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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
ルーン石編(後半になるほどグロ描写増えます)
39/107

山奥の町ディレイン

今回も宜しくお願いします。

 杏奈たちの進む森は深く、暗い。鬱蒼としげる木々が行く手を阻んでいたが、数日後の満月が空高く昇る頃には開けた場所に出た。


 小さな町だ。小規模な商店と民家が立ち並び、明かりはごくわずか。だが人は住んでいる。

 その証拠に人々がゴミ捨て場にゴミを捨てている。

 杏奈たちは町の様子を見て期待するのをやめた。


「今日までは野宿だな。」


 ニコラは言った。

 森の中を歩き、へとへとに疲れた杏奈とグランツはシートの上で横になった。その傍らでニコラは炎を優しく燃やし続ける。赤い炎はニコラの命を削りながら、優しく燃えていた。


「クソ……この俺としたことが。柄じゃねえな。」



 翌日の早朝、杏奈とグランツは目を覚ます。

 ――宿でもない、寮でもない、寝台列車でもない固い地面。相変わらず二人の目覚めは良くはない。


「あんたは寝ないのか?」


 杏奈は黒いフードを被ったニコラを見て言った。


「馬鹿。俺は吸血鬼だぞ。寝なくても平気だ。」


 答えるニコラ。


「でもよ、俺たちも借り作っちまった。俺と杏奈にできることはあるか?」


「そうだな。宿探しと血液パックの調達、あとは町の調査だな。」


 少し迷惑そうにニコラは言った。



 ニコラは森で休むことにして、杏奈とグランツがディレインの町を探索する。杏奈は宿を探しに、グランツは血液パックなどの食料を調達することにした。

 ――杏奈もグランツもニコラも、サバイバルのお陰で空腹に襲われているのだ。


 ディレインの個人商店に血液パックは置かれていた。


「おいおい、異界の血液パックって缶なのかよ!」


 店に陳列されている血液パックを見たグランツは思わず声をあげた。その血液パックはパックと言えるような代物ではなく、缶に入っていた。通常の血液パックよりも長持ちするとのことで、クリエイター業を営む吸血鬼などの間で重宝されている。

 グランツは血液パックを手に取った。ずっしりとした感覚がグランツの手にのしかかる。これでいいだろう、と判断したグランツは血液の缶詰めを購入した。


 グランツは店を出て杏奈と落ち合おうとするが、ここである人物と目が合った。


 ――グランツには兄がいる。彼は吸血鬼となったが、その原因となる人物は彼の友人。グランツは二人が紅石ナイフを受け渡す姿を目撃していた。その後、グランツの兄は吸血鬼となる。


 兄が吸血鬼となる原因の人物。そいつが今、グランツの目の前にいる。


「……あいつ……」


 グランツは予想外の出来事を前にして心臓が高鳴るのを抑える。


 グランツの目の前を横切った男の名はマルコス。そのマルコスという男もグランツを怪しげな目で見た。


「……グランツ・ゴソウ。クロイツの弟か。」


 その声を残してマルコスは路地へと消えた。


「あの野郎……」


 グランツは追いかけたい気持ちを抑え、杏奈と落ち合う場所へと向かった。



 森の入り口で杏奈とグランツとニコラは落ち合った。その場所は人が立ち入らず、静かで薄暗い。吸血鬼であるニコラが休むにはうってつけの場所だ。

 杏奈とグランツが森に入ると、ニコラはガサガサと木の葉をかき分けて二人の前に出てきた。


「宿は取ったよ。ディレイン唯一の宿らしい。探すのに苦労した。」


 まず杏奈が一言。彼女の発言からするに、ディレインはほとんど宿がないくらい寂れているようだ。


「じゃあ、ぼちぼち宿に向かおう。案内を頼む。」


「うん。」



 ディレインの中心部に宿はあった。宿につくなりニコラは椅子に座り、血液の缶を開封した。その一方でグランツは気分の悪そうな顔をしている。


「グランツ、珍しいね。吐き気でもする?」


 杏奈はグランツを気にかけて言った。


「ああ。すげえ吐き気かする……!」


 グランツは口を押さえ、トイレのある方向へと走る。

 ドアを開け、口が便器の上に来た辺りでグランツは胃の中身をすべてぶちまけた。便器に吐瀉物が落ちてゆく。


「はぁ……」


 グランツの顔色は変わらない。


「チクショウ……よりによってボットン便所かよ。」


 汲み取り式のボットン便所。その構造のため、吐しゃ物の臭いが上に上がってくる。ただでさえ吐き気を催しているうえに臭いまでするのだからグランツにとってはたまったものではない。青い顔をしたグランツは座る事もできず、トイレの壁に寄りかかっていた。

 グランツの吐き気と嘔吐の原因はトイレのすぐ外にあった。それは金色の霧。杏奈も同じく吐き気や頭痛で倒れていたが、今回ばかりはグランツだけだった。なぜだ、とグランツは思いながら吐き気がおさまるのを待っていた。


 吐き気がおさまったグランツはトイレの外に出た。わずかではあるが金色の霧があたりに立ちこめる。


「まさかこれ原因じゃねえよな……」


 と、グランツはつぶやいた。

 グランツが思い出す限り、吐き気や頭痛はアンシからルーン石を奪われた後に悪化した。ここでグランツは考え、ある一つの仮説に行きついた。

 ルーン石は異界にたちこめる金色の霧から身を守る力があるのではないか。確証の持てないことではあるが、グランツは試してみようかと考えていた。――もし次の敵がルーン石を持っていれば奪ってみようか、と。

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