめたように杏奈は言った。
「みたいだね。」
ノエルは答えた。
覚悟を決めるなら今しかない。戦争に駆り出される者はどうしても、という理由があって人を殺す。
どうしても、という理由なら杏奈にもある。今異界にいるのも旅行が目的ではない。生きて成果を持ち帰らねばならない。
「そう。私はやるよ。」
しずかに、覚悟を決めて杏奈は言った。
外には懐中電灯などを持った人々がずらりと並んでいた。彼らが持っているものは銃、鉈、鈍器など。確実に人を殺そうとしている。
杏奈とノエルは外で戦うために急いで服を着替えた。濃紺色と深緑色のブレザーに。
敵の出方をうかがっていた時、別室から窓の割られる音が聞こえた。
ほどなくしてシオンが部屋に入ってくる。
「やべえ。釘みてえなのを刺された奴が襲ってきた!」
部屋に入るなりシオンは言った。
「やっぱり来たんだね。」
杏奈の予想通り。杏奈は傍らに置いていた鉄扇を取り、立ち上がった。
「いくよ。」
焦っているともとれるそぶりを見せた杏奈はシオンを押しのけて廊下に出た。
廊下には釘を刺されたティアマットの住人がフラフラとした姿でたむろしている。
彼らを目の当たりにした杏奈は鉄扇を開く。
一歩を踏み出して住人達の間を縫うようにして首筋に傷を入れてゆく。首筋に傷を入れられた住人たちは倒れこむ。
杏奈の手には鉄扇で死にゆく人々の感覚が残った。
「なれないものだ。向こうでも許可が出たら簡単に人を殺していたのにね。」
杏奈はそう呟いた。
「杏奈!」
シオンの声がして杏奈は振り向いた。
「この釘を刺した何者かを探すぞ。俺の予想でしかねえけど、大元を倒せばきっと何とかなる。」
「私もそう思います。抜いたり切ったりしてみたんですけど意味はなかったので。」
杏奈たち、6人は宿の外に出た。
宿の外には窓から見えていたように、何人もの操られた住人たちがうろついている。彼らの目はうつろで、生きているのか死んでいるのかもわからないような姿だった。
「いくぞ。」




