館長こそ危険人物
少し遅くなりましたが更新分です。
どうでもいい話ですが、「ゾンビVS大学生!宮原の47日戦争」の更新を近いうちにしようと思います。
博物館からホテルに戻った杏奈とジョシュア。ジョシュアはさっそくホテルで寝ていた二コラに博物館付近での待ち伏せを提案する。
「待ち伏せして何するんだよ」
二コラの反応はジョシュアの予想通りだった。ジョシュアにとって二コラほど扱いやすい相手はいない。何十年もともに戦った仲であり、二コラが単純な男であるからだ。
「待ち伏せしてルーン石を狙う何者かを狙い撃つ。夜ならば私やお前が適任だろう。吸血鬼だから夜目も効く」
ジョシュアが言うと、二コラはしばらく黙った。そして口を開く。
「仕方ねえな。やればいいんだろう。俺、炎使ったら体に傷つくことは考えてくれよ。肉体燃やしてんだからな」
二コラは答える。
「ああ。杏奈の考えた作戦だから頼むぞ」
と、ジョシュアは言う。杏奈が考えた作戦はこうだ。二コラとジョシュアが博物館付近に潜伏。ルーン石を持っている人物からルーン石を奪い返す。どうやってルーン石を探知するのかというと、ノエルのイデアが重要となってくる。ノエルのイデアで感知して二コラとジョシュアで討つ。その周りを杏奈、シオン、グランツで固める作戦だ。
夜になる。博物館の近くに潜んだ二コラとジョシュア。吸血鬼なので夜でも周囲がよく見えるふたりだが、肝心のルーン石を狙う何者かが現れる気配は全くない。
(なんでだよ。ジョシュアのやつ勘違いしたか?)
この時の二コラは早く仕留めて終わらせたかったために焦っていた。だが、その心境に反してルーン石を狙う何者かは現れない。
「二コラ!ジョシュアさん!反撃を!ルーン石が持ち出されました!」
ノエルの声だ。拡声器を使用して声を伝えている。この付近には住宅が少なく宿の類もない。だから安心して拡声器だって使える。
二コラの方には出てきていない。ということはジョシュアのいる方向だ。
ジョシュアは物陰から姿を現し、出てきた何者かの姿をとらえた。
「嘘だろう!?」
目に映った人物はハマー館長。博物館の館長はルーン石を展示室から持ち去ろうとしていたのだ。
「セキュリティは大丈夫ということは、手出しは無用ということだよ。
と、ハマーは言った。
「はは、ご冗談を。館長本人が盗みをはたらくなんて、そちらの方が大問題だ」
ジョシュアはすぐにイデアを周囲に出した。このスライムの壁はコントロールが必要ではあるが、触れるものすべてを浸食し、溶かす。
「そうか。俺を館長だと思っていたんだなあ?」
スウウウウ。ハマー館長の姿が変わる。
「化けていたんだよ!化けて!変装なんてチャチなもんじゃないぜ」
ハマー館長は偽者だった。化けていた男はスキンヘッドで体中にタトゥーを施している柄の悪そうな姿をしている。そして、彼の周囲には解体された骨のビジョンが現れている。故にジョシュアはハマー館長の偽者がイデアを使うことをすぐに理解した。
(変装そのものが強みであれば自分から解くだろうか?いや、まだ何かある!)
ジョシュアはあえてハマーに近寄らなかった。一方のハマーはしびれをきらし、ジョシュアの操るスライムを避けながら突っ込んできた。ジョシュアはそれが何か、痛みによって知った。
「ぐあああああっ!」
光の魔法。吸血鬼であるジョシュアにとって致命的ともいえる能力である。光の魔法を受けたジョシュアの左腕はぼろぼろと崩れ、灰になる。
「俺たちはルーン石がここにあることも、ルーン石を7つ持った連中がここにくることも知っていたぜ」
と、ハマーは言ってジョシュアに揺さぶりをかける。ジョシュアがその発言で動じることはなかったが、光の魔法を使われたことについてはかなり動揺していた。冷静にならなければ。ジョシュアは一度深呼吸をした。
「諦めたらどうだ、吸血鬼よぉ?どうせ狩られるのがオチだろう」
博物館のバルコニーにいたシオンからはジョシュアの様子がしっかりと見えていた。ハマー館長が本来の姿を現し、光の魔法でジョシュアを押している姿も見える。
「行くか。仲間を失うことだけはごめんだ」
シオンはバルコニーから飛び降り、ジョシュアとハマーの近くに着地。
「灰になりな!」
ハマーの使う光の魔法がジョシュアに降りかかるとき、シオンはジョシュアを蹴り飛ばした。間に合ったのだ。
「間に合った……ジョシュア!無事なんだよな?」
と、シオンは言う。
「命はね。しかし左腕をやられてしまったよ」
突き飛ばされ、茂みに突っ込んでしまったジョシュア。それでもシオンの判断のおかげで救われたことには変わりない。ジョシュアの左腕は本当になくなり、シオンは自分の使う光の魔法の影響について再認識することになった。
「さて、今度は俺がお前をぶっ潰す番だな」
シオンの周囲を光が渦巻いている。それとなくハマーの力を理解したシオンは、この戦いが光の魔法での戦闘となることを予感していた。彼は吸血鬼狩りや6年前の出来事を思い出す。
シオンが先に動く。ハマーの死角に回り込んで音波を撃ち込んだ。光と雷がほとばしる。だがハマーも負けてはいない。シオンと同じ程度の光で応戦した。
「フン……最初から俺がまともに戦うと思ったか?」
「なに?」
ハマーが展開したイデアがハマーの体内に入り込む。すると、ハマーは白いフクロウに変身した。そのフクロウは華麗にシオンの攻撃をかわして空に飛び去ってゆく。シオンが光と雷の魔法を音波ごと撃っても避けられた。
「ノエル!!!白いフクロウを攻撃してくれ!白いフクロウはハマーが変身した姿だ!」
シオンは叫ぶ。
シオンの声を近くで聞いていたノエル。空を見渡すがフクロウの姿はない。鳥そのものがいない。
「どこに消えた?」
ノエルはルーン石を探知するときに使った文字列を再び展開する。地上では引っかからない。空でも引っかからない。地下ならどうだ?
「まさか……」
地下の下水道を歩く猫が1匹。灰色の猫だやがて猫は姿を変えてスキンヘッドの男に戻った。
「はあ……はあ……なんとか生きて離脱できたな。あとはアンジェラ様にこいつを送るだけか」
ポケットに隠し持っていたルーン石を出すハマー。その顔は任務達成後のような充実感に包まれている。
「郵送すれば何をしようか……?俺は今史上最高にハイだ……」
ハマーは封筒にルーン石を入れ、封をすると再び猫に戻る。念のため毛色は黒にした。
別の穴から地上に出た黒猫はポストの前で猫から人の姿、ハマーの姿に戻る。ハマーはアンジェラ宛のルーン石を投函した。その後ハマーは三毛猫の姿を取り、適当な場所に隠れた。6人からルーン石を回収する者はほかにいる。
イデア説明
千早ノエル
文字のイデア
密度:やや低 展開範囲:超広 継続時間:1時間弱 操作性:超良 隠密性:並
文字そのものをイデアとして扱う。文字列の構成で攻撃や補助、妨害など幅広い使い方が可能。
二コラ・ディドロ
炎のイデア
密度:並 展開範囲:やや広 継続時間:40分 操作性:悪 隠密性:低
火をつけた蝋燭の形をしたイデア。温度は2000度を超える。ただし、自分に跳ね返るダメージもあり、二コラが人間であれば5分も使用できない。
ハマー
骨のイデア
密度:低 展開範囲:狭 継続時間:1日以上 操作性:悪 隠密性:高い
人間の遺骨のような見た目のイデア。イデアそのものを自分の体に潜り込ませることでほかの人間や動物に化けることができる。なお、化けられる範囲は脊椎動物に限り、キメラ等には化けられない。




