9番線の強襲
ストックを書き溜めたいところです。明日の分までは確実に書けております。
観光都市ドラゴンランドに別れを告げる日がやってきた。一行はホテルを出てドラゴンランド駅へ向かう。もちろん、時間は朝なので吸血鬼である二コラとジョシュアは黒い外套を纏っていた。
「列車の時間は8時50分ですね。」
ノエルが言った。クロックワイズ行きの列車は9番線に停車する。一行は9番線の場所を確認して階段を上る。
来るときにはわからなかったがドラゴンランドの駅は写真映えするような内装だった。実際に記念写真を撮るグループもいるほど。
「まだ時間はあるんだ。写真でも撮らねえか?」
シオンは言う。彼は調査用にカメラを持ってきていたらしく、本部から支給されたカメラを鞄から出した。
「いいですね。私たちの旅の証になりそうです。
意外なことにノエルは賛成した。乗り気ではない杏奈と二コラも渋々とそれに同意。だが、二度とない事を写真に残すことは悪くないのかもしれないと杏奈は判断していた。
周囲に人がいないことを確認し、シオンは手ごろな高さの場所にカメラを置く。
「シャッターは5秒後に切れる。お前ら、笑うぞ!」
5秒経った頃にシャッターは切れた。シオンはカメラを取ろうとするが、その時違和感を覚える。自分たちを狙う何かの気配。その直後に暗殺者のナイフがシオンの首筋をかすめた。
「やべえ……誰だ!」
シオンは叫ぶ。その瞬間、シオンの周囲にいくつもの包丁が現れて彼を刺そうと飛んでいく。シオンに包丁が刺さる寸前でノエルが文字を使ってすべて弾き、彼をかばった。包丁は地面に落ち、金属音が辺りに響く。
「確実に狙われています!相手は一人ですか!?」
「わからねえ。複数の可能性もある!」
シオンは言う。複数の可能性もある、と聞いたノエルはすぐさま探知の文字を展開。まずは包丁を出現させたであろう人物が一人。もう一人、ごみ箱の中にいる。
シオンが敵を目視しようとする間に金属製のごみ箱から人が出てきた。
「来たね。」
ノエルはすぐさま向き直り、敵の拘束を試みた。アンシにやったのと同じようなやり方で文字の塊を撃つ。その敵は手をつきだして紫色の霧を出すと文字の軌道は曲げられた。もちろん、相手に当たることはない。
その敵は迷彩柄のツナギを着た青年だった。
「やっぱり影からコソコソと狙うんだな。」
シオンは言う。
「どうだかな。影からでも、勝てばいいんじゃねえの?」
その瞬間、シオンとノエルを包丁が取り囲む。攻撃パターンを理解したノエルは迫りくる包丁を文字の塊で撃ち落とした。それでもいくつかはすり抜ける。シオンはぎりぎりでかわしきれず、手に傷を負う。二人で対応できるかどうかは微妙なところだろう。
(刃物がどこからくるのかわからない。私のイデアはそんなに持たないよ?)
ノエルは四方八方から飛んでくる刃物を文字の壁で防ぐ。それはノエル本人を守るだけでなく、シオンの範囲をカバーする。一方のシオンは刃物の出どころを予想しながら立ち回る。出どころがわかれば攻め時だ。
ここでグランツが手を出す。ツナギの青年と、どこかにいるであろう敵を狙ってダーツを撃った。放たれるダーツは敵を正確に狙ったはずだった。しかし、その軌道が曲げられる。曲げられたダーツはそのままシオンに向かう。
「やべ!」
グランツはうろたえる。彼にとって、今の敵は相性の悪い相手。きっとこの相手に対しては接近戦が最適解。見えない何者かはグランツの上から鉄製の檻を降らせ、彼を閉じ込めた。
「よし、ナイスだ!ナーレ!」
その敵は言った。もう一人はどこだ。
「シオンさん、囮をお願いできますか?私に作戦があります。」
背中合わせになったシオンとノエル。二人が最接近したときにノエルは言った。
「ああ。ノエルだから何とかなるよな。」
と、シオンは言った。
「では刃物を引き付けてください。私が様子を見ながら結界を張ります。」
ノエルはそう言ってシオンから距離を取る。目視して確認できるのは一人。もう一人がこの近くに潜んでいることを仮定してノエルはツナギの青年から距離を取った。
「何の作戦かは知らんがくらえ!」
刃物が辺り一帯に広がる。その直後、ノエルとシオンとグランツに向かって一直線に飛んでくる。刺されたらひとたまりもない。ノエルは文字の塊で、シオンは光の魔法で刃物をはじいた。グランツはというと、檻の中で動ける範囲でしか対応できていない。その様子に気づいたノエルは咄嗟に文字の結界を広げた。
「あ……あぶねえ!けど、出どころはわかったぞ!」
グランツは檻の中で叫ぶ。その瞬間、グランツと「奴」は目が合った。白髪に黒のメッシュを入れたオッドアイの男。グランツはそいつ――ナーレという男にダーツを撃った。一方のナーレはそれに対抗したのか鉄板を何もない空間から生成する。ダーツが鉄板に突き刺さる。
「シオン!ノエル!上だ!上にもう一人いる!何もない場所から金属を作り出す力だ!金属をもう一人が操るのなら相当相性がいい組み合わせだぞ!」
上にいたナーレはそれを仕方ないと思ったのか、下に降りる。
「おい、スィレニア!作戦Bだ!」
ナーレは言う。この作戦Bが何なのか、シオンとノエルにはわからなかったが嫌な予感はしていた。
「気をつけろよ、ノエル。」
「ええ。罠は張れていないんですが……」
ノエルはこの時から嫌な予感がしていた。




