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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
グレイヴワーム編(ちょっときついグロ描写あり)
24/107

二人の吸血鬼の復活

二コラとジョシュアが治療されて復活します。

いよいよ敵が明らかになり、盛り上げたいところです。どなたかわかりませんがブクマ有難うございます。

 5時間ほどが経過しただろうか。いや、時計では5時間以上進んでいるように見えた。シオンは時計と待ち時間で元の世界との「ズレ」を認識していた。異界はやはりおかしい。偽硬貨の年号表記も相まって、異界の時間についてますます気になってしまうのだ。


「杏奈。お前は異界の時間についてどう思うよ?」


 シオンは杏奈の方を見ずに言った。


「元の世界とずれているようには感じます。なんというか、時間の進み方が早い気がするんです。」


 杏奈は答えた。彼女も異界における時間について、疑問を抱いていたようだ。


「異界調査の任務なんですから時間についても探るつもりではいます。」


 そう続けた杏奈は調査用に準備しておいた手帳をちらつかせる。「異界調査手帖」。表紙にはそう書かれていた。


 考え事をするシオン、手帖を読み返す杏奈、学校の単語帳で単語を覚えるノエル、そして居眠りしているグランツ。4人の前にターヤが出てきた。


「処置は終わったよ。3日で目覚めなければ死ぬと思っていい。吸血鬼だろうと治療の現場はシビアだからね。」


 と、言うターヤ。彼女の来ていた割烹着のようなものには造られた血液とみられる紅い鮮血が付着していた。二コラとジョシュアが助かる保証はどこにもない。


「やっぱり付き添いはいた方がいいか?」


 シオンは尋ねた。


「そうだね。私の個人的な人選だと……その娘に付き添ってもらいたいところだね。私の研究に興味があるだろうし。」


 案の定ターヤの指名は杏奈だった。


「はい。二人を助けようとしたのも私ですから。」


 杏奈は答えた。



 杏奈をターヤの研究所に残してほかの3人は宿へと帰っていった。二人きりになったところで杏奈は「異界調査手帖」を開く。


「異界調査手帖……そういえばこちらの人間ではないんだっけ?」


 ターヤは言った。


「そうですよ。異界の穴が無視できない状態になったので異界……こちらへ調査に来ました。私のいた世界のことであれば答えられる範囲でいくらでも答えますよ。」


 杏奈は返す。彼女の持っている「異界調査手帖」には、元の世界のことが書かれている。元の世界における職業・魔物ハンター、錬金術師や錬金術の実情、魔族という種族の存在、吸血鬼について。それらの情報が役に立つのかもしれない。杏奈はそれらについて聞かれることを楽しみにしていた。


「そう。まず名前を聞いていいかな。私は興味のない人間の名前を聞きたくないけれど君は別だ。一体何者なのかい?」


「名前は神守杏奈です。魔物ハンターという仕事をしていて、調査任務で異界に。」


「そう。魔物ハンターねえ。私も知っているよ。形態はしらないけれど、魔物や吸血鬼絡みの事件を解決する仕事らしいね。何度か依頼したことはあるけれどいい仕事をするよ。」


 にやり、とターヤは表情をゆがめる。今までのずる賢い顔ではなく、心から笑っているような表情だ。


「ほかにも見せたい研究はあるんだけど、君は何を見たい?」


「吸血鬼近辺の研究が気になるところです。」


 杏奈は言った。発言だけでなく行動にも杏奈の抱く研究への興味は表れており、彼女は「異界調査手帖」の新しいページを開こうとしている。


「ついておいでよ。私の危険なサンプルを見せてあげる。」


 ターヤに導かれるままに杏奈は階段を降り、その下にある階層へ。ターヤの研究室の下の階層は杏奈が予想していたものとは全く違っていた。地上部分にはいなかった研究員たちが、サンプルの様子を事細かに記録している。そのサンプルはガラスのようなケースに収容され、特殊な処置が施されているように見える。


「ターヤ博士、その人は……?」


 階段のすぐ近くにいた研究員はターヤに尋ねた。


「別の世界からの上客だよ。くれぐれも失礼のないように。」


 ターヤは研究員に説明すると杏奈を銀色の翼の前に案内した。銀色の翼は何かの生物、少なくともコンドル並みの大きさの生物のものであると思われる。


 ◆


 検体名:シルバーウィング

 タイプ:Vampire

 人口生命体の遺体の一部。もともとの人工生命体は人間をベースとし、メンフクロウ、コンドルの遺伝子とともに紅い石を使用。吸血生物。


 ◆


「吸血生物の研究もなされているんですね。私のいた世界では規制がひどかったので記録させてください。」


 杏奈は吸血生物である検体シルバーウィングの様子を事細かに記録する。これも任務の一つではあるが、正体不明の生物や科学と錬金術にまつわる事柄は杏奈の好奇心を刺激した。


「そうでした、ターヤさん。危険性についてはどうなのでしょうか?」


「本当にまずい検体はこの下の階層で保管しているから問題ないよ。今の状態ならね。いくら強力な破壊兵器でも使わなければ人は死なない。」


 ターヤは答えた。しかし、杏奈にはある不安がよぎっていた。かりにターヤをアンジェラ・ストラウスが狙っていたら?ターヤが死ねばこの研究施設も打撃は受けるはずだ。いや、それだけではない。異界と元の世界の干渉の具合によってはここの吸血生物や検体も放出される可能性が高い。この時点で杏奈は異界の存在に対して危機感を抱いていた。


「どうしたのかな?」


「なんでもありません。私はここに長くとどまることはできませんが、この研究施設のセキュリティを万全にしておいてください。」


 この時から、杏奈は嫌な予感がしていた。杏奈はターヤの研究所にアンジェラが目をつける前にアンジェラを叩くことしかできない。そうするしかないのだ。



 2日が経過した。杏奈とターヤは二コラとジョシュアが入った医療用の棺がある部屋に向かった。


 だん!だん!ばんばんばんばん!


 棺の中から暴れるような音が聞こえる。内側から叩かれているような音だ。ターヤはすぐに棺に近寄ると、鍵と棺の蓋を開けた。


「はあ……はあ……俺は、悪い夢でも見ていたのか!?」


 赤髪の美しい男は息を荒げながら言った。冷や汗をかき、目は血走っている。


「無事でよかった、二コラ。」


 杏奈は言う。表情は全く違うものの、目の前にいる男は二コラだ。スリップノットの魔物ハンター名簿に載っていたあの男と間違いはない。


「なあ、教えてくれ。俺はいったいどうなっていたんだ!?アンジェラ・ストラウスに殺されかけて……空間の魔法を見切って……」


 どうやら二コラは気が動転しているらしい。


「あんたはもう心配しなくていい。あんたは、過程はどうであれ助かったんだ。きっとアンジェラ・ストラウスには負けたはずだけど。」


「そうか。俺は一度負けたんだな。あんたが誰なのかわからないが敵意はないんだろう?」


 二コラは杏奈に尋ねる。


「敵意はない。私は神守杏奈。異界の調査のために本部から派遣されてきた。」


 と、杏奈は答え、上着のポケットに入れていた魔物ハンター手帳を二コラに見せた。


「そうか。じゃ、信用していいんだよな。」


 二コラは落ち着いたようだった。それと同じタイミングで、もう一つの棺でジョシュアが目覚める。二コラに比べると落ち着いている様子だったが、やはり戸惑いはある様子だった。しかし、ジョシュアは状況を察していた。


「誰かわからないがありがとう。私たちを助けてくれて。感謝してもしきれないな。こうなったのは私たちの過失だろうに。」


「お礼ならターヤさん……彼女に言って。それと、もし私にもお礼をしたいのなら手伝ってほしいことがある。」



 二コラとジョシュアが完全に正気を取り戻し、二人は洗脳される前の出来事を覚えている限り話した。まず、アンジェラ・ストラウスとドロシー・フォースターは同じ場所にいること。彼女たちのいる場所はタリスマンの町であり、グレイヴワームからはかなり離れていること。アンジェラ・ストラウスはルーン石を集めてこちら側ではない世界――杏奈たちがいた世界を消し去ろうとしていること。ルーン石は二つの世界に対して同時に干渉できること。アンジェラ・ストラウスはルーン石を4つ所持していた杏奈たちの命を狙っているということ。それらの情報が明らかとなる。


「アンジェラのやることはだいたい理解した。あとはシオン先輩たちにも話さなければ。」


 二コラとジョシュアの話を聞いた杏奈は言った。吸血鬼二人もそれには同意する。


「出発は明日になるのかな。」




吸血生物

紅石ナイフ(異界では紅い石)を用いて吸血鬼化させた生物のキメラ。ベースとなる生物のDNAすべてを備え、種類によっては非常に危険な存在となる。杏奈たちのいた世界においては法律で生成が禁止されている。しかし、裏では生成している人物がいるという噂もある。異界ではターヤが研究に携わっており、彼女の管理する検体では「Vampire」と呼ばれている。

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