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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
グレイヴワーム編(ちょっときついグロ描写あり)
18/107

吸血鬼の刺客

お待たせしました。18話です。

主人公が少々危険なことを考えておりますが、同じ組織にいた人(人間じゃないけど)を助けるためなのです。

 スリップノットから1時間ほど歩くと次の町に到着した。町の名前はグレイヴワーム。煉瓦造りの建物が建ち並ぶ洒落た町だ。


「煉瓦職人の町グレイヴワームへようこそ!」


 スリップノットとは打ってかわって、このグレイヴワームで一行は歓迎されている。住民たちが何を考えているのか、分からないが。

 スリップノットの町で毒を盛られた杏奈たちはやや警戒していた。表では友好的に接していたとしても、住人が必ずしも敵ではない保証はどこにもない。

 時刻は既に午後5時を回っている。




 グレイヴワームに到着して1時間ほどでノエルが宿を見つけ、提案する。少し高い宿が良いのではないかということだ。賠償金を支払うことになっても50万デナリオンは余ることになるのだから少々高い宿でも泊まれないことはない。


「ここでもいいかもしれないね」


 杏奈も賛成し、宿は決まる。しかし、ギスギスとした空気は一向に変わらなかった。


「ねえ、杏奈。私はこの旅についてこない方がよかったかな?」


 ノエルは言った。


「一番困る質問だ。でも、それとは関係なしにあんたが貢献出来ているところはある。本当は危険に巻き込みたくなかったけれど」


 杏奈はため息混じりに言うが、それほど困った顔はしていない。それくらいはノエルにもわかる。


「この旅が終わったら、楽しいことをしようね。普通の女の子がやるようなことを」


 杏奈は無言で頷いた。普通の女の子がやるようなことは何だろう?杏奈にはよく解らなかった。


 そして、杏奈の視界の端に何者かの姿が映った。その瞬間、そいつは部屋の中へ炎を放つ。炎はベッドに引火し、メラメラと燃え始め……。


「火災の煙は炎より危ない!早いところ外に!」


「わかってる!」


 突然の出来事だった。杏奈とノエルは宿の部屋を出て外へ。通りから再び奴の姿を確認。赤髪で片目が隠れ、黒い服を着ている男だ。気温の割に薄着であるということは、彼が吸血鬼であることを意味する。そして、吸血鬼であってその見た目。杏奈には覚えがある。


挿絵(By みてみん)


「……ニコラ・ディドロ!?」


 杏奈は不意に言った。


「なぜ俺の名前を知っている……ストーカーか?」


 彼、ニコラ・ディドロは言った。複雑な色をした瞳が杏奈を睨む。今、ニコラは宿のベランダから杏奈を見下ろしている。


「ストーカーではない。あんたと同じ鮮血の夜明団の一員。神守杏奈」


「やっぱり間違いねぇな。俺はお前を倒せと命令されている。アンジェラ女王様にな」


 杏奈はニコラの発言に耳を疑った。もしニコラの発言が本当ならば、彼は鮮血の夜明団に潜んでいたスパイということになる。杏奈は考えられる可能性を、自分の記憶から引き出そうとする。それでもニコラは杏奈に考える隙など与えない。ニコラは彼自身の周囲にいくつもの蝋燭を出現させた。間違いなくイデアである。


「燃えてしまいな!」


 蝋燭が杏奈とノエルに降り注ぐ。降り注ぐ蝋燭から周囲のゴミに引火。明るい炎がグレイヴワームの通りを照らす。


「ちっ!リーチはどれくらいだ!」


 杏奈とノエルはさらに降り注ぐ蝋燭の炎をかわし、反撃のチャンスをうかがう。一方のニコラ。杏奈に遠隔で攻撃しても避けられるため、ベランダから飛び降りた。


 その瞬間、隣の部屋にいたシオンと目が合った。そして、シオンも何を思ったか隣の部屋のベランダから飛び降りた。


「……なんだッ!?」


 シオンが着地する音に気づいたニコラは後ろを見る。シオンは不敵な顔で笑う。


「よう、ニコラ。どうしちまったんだよ?鮮血の夜明団にいた時はこんなんじゃなかったよな?」


「……うっとおしいぞ、ガキ。俺はアンジェラ女王様の命令で!!!」


 まるで話が通じていない。ニコラ本人の意思か否か。シオンも気にしていたが、そこは杏奈があることに気付く。


「支配者の血です!吸血鬼が吸血鬼を操る手段の!以前本で読んだことがある!!!」


 杏奈は再び攻撃するニコラの炎をかわし、言った。


 支配者の血。数年前に公に認められない天才錬金術師が発見した理論。それは、輸血によって吸血鬼を隷属させる類いの技術。吸血鬼にしか行うことのできない技術。


「支配者の血だぁ?俺はアンジェラ女王様の為に!!!」


「はぁっ!」


 鉄扇の風圧で、ニコラの炎はかき消された。美しい星のようなオーラ、つまりイデアが輝く。そして杏奈はニコラを挑発するかのようにひきつけ、ノエルとニコラの距離を引き離した。


「シオン先輩!今からニコラの首を落とします」


「は!?」


 シオンは杏奈の発言に驚きを隠せない。吸血鬼の弱点は光の魔法。それを扱えるのはシオンだけだ。ゆえに、彼自身が二コラを倒すのだと意気込んでいた。

 そのシオンをよそに杏奈はニコラの執拗な攻撃をいなす。


「支配者の血によって操られた吸血鬼は支配者の血を薄める必要があるんです!」


 杏奈はそう言ってニコラの顔面に傷を入れた。ニコラの顔面の傷からは血が流れ落ちるが、その傷はすぐに塞がる。そして、蝋燭のビジョンを手に取り、杏奈に焼き付けようと振り上げた。そのとき、文字がニコラを縛る。


「杏奈、続けて。これが解けるまで」


 と、ノエルは言った。


「有り難う。助かったよ。」


 杏奈はそう言うと向き直り、再び話し始める。


「まず、ニコラはアンジェラに操られている可能性が高いです。見た感じ」


 杏奈がシオンの言葉を聞き、その状況は理解できた。ニコラは彼自身の意思で動いているのではなく、アンジェラに洗脳されているように見えるのだ。


「それはわかる。続けてくれ」


「はい。さっき言ったように、血を薄めるために首を落とします。吸血鬼は人間の体を繋ぎ合わせても生きていられるので血を薄めるには首を切り落とし、別の体に繋ぎ合わせる方法が最適です。ある錬金術師の研究データにありました」


 シオンは何かを理解したようだった。吸血鬼同士を繋ぎ合わせた前例ならシオンだって知っている。

 ――吸血鬼二人と人間の体をつなぎ合わせる実験。とある錬金術師が吸血鬼の「意志」についての実験と称して行った事。


「私が首を落としたら、先輩はこの首を保管してください。理論上では4日持つそうです。それまでに錬金術師を探しましょう。」


「……ああ。ニコラが助かることには期待しないでおくが」


 杏奈はニコラの方に向き直る。まだ拘束されたままだ。しかし、破られるのも時間の問題だろう。


「有り難う、ノエル。ここからは援護を頼む。私はニコラの首を落とすから」


 ノエルは覚悟したように頷き、杏奈は息を整えた。作戦開始。杏奈はノエルの拘束が解けた瞬間、ニコラに接近した。

19話も本日投稿です!

もしかしたら20話も…?

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