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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
ルーン石編(後半になるほどグロ描写増えます)
31/107

キラーシンガー2

お待たせしました!

連載再開ですっ!

 3月後半の水は思いのほか冷たくて、杏奈の服には水が容赦なくしみ込んできた。杏奈は溺れた時の対処法を思い出す。手足を伸ばし、あおむけになる。無駄にもがくようなことはしない。


 少しずつ杏奈の体は水に浮いてきた。グランツやイズラエルの姿は見えない。見えるのは100人橋の周りの風景ばかり。


「……溺死させることも叶わなかったな。グランツは大丈夫かな。」


 今杏奈がいるのは川の真ん中、水面に浮いた状態で身動きは取れず誰か助けに来る可能性も期待できない。どうしようもないこの状況で杏奈は途方に暮れていた。まさに八方ふさがり。だが、杏奈はひらめきを見せた。


 イデアだ。杏奈はイデアを出してみた。星空のようなイデアは水を杏奈から遠ざける。微弱な状態でも水が杏奈から離れようとしては再び元の場所へ流れ込む。これを強くすればどうなるか。杏奈はイデアを全力で出してみた。


 水面がゆがむ。杏奈の周囲から水が離れ、川底まで見えるようになった。どうやら杏奈を中心として水が離れようとしているらしい。杏奈はイデアを全力に保ったまま岸まで進み、川から脱出する。その様子は海を割った預言者のようだった。


「私を殺せば終わるのは事実。だけど簡単に終わるつもりはない。」


 川からあがった杏奈はせき込むが冷静になる。それでも水を吸った服は重い。杏奈は少しでも動きやすくするために上着を脱いだ。自分自身を水に引きずり込んだ者を探し出して倒す。それだけしか考えていない。こう見えて杏奈には怒りがある。


「杏奈!無事だったんだな!」


 ここにグランツが来た。


「グランツ!無事だったか。よかった。」


 ほっとしたように杏奈が言った。しかし、グランツはナイフを抜いて無言で杏奈に斬りかかってきた。杏奈は畳んだ鉄扇でその一撃を受け止め、グランツから距離を取る。何が起きているのかわからない。


「さすが杏奈。対処が早いぜ。」


 もう一度グランツはナイフで杏奈を狙う。今度の狙いは頸動脈。杏奈はイデアでガードする。さすがに鉄扇は追い付かない。グランツは斬撃をガードされると一度距離を取った。いかにして殺すかを考える。


「グランツではないな。誰だ、あんた。」


 杏奈は言った。目の前にいるグランツの姿をした何者か。そういえば敵の中に変身能力を持った人がいる。杏奈は思い出した。


「思いのほか早かったな。確かに俺はグランツじゃねえ。ほら、これが俺の真の姿だぜ。」


「嘘だ……いつ紛れ込んだ!」


 戸惑う杏奈。グランツの姿をしていた者の体内から骨のようなイデアが抜け、彼は真の姿を現した。その姿はシオンの報告したものと酷似。スキンヘッドで、体中にタトゥーを入れている。こいつがシオンの報告したハマーという男。


「おっと、それは話すまでもないぜ。ちと分が悪いが2対1なら楽勝だな。」


 ハマーが言うと、イズラエルが水面から顔を出した。また引きずり込まれてしまう。だが、杏奈にも対処法はある。まず、杏奈はハマーに向かい、彼の顔に傷を入れた。


「グランツに何があった!答えろ。答えなければ内蔵をかっ捌いてやる。」


 杏奈は語気を強め、ハマーに詰め寄った。いつでも鉄扇で攻撃はできる。その気になれば人を殺す力が杏奈にはあるのだ。


「……ドラゴンランドのライブハウスだ……。あそこのトイレにグランツを……」


 ハマーが答えると、アンジェラは彼が用済みだといわんばかりに蹴り飛ばす。鉄扇を開き、杏奈はハマーを見下ろした。その目はまるで、罠にかかったゴキブリを見るよう。


「次はどうされたいか?失明か去勢か、好きな方を選んでいい。」


 杏奈は言った。すでに鉄扇にはイデアを纏っており、全力で切られれば重傷となるくらいだ。


「……後ろを見ろ。敵は俺だけじゃねえよ!」


 足元がひんやりする。じっとりと水がしみ込んでくるということは。水で杏奈の足は掴まれていた。


「引きずり込んでやる!」


 イズラエルは水中でタイミングをうかがっていたらしい。より強い力で水に引きずり込もうとするイズラエル。だが杏奈もおとなしくやられるわけではない。


 水がイデアによってはじかれた。杏奈は水の手から抜け出し、まずはハマーに近づいた。


「覚悟はできたか?」


 ふっ、と杏奈は笑い、ハマーに斬撃を加えた。ハマーの目はざっくりと切られ、血を流す。杏奈は一度距離を取るがそれでも止まらない。今度の狙いは股間。杏奈は右足にイデアを集めると、ふらついた状態のハマーに再び接近。ハマーの股間に全力の蹴りを入れた。杏奈に慈悲はない。館長になりすまして博物館の職員をだましたうえ、グランツを監禁し、杏奈やその仲間もだましていたのだから当然だ。


「ぐおおおお……」


 杏奈がハマーの声を聞いたのはそれが最後。ハマーはふらついたまま水に落ちた。


「さて、次はあんただな。」


 杏奈は高密度のオーラで牽制していたイズラエルの方に向き直る。


「……怖いなあ。ハマーに何をしてくれるんだ。全く。」


 イズラエルはあきれたような、怒ったような声で言う。だが、杏奈も同じくらい怒っている。


「お前のした事の方が恐ろしい。あやうく水死して終わらせてしまうところだったじゃないか。」



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