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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
異界の入口編
14/107

奥にあるものを取ってこい

そういえば魔物らしい魔物をあまり出していませんでしたね。吸血鬼ばかり。そして、これからも魔物といえばこいつ、というようなメジャーな奴らをあまり出さないようにします。

 夜が明ける。宿にいた一行も目を覚ます。周囲を確認する杏奈であったが、これといった事はない。実に平和な朝なのだ。

 隣のベッドで寝ていたノエルは既に起床したようで、部屋にある洗面所から水を流す音が聞こえてくる。


「これだけ平和だと逆に気が休まらないな。このところ宿に車が突っ込んだり毒を盛られたりと大変だったからな。」


 ノエルが杏奈に「洗面所を使っていいよ」と言うと、杏奈はすぐに洗面所へと向かう。長い髪を束ね、顔を洗う。


「あまり近くで見ることはなかったのだけど、杏奈も綺麗な髪をしているね」


「……うるさい。ある理由で切れないだけだ。本当はグランツより短くしたいのに」


 ノエルに背を向けた杏奈は少し動揺したようで、それを隠すように言った。だが、自分の容姿などを褒められることは悪い事ではなかった。


「でも、髪を褒められたのは初めてだな」


 杏奈はそれだけ言って顔についた水滴を拭き取った。この時の顔が見えたノエルは、杏奈が本当に綺麗な顔でもあると確信する。


 杏奈が本当に綺麗だということを知っているのは自分だけ。



 昨日杏奈が受けた依頼は『セリオンの洞窟の奥にあるものを取ってこい』という内容。さして怪しいものではないようにも見えた。


 やがて一行はセリオンの洞窟に到着する。湿度の高いセリオンの洞窟は正体不明の気持ち悪さを帯びている場所だった。


「さっさと終わらせて賠償金を払おう。昨日のと同じだと見ていいよな」


「そうですね。私もそう思います」


 シオンとノエルは先に進んでいく。その一方、杏奈は宿の時から抱える気持ち悪さについて考えていた。自分たちの命をまで狙っていた者たちの態度が違いすぎる。一体何がそうさせたのか。


 杏奈はひとまず依頼に集中することにした。グランツとともにシオンとノエルの後をついていく。その先に、怪しい気配が。


「ぐるるるる……」


 唸り声が聞こえてくる。すぐに正体はわかった。何とも形容しがたい、ライオン程度の大きさで、狼の頭と馬の前足とチーターの後ろ足。鳥の羽。首の周りには蛸足がたてがみのように生えている。


「なんだこれは……コラージュかよ」


 得体の知れない相手に恐怖するグランツ。無理はない。元の世界においてもこのような生物は確認されていない。どこぞの錬金術師ならば造る可能性はなきにしもあらずだが。


「コラージュじゃない。キメラだよ。錬金術とか魔族の力とかで動物をくっつけるやつ。ヴィオラっていう魔族の錬金術師が実験として作ったこともあるんだってね」


 杏奈は言った。


「マジか!錬金術師とかブリッツ兄さんしか知らねえよ!」


 グランツはそう言って、すぐさまイデアを出した。グランツの周りにダーツが現れる。6本手に取るとキメラに向かって撃った。


「よし!グランツに続くぜ!」


 グランツの攻撃が号砲となり、グランツに続いてノエルがスクリプトランチャーを撃つ。さらに続くシオン。雷の魔法を叩き込む。


「身を守るためだ。死んでも死ななくてもいいぞ」


 杏奈は星空のオーラを纏い、鉄扇でキメラに斬りかかる。触手が鬼門だが、粘液が出ていない分、かなり楽。


「援護するぜ、杏奈!」


「頼む!」


 杏奈がグランツをちらりと見た。グランツと杏奈の目が合う。それを合図に、グランツは杏奈の動きを予測し、ダーツを撃った。もちろんダーツは杏奈に当たらない。杏奈が避けるから。


「おおおおっ!」


 鉄扇がキメラの頭を両断。これでキメラは絶命する。脳をやられ、血が噴き出すキメラはその場に倒れた。杏奈としても、予想外の切れ味だと実感。イデアの力は伊達ではない。


「ふう。粘液がないだけでここまで変わるんだな」


「だよな。俺のダーツも綺麗に刺さる。いや、昨日のアレがおかしかったんだろ!」


 どうやらグランツはそう納得しているらしい。


「いや、杏奈のイデアはきっと成長している。悔しいけど凄いよ」


「えっ、そう……そうなのか?自分の事だが実感が全くない」


 戸惑いながらも杏奈は自分のイデアをよく見る。これといって成長はわからない。だが、ノエルは杏奈と過ごしていたからこそ杏奈の成長に気づいていた。


「よし、先に進もう。俺たちの受けた依頼はこの奥にあるものを取ってくる事だろ?」


 シオンの一言で、一行は先に進む。


 セリオンの洞窟には本当に何もいない。不気味なくらいに。しかし、湿度の高さが気持ち悪さを引き立てる。



 そして、ノエルはイタズラ書きを発見する。スプレーで塗った上からペンで書かれているようだ。


 ――ここから先、法律適用せず。


 嫌な予感しかしない。スリップノットでも法律を破る行為をする者はいたはずだが、法律が適用されないことを明記しているあたり危ないのだ。


「ノエル?」


 イタズラ書きの前にいるノエルに、杏奈は声をかけた。


「ねえ、引き返さない?法律が適用しない場所だなんて」


 と、ノエルは言った。


「は?大丈夫だろ!俺は先にいくぜ。」


 グランツは先走る。だが、この先に何が待ち受けているのか、知る由もなかった。


「止まれ!グランツ!一人で行くな!」


 グランツを追ってシオンも奥へと進む。残された杏奈とノエル。


「……行くしかないのか」


 杏奈は呟いた。


「杏奈……貴女だけには死んでほしくないのだけど……」

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