返り血の魔物ハンター
まだまだこれからです。さて、これからプロットを急ピッチで書き上げます!忙しくなっても投稿ペースを落としたくありませんので!
第二ラウンドだ。立ち上がるジョシュアを目の前にして、杏奈はあえてその場から動かなかった。
「怯んだか、神守杏奈。」
ジョシュアは破壊されたベランダの瓦礫の中から立ち上がる。杏奈はジョシュアに不意打ちを仕掛けるようなことはしなかった。二コラのこともあり、ジョシュアもまたイデア使いである可能性を考慮した杏奈はあえてジョシュアに近寄ることはしない。その判断は正しかった。
「ああ……不意打ちでもしてくれればそのまま溶かして殺してやれたんだがな。」
早速その思考をあらわにするジョシュア。彼としては不意打ちを試みた杏奈を溶かそうとしていたことになる。つまり、ジョシュアはそのような力を使える。
「隠密性のあるイデアか?それとも……」
うかつには近づけない。ジョシュアという男は二コラ以上に厄介な相手である。接近戦に持ち込みにくいことが何より痛い。それを分かった上でジョシュアは笑みを浮かべ、彼自身の周囲にスライムのようなビジョンを出現させた。グランツはこれを見たことがある。この力がグランツにとっての鬼門である。
「杏奈!スライムみてえなのが見えるだろ!?アレは触れたものを溶かすんだ!」
グランツは叫ぶ。
「……だろうと思っていた。ジョシュア本人が溶かすといっていたからね。さて、困った。私は接近戦しかできないよ。」
平然を装っているが、杏奈自身はとても焦っていた。しかし、杏奈の隣に立つノエル。
「杏奈。私だって戦えるんだよ。」
ノエルは言った。シオンはジョシュアを殺さずに戦えず、グランツは太刀打ちできない。しかし、ノエルならばどうか。今の杏奈にとってノエルはとても頼もしかった。一方のジョシュアは威嚇とでも言わんばかりに瓦礫をイデアで溶かしている。
「そうだな。まずはあのスライムを何とかしたいところだ。」
杏奈とノエルが身構える。先に仕掛けてきたのはジョシュア。しかし、杏奈が予想していた動きとは全く違う。いや、近づこうとしたところまでは予想できた。ジョシュアはスライム状のイデアで直接溶かそうとしてきたわけではなく、メイスにイデアを纏い、それで杏奈を攻撃しようとした。杏奈はすぐさま後ろに下がり、ジョシュアと距離を取る。すると今出はジョシュアがスライム状のイデアを飛ばしてきた。
「やっぱり来たか!」
杏奈が予想していたのはこれだ。杏奈とノエルは飛んでくるスライムを避けながら対策を考える。その一方、ジョシュアの飛ばすスライムは付着した煉瓦を容赦なく溶かす。
「どうする?」
「止められるか試してみるよ。」
杏奈の前にノエルが出る。それを狙ったかのようにジョシュアはスライムを飛ばす。だが、ノエルの狙いはスライムが飛んでくること。ノエルは文字の塊で壁を張り、スライムを防いだ。
「よし!これでいい!防げることはわかった。」
ノエルは言った。そして、杏奈の周りを文字のシールドのようなもので覆う。
「なんだこれは?」
杏奈は言う。しかし、それはすぐにわかった。杏奈を覆う文字のシールドはジョシュアが飛ばしたスライムで溶かされることなくはじいたのだ。これならば対処できる。そして、杏奈はジョシュアに本格的に立ち向かうべく、向き直った。そして、杏奈はさらに星空のようなオーラを纏う。
「何か策でも思いついたか?」
ジョシュアも身構え、切り込む杏奈に応戦する。鉄扇を振るう杏奈とメイスを振るうジョシュア。杏奈は必死にメイスを避け、鉄扇で執拗に首を狙う。ノエルのサポートがあるのでスライムそのものは怖くない。どちらかというと、警戒すべきなのはジョシュア本人のパワー。個人差はあれど吸血鬼は人間をはるかに上回るパワーを持っている。だから杏奈は常にジョシュアの動きの先を読んでいた。
「策くらいいくらでも思いつく!」
杏奈の鉄扇はジョシュアの腕を大きくえぐった。それと同時にジョシュアの蹴りが杏奈の脇腹に炸裂。イデアでのガードをしてもかなりの打撃を与えるような蹴りだ。杏奈はその衝撃で吹っ飛ばされ、壁に激突。そして、文字のシールドも消える。
「隙を突くことは全くずるくないのだよ。」
動けない杏奈に降りかかるスライム。
「守れ!」
杏奈の上に展開される文字の塊。それらはシールド状となり、スライムを防いだ。その間に杏奈は立ち上がり、軽くせき込んだ。
「……あんた、二コラより強いな。パワーも段違いだ。」
杏奈は言う。
「おだてたつもりか?私が従うのはアンジェラ女王様だけだ。このルーン石を授かったのだからな。」
ジョシュアはエメラルドグリーンのルーン石を杏奈に見せた。その文字はルツが持っていた『マンナズ』のルーン石とはまた違う文字。その文字を知っているノエルは気づく。
「カノのルーン石……ということはあなたも……!?」
「具体的に言ってもらえるかい?いや、それよりもお前の持つジェラのルーン石を奪っておかなくてはな。」
これではっきりした。杏奈はジョシュアの目的を理解した。彼はアンジェラのためにルーン石を回収しているのだ。そして、ルーン石の回収はビリー・クレイのしていたことにもつながっている。そして、ジョシュアもまた支配者の血で洗脳されていることは明白だ。
「一つ聞く。ルーン石を集めると何が起こる?こちらには光の魔法を使える味方がいるので、お前をすぐに殺すことだってできる。答えなければ残念だが……」
杏奈は言った。
「どうせ死ぬのだから教えても構わんだろう……ルーン石にはもう一つの世界に干渉する力がある。アンジェラ女王様はどうやらもう一つの世界への干渉が目的らしい。」
ジョシュアの言葉を聞いた杏奈の表情がゆがむ。そして、彼女の中で合点がいったものもある。あくまでも仮説の範囲だが。そして、仮説が正しければルーン石を回収されてはならない。
杏奈はこれ以上ジョシュアに何か聞くつもりもなく、ジョシュアに切り込んだ。
「覚悟はできているか!」
杏奈は言う。
「答えるまでもない!」
対するジョシュアもスライムを纏ったメイスで応戦する。やはり、いくら強力なイデアを扱う杏奈であっても吸血鬼を相手にすると厳しいところがある。ジョシュアが押している。杏奈はひたすらイデアでガードしていた。時折、杏奈のイデアがジョシュアのイデアに溶かされる。
「杏奈、あなたは一人じゃない。援護するよ。」
と、ノエル。そして、杏奈の左側に立ち文字の塊を様々な方向に飛ばす。杏奈の視線の端に映るそのビジョンが罠を仕掛けていることは明白だ。杏奈はただジョシュアを罠にかけ、首を取ればよい。
(ありがとう、ノエル。これで戦いやすい。)
「何を考えている……?」
ノエルの挙動にジョシュアは気づく。しかし、杏奈はそのタイミングを突いてジョシュアの額に蹴りを入れる。よろめいたジョシュア。ちょうどその場所に仕掛けられていた罠にかかり、ジョシュアは拘束される。
そして、杏奈は鉄扇でジョシュアの首を切り落とした。
「……終わった。あとは、この町で錬金術師を探すだけ……もしいなかったら二人は助からないかもしれないが。
杏奈はジョシュアの首をかかえた。そして、ノエルと二人でシオンやグランツがいる場所に向かった。
4人は合流する。吸血鬼の生首を抱えていたシオンと杏奈はお互いに服が血まみれになっていた。しかし、それでよかった。杏奈が鮮血の夜明団の一員だった二コラとジョシュアを助けようとした結果だからだ。
「とりあえず錬金術師を探そう。吸血鬼周辺の事は錬金術師が一番詳しいからな。」
と、シオンは言う。4人は宿に戻り、ジョシュアによって溶かされ、二コラによって燃やされた部屋に立ち入った。今夜は危険な夜だった。




