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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
106/107

再び

ここでひとまず戦いは収束します。あとはエピローグのみ。

 アンジェラは周囲の景色が変わったことに気づいた。彼女の周りにあるものは土の壁。穴の中にいるということは明らかだ。が、自ら降り立ったディサイドの町ではない。ここはどこなのか。

 杏奈をはねるはずだった貨物列車は土の壁にぶつかって大破した。これも含めてすべてアンジェラの予想をはるかに超える出来事だ。


「アンジェラ。ここがどこか教えてあげようか?」


 アンジェラの後ろに回り込んでいた杏奈が言った。その声を聞くアンジェラは戸惑いと焦りと怒りで眉をぴくつかせた。


「ここがどこか、って?それは貴女を倒せばわかるこ……」


「ここはタリスマンの町。あんたが洋館を浮かべた後にできたクレーターだ。アレに轢かれる2秒前に私の力で転移した。まるで都市伝説に出てくる異世界の話に似ていないか?」


 予想外の事態にアンジェラは戸惑い、杏奈の喉を剣で刺そうとした。対する杏奈は剣を鉄扇ではじきとばし、アンジェラの首筋に傷を入れた。


「何を……!」


 激昂したアンジェラ。表面上は極めて冷静な杏奈。だが、二人の間に渦巻く憎悪は目に見えてわかる。感情がイデアに及ぼす影響は非情に大きい。アンジェラを包む赤黒いイデアはかつてないほどに強大なものとなった。が、杏奈のそれも同じく強大なものとなる。宇宙のように青く、光輝くルーン石の加護も受けて。


「最終ラウンドだよ。私がそうだって言ったんだからそうだ」


 杏奈がアンジェラより先に動いた。ルーン石の加護を受けた杏奈は格段に動けるようになっている。対するアンジェラは素手で鉄扇を捌きにかかる。吸血鬼は痛みをも克服しているのだ。

 素手で鉄扇を受け止めるアンジェラは傷つきながらもすべての攻撃を受け切っている。が、その傷の治りは遅い。杏奈の斬撃によって皮膚と肉を削がれ、地面が血で染まる。

 異変に気付いたアンジェラは杏奈が斬撃を繰り出す直前を狙い、脇腹を右足で蹴り飛ばした。杏奈はそのまま吹っ飛んで土の壁の上に投げ出された。

 しかし、杏奈は立ち上がる。彼女のイデアのエネルギーは一切衰えることなく、放出され続ける。杏奈の目はアンジェラを睨んでいた。やがて彼女は立ち上がると、再びアンジェラに切り込んだ。


「これだから人間は!弱いくせに粋がるのだから!」


 一方のアンジェラは手を触れず、杏奈に近づかずしてイデアを放つ。それに伴って杏奈の内蔵や筋肉はねじ切れてゆく。それでも杏奈は口から血を流しながらも立っていた。


「御託はここまでだ、アンジェラ!この神守杏奈が、鮮血の夜明団の掟を執行する!裏切り者アンジェラ・ストラウスの首をここで取る!」


 杏奈は声高々に、鉄扇をアンジェラに向けて彼女の正面から宣言した。それから1秒とたたずにアンジェラの懐まで突っ込んだ。対するアンジェラは赤いブラックホールを杏奈に叩き込む。が、アンジェラのブラックホールは水色の光によってかき消された。


「まさか……ルーン石の加護がお前に!?弱者が!!!人間ごときが!!!守られるにすぎない存在が!!!」


 アンジェラの叫びを聞き流しながら杏奈は非情にも彼女の首を切り落とした。

 首と切り離されたアンジェラの体。傷口からはとめどなく血が流れ出る。まるで体内の血液がアンジェラの体を嫌っているかのように。

 ――首と体が切り離された吸血鬼は仮死状態となり、放置すれば4日ほどで死滅する。杏奈は落としたアンジェラの首を拾った。


「私はあんたを治療する気もなければ生かしておく気もない。この首は記録するためにしばらく残しておくけどね」


 杏奈はつぶやいた。体中の力が抜け、杏奈は地に膝をついた。時の流れがやや早い異界では東の空が少しずつ明るくなっていた。やがてアンジェラの体は太陽光を受けて灰になるだろう。


 杏奈がやることは一つ。鮮血の夜明団本部へ戻り、これまでの旅と戦いの記録を報告すること。異界での旅での出来事を思い出しながら杏奈は自らを奮い立てた。


「転移だ。転移先は私のいた世界のディサイドの町。ノエルと二コラとジョシュアの魂は天に。」


 最後の力を振り絞り、杏奈はイデアを爆発的に展開。そのままタリスマンの町をあとにした。そのとき、杏奈が流した涙がわずかにタリスマンの地を濡らした。




 破壊しつくされた町、ディサイド。その町は死屍累々としている。が、生存者がゼロというわけではない。異界から転移してきた身でありながらディ・ライトもそうだった。彼は瓦礫の影から何者かがディサイドに転移してくる様を見ていた。

 何物か、とは――。長くつややかな黒い髪。ところどころ破れ、返り血のついたブレザー制服。170センチを超える身長。間違いなく神守杏奈だ。

 ディ・ライトはすぐに瓦礫の影から姿を現した。


「神守杏奈!その首は……」


「残党か。私に逆恨みでもする気なのか?」


「違う。信じるはずはないだろうが俺は敵じゃない。ひとまずアンジェラの首を取ってくれたことを感謝する。俺も援護したかったところだが……」


 ディ・ライトは敵ではない。杏奈はその行動から察した。が、完全に警戒を解いたわけではなかった。杏奈はディ・ライトの仲間であったアルセリアを間接的に殺害し、逆恨みをされている可能性もあるとみていたのだ。

 しかし、ディ・ライトは一切杏奈に対して敵意を向けることはなかった。


「いずれ俺もアンジェラに殺される身だった。アルセリアのこともビリーが悪い。第一俺はこんなナリでも根に持つ人間じゃねえよ。そもそも俺はメリットがある行動しかしたくないんでな」


「そう。誤解して悪かった。私は本部に行くよ。あんたも来るか?」


「いいや、俺は別で用事がある」


 杏奈とディ・ライトはそれぞれ別の方向へと進んでいった。



解説

アンジェラ・ストラウス

ブラックホールのイデア

展開範囲:超広 密度:高 継続時間:5日 操作性:良 隠密性:超悪(ただしルーン石を使ったら格段に良くなる)

洋館を浮遊させ、転移させた能力。転移する穴を生み出し、人や物(規模が大きくなれば場所も)を転移させる。その穴は赤黒く、ブラックホールのようになっている。不完全な状態であれば、渦巻くブラックホールの力で空間をミキサーのようにかき混ぜたり人に撃ち込むことで血管や内臓を激しく損傷させる破壊力がある。杏奈の能力とは転移するメカニズムが違い、アンジェラは転移するゲート経由で、杏奈は経由せずに無理やり転移させている形となっている。

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