人ならざる者の敵
いやぁ、辛かったです。
あまやどり様からFA頂きました!有り難うございます!
グランツは、鮮血の夜明団は一度引いても単なる敵前逃亡はしない。つまり、逃げてもそれでは終わらない。
セリオンの洞窟の奥に再び現れる。
「……ほぉ、仲間引き連れて来たか。」
洞窟のランプで照らされたルツは言った。
「彼女か。魔族って言うのは。それにしても……いや、何でもない。」
シオンとルツの目が合う。すると、ルツは何かを思い出したようだ。しかし、シオンに対して思うことはほとんどない。それ故か、シオンが先に口を開く。
「なあ、奥にあるモノってなんだ?俺、いくらお前が魔族でもモノ扱いは出来ねえよ。」
シオンが言うと、杏奈はシオンに疑うような目線を投げ掛けた。シオンは確かに吸血鬼や魔族を倒しているのに。
「先輩もよく言いますよね。それに関しては同意です。命ある以上、モノ扱いはおかしい。」
と、杏奈も言った。
「面白い事言うよねェ?ちなみに、あたしとしては依頼主的に奥にあるモノはこいつだと思う。」
ルツの握ったものはターコイズブルーの石。その石はランプの光を受けて輝き、文字が見える。刻まれているのはルーン文字。杏奈は即座に理解した。前もって調べておいてよかったと感じた。
「ルーン石か。」
「よく解るじゃないか。ま、狙っている奴も大方目星がつく。だから渡せない。」
杏奈はここではっとした。ビリー・クレイがルーン石を回収していたことを思い出し、今回の依頼主のと関係を疑う。
「一つ聞く。あんたが目星をつけているのはビリー・クレイか?」
と、杏奈が尋ねる。お互いの間にピリピリとした空気が流れる。
「……そーいや、ビリー・クレイもいたか。確かにそいつも一枚噛んでるけどさ、それ以上に厄介な奴だ。そうだな。人間じゃないくせに人間以外を差別する。そんな奴だよ。」
ルツはクククと笑い、そして再び口を開く。
「あんたらはどう思うかい!?人外を差別する奴らをさァ!あたしをここに閉じ込めた連中を!!!」
口調、表情、風貌。すべて狂っている。しかし、言うことは真っ当なのかもしれない。
そして、シオンは人間以外を差別する者を一人知っている。生きているかどうかは別として。だが、ここで口を開くのが一人。
「理由があるのなら仕方ないだろう。」
グランツが言った。言ってはならない一言を。
「……グランツ。それだけは……」
「そうかい。和解を謀ろうとも結局それかァ!あたしも言うぜ。これだから人間は!!!」
グランツはルツを怒らせた。事実はそれだけだ。
ルツはグランツを優先的に狙って光線を撃ってきた。勿論手加減などない。光線はグランツのすぐそばを掠め、彼の着ていた分厚いスウェットの一部を焦がす。
「……馬鹿みたい。」
歩み寄りを試みた杏奈でさえ攻撃対象となる。そして、杏奈は考えていた。如何にしてルツの話を聞くか。当初杏奈が考えていた方向付けとは全く別の方向に進んでいる。
ルツは既に4人を皆殺しにすると決めているらしい。その被害はシオンやノエルにだって及んでいる。
そのノエルは文字の壁を張り、光線を防ぐ。そして、内心では憤っていた。いや、ノエルだって我慢できない。
「ふざけるな!グランツ!少し考え直せ!」
ノエルの怒号が広間に響く。
「ノエル!?お、俺は……」
ノエルもグランツの話に耳を貸すつもりはなかった。そして、グランツの手をシオンが掴んで外に引きずり出した。
「……はぁ、はぁ。杏奈、外に出ないの?」
ノエルが尋ねる。
「後で追い付く。先に逃げな。」
杏奈は言った。そして杏奈は鉄扇を閉じてルツに近づく。
「……死なないでね。」
ノエルはそう残して洞窟の外に向かった。気配でそれを確認した杏奈。
「やっと二人になれたな。」
と、杏奈は言った。
「はァ?同情ならいらん。それこそお前は跡形もなくなる。それも理解の上で近付きな。」
ルツは答えた。
「わかっている。まずは名乗りな。私は神守杏奈。種族は人間。人との関係に求めるのは対等な関係。もちろん吸血鬼や魔族に対しても。」
「あたしはルツ。お前は言っている事があまりにも胡散臭くないかい?」
この態度から見るに、ルツの怒りは先程より収まっているらしい。それでも一触即発であることには変わりない。
「胡散臭いも承知だ。それでもあんたを見下す位置に立つつもりもなければ崇拝するつもりもない。ただ事情を知りたいだけ。」
と、杏奈は言った。そこには好奇心もあったが、何より杏奈はルツと向き合いたかった。杏奈はシオンとは違う。杏奈とシオンが同じ人間という種族であっても。
「そうかい。あんたには、言ってもいいか。」
ルツはまだ怒っているのだろうか?杏奈はそれも気にしていた。
「あたしはアンジェラ・ストラウスに幽閉された。それが大体5年前。既にあいつは人間をやめていたねぇ。因みにルーン石を集めるのもそいつだ。」
口調からして怒りはそれほど引きずっていない。彼女は荒っぽくはあるが、怒りを引きずるタイプではないらしい。
「あいつは言っていたさ。人間の味方って。そりゃ人間からしたら大層な言い分だ、人間からしたらな。それが魔族には掌を返した。」
ルツが言うと、杏奈は顔をしかめた。アンジェラ・ストラウスは確かに鮮血の夜明団にいた。そして、新進気鋭とまで言われており、評価も高かった。そのため、魔物ハンターに狩られる立場からすれば恨まれるのだろう。
「あんたはどちらの味方だ?」
「……人間かそうでないかに関係なく、私は行動を見ることにしている。それ以上は言えない。だが、私は魔族だから、吸血鬼だからで差別はしない。差別するような方針だった鮮血の夜明団にも疑問があったよ。」
杏奈が言うとルツは薄笑いを浮かべた。
「アハハ。あんた、迷い無く紅石ナイフを使える人だろうな!だから嫌いにはなれないねぇ。まだ協力するほどの説得力はないが。」
ルツは言った。
「ルーン石は預けてやる。こいつを引き渡す時に、依頼者を再起不能にしてやりな。」
次回予告ッ!
「お前ら、丸太は持ったか!?いくぞ!」
痺れを切らしたシオンたちは丸太を持ってセリオンの洞窟の奥へ。奥にて待ち受けるルツ。
「私はルツを選ぶぞ!シオン先輩!」
次回、ルツと杏奈!お楽しみに!
※上記の予告は全て嘘です。