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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
105/107

獣の如く

分割したのでやや短いです。

 アンジェラの攻撃を受け、杏奈は破壊された町に倒れていた。が、意識がないというわけではない。かといって調子がいいというわけでもなく内臓がいくつか損傷した上に血管がいくつか切れている。生きていられるのは杏奈がイデアを内臓や血管の損傷を埋め合わせるために使っているからだ。止めてしまえば杏奈は死ぬ。

 痛みにさいなまれながら杏奈は立ち上がった。今、彼女の体は内出血のため痣だらけだ。

 向かう先はアンジェラのところ。アンジェラのイデアのエネルギーをたどることは杏奈にとってさほど難しいことではなかった。




 シオンとエンゲルがアンジェラにやられたところでディ・ライトが飛び出した。彼はアンジェラの後ろを取ったつもりでいたが、アンジェラも馬鹿や鈍感ではない。


「次はお前か。暗殺のことといい!」


 アンジェラは攻撃してきたディ・ライトに気づく。彼はすでにイデアを展開していた。ディ・ライトのイデアは紫外線。アンジェラの苦手とするものだった。

 ディ・ライトのイデア、紫外線を放つ鞭がしなる。これがアンジェラに触れなくても効果はある。が、ディ・ライトはそれで満足することはない。その鞭をアンジェラにたたきつけた。


「甘いわ。鍛えても強くなれない男の攻撃なんぞ簡単に避けられる」


 アンジェラはディ・ライトの攻撃をひらりとかわし、その勢いでディ・ライトに詰め寄った。右拳に込められた赤黒いイデア。アンジェラはそれをディ・ライトの鳩尾に叩き込んだ。


「止め!」


 赤黒い拳を受け、ディ・ライトは地面に倒れた。まだ生きてはいるものの、戦闘不能に追い込むには十分すぎる威力だ。

 ディ・ライトが倒れたのを確認したアンジェラは一度イデアの展開をやめた。すると、彼女の感覚に何かが訴え始めた。

 ――アンジェラのその身を狙う者が再びやってくる。




 痛みに耐えながら、杏奈はアンジェラに追いついた。

 血に濡れた服。暴走しているかのような形相。食い荒らされたような何者かの遺体。アンジェラはきっとそいつの血を吸飲した。さらに、その近くには生死のわからない男が倒れている。

 杏奈は後ろからアンジェラの首を狙う。今度は完全に切り落とさなければならない。一閃。アンジェラは気づいていた。鉄扇と剣がぶつかる音が辺りに響いた。


「やはり生きていたのね。けれど、血管や神経が切れた状態でなぜ動ける」


「理由は言わない。別に奇跡だと言うつもりもないけどね」


 再び動いたのは杏奈だった。剣よりもリーチの短い鉄扇で、確実にアンジェラの首を落とすために彼女の懐に飛び込むのだった。


「剣戟を挑むのね。乗ってやろうじゃないの!」


 剣の扱いに慣れていないアンジェラは杏奈の鉄扇をかろうじて受け止める。が、二人の間には素の身体能力以外に決定的な差があった。エンゲルの血を啜ったことでイデアもパワーアップしているアンジェラ。対する杏奈は内臓や血管の機能としてイデアの何割かを割いており、全力で戦うことはすなわち死を意味する。


(せめてこの怪我がなければ全力でアンジェラと戦える。多分、アンジェラが次に歪ませてきたら……)


 杏奈は決して何も考えずに鉄扇を振るうわけではなかった。振るい、受けられ、アンジェラをさらに後ろへ押す。金属と金属がぶつかる、耳触りの悪い音が響く。この均衡の状態で杏奈はさらにアンジェラの懐を狙った。が、その狙いはアンジェラに読まれていた。


「甘いッ!甘すぎる!!!」


 アンジェラは斬撃にみせかけて杏奈の腹に蹴りを入れた。態勢を崩した杏奈に対して今度こそ斬撃を入れる。狙いは足。アンジェラの剣は杏奈が認識できない速度で彼女の左足に傷を入れた。その傷は杏奈の足の筋肉をも切り裂いていた。

 杏奈は耐えきれずに地面に崩れ落ちた。動こうにも足に力が入らない。杏奈はただ、彼女を見下ろすアンジェラの顔を睨むことしかできなかった。


「しかしまあ、転移する力を不完全でありながら扱うことには驚いたわ。けれど、それも関係ない。貴女はここで終わるのよ」


 動けない杏奈を目の前に、アンジェラは言った。彼女が何をするのか。何がくるのか杏奈は全く予想がつかなかった。だからこそ、内蔵や神経や血管の保持に使わないイデアを最大限に解放する。左足の筋肉が動くようになった杏奈は立ち上がろうとした。しかし、それと時を同じくして空間の歪みが「穴」となった。

 その穴から見える一直線の光。それを放つ何か。鉄の物体。それは――。


「な……」


「肉片になりなさい!この貨物列車で!!!」


 貨物列車だった。どこかから転移された貨物列車は杏奈にむかって突っ込んでくる。ブレーキもレールも関係なく、ただ鉄の塊として。暴走する貨物列車は地面から3メートルほど離れた地点から杏奈に向かって突っ込んでくる。もはや杏奈に避けるという選択肢はない。左足が動く今であっても。


(こんなところであの世に行ってたまるか!)


 杏奈が貨物列車にはねられる瞬間、彼女のイデアが半径15メートルの範囲を包み込んだ。そして、包み込まれたものは消えた。後ろの部分だけとなった貨物列車が範囲外のビルに突っ込み、大爆発を起こす。破壊された町はさらに爆発の炎であかあかと照らされる。

 杏奈とアンジェラの姿はそこにはなかった。




解説

ディ・ライト

紫外線のイデア

展開範囲:狭 密度:並 継続時間:10分 操作性:並 隠密性:悪

紫外線を放つ鞭。直視するだけでも見えないダメージが蓄積するたちの悪い能力。特に吸血鬼に対して強い影響を与え、光の魔法を使えない者のサポートとしては最も強力だと言われている。吸血鬼に対する直接の攻撃性はほとんど有していないが。

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