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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
103/107

命の淵

長くなったので分割しようと思いましたが分割はしていません。ちょっと長いです。

 アンジェラは鮮血の夜明団本部の建物の大半を消し飛ばした。建物の破片が地面に落ちる。次は警察組織。アンジェラはバイクに乗ろうとした。が、そのとき異変は起こる。

 空が光る。太陽のように眩い光は何かの形を現した。そして、アンジェラは空に現れた光の正体に気が付いた。


「来たか、神守杏奈。洋館ごと来るとは思わなかったけれど」


 やがて光は洋館の形となり、アンジェラの上に落ちてくる。その洋館をアンジェラは受け止めた。いや、それもできずに押しつぶされた。

 洋館は真っ二つに割れ、激突した場所も相当な被害を受けていた。そのほかにも破片などが散乱し、まるで震災でも起きたかのようだ。近くにいた人々は混乱に陥れられ、それでいてもの珍しい洋館の落下を見ようと人だかりができる。まさにパニックであった。


 一方のアンジェラは洋館の残骸に押しつぶされながらも、その下から這い出て来た。その姿は支配者の風格などとどめておらず、傷だらけで人間なら生きていられない状態だ。


「くっ……まだまだ私は死なない……が、気分はよくない。生き血を……生き血が欲しい……」


 アンジェラは口の中にたまった血の塊を吐き出した。押しつぶされ、見るも無惨になっていた彼女の体は吸血鬼の再生力によってゆっくりと再生していく。が、彼女も体力を消耗しているのか吸血鬼本来の再生力を発揮できないでいた。


 洋館の残骸の周りには野次馬たちが集まっている。都合がいい。アンジェラの目にもその様子はうつり、彼らの血を吸飲しようと考えていた。

 アンジェラは持てる限りの力で赤いブラックホールのイデアを展開し、野次馬たちを引き寄せると近い順に彼らの血を吸った。


(体に力が戻ってくる……!これでディサイドは制圧できる!)


 アンジェラはそう言うと、鮮血の夜明団構成員の生き残りが持っていた剣を拾った。周囲には血を抜かれた死体が転がっている。魔族が暴れたとき以上の犠牲者が既に出ていたのだ。




 ディサイドの地に落ちた洋館は激しく損傷した。杏奈とグランツがいた場所からは夜空が見える。

 自分が生きている、ということを確信した杏奈は目を開けた。広がるディサイドの町。破壊されたビル。もはや残骸ともいうべき鮮血の夜明団本部。そのほとんどがアンジェラによって破壊されている。

 杏奈はグランツとともに傾いた廊下を進む。玄関近くの小部屋からは複雑に色が混ざり合った光が漏れていた。杏奈はそれが気になったのか、中を覗く。

 洋館が地面に墜ちるときに揺れたのが嘘だと言えるほどきれいに並べられたルーン石。その光は杏奈を惹きつけ、彼女はルーン石を手に取った。


「光っている……」


 その光は杏奈を導き、加護を与えるようだった。ルーン石の中でもひときわ強い光を放つ「ジェラ」のルーン石。杏奈が最初に手にしたルーン石。彼女はそれをポケットに入れると部屋を出た。

 ノエルが死に際に遺したメッセージ。杏奈はノエルの残した「ルーン石がカギ」というメッセージを「ルーン石が勝負を分ける」と解釈した。それが合っているという確証が持てなくても、だ。


「何かあったか?」


「あったよ。ノエルのメッセージが本当ならアンジェラを倒すカギになるかもしれない」


 グランツと合流すると杏奈は答えた。2人は傾き、皹の入った廊下を歩いてゆく。ところどころ洋館の壁や床の材質――人骨がむき出しになり、2人のはるか後方では二コラの遺した炎があかあかと燃えている。



 洋館の落下にも耐え、生き残った二人はドアを開けて外に出た。

 死体、血、建物の残骸。杏奈は思わず口を覆った。


「ひどいな。ここまで殺すのに躊躇もへったくれもねえのかよ」


「みたいだ。さすが元魔物ハンター。人間の味方を名乗っておきながらよくここまで殺せるよ」


 と、杏奈。


 杏奈とグランツがアンジェラを探していると、突然近くのビル街がねじれの中に取り込まれた。ビル街はたちまち瓦礫の山と化し、人々もどこかへと消えた。

 ここにアンジェラがいる。杏奈は鉄扇を開いて瓦礫の山へ向かって歩いて行った。


「おい、待てよ!俺も行く!」


 グランツもその後を追う。その先を行く杏奈は決して後ろを振り返らなかった。ただ強いエネルギーのある方へ。引き寄せられるように。余計な思考を排除していた。



 アンジェラは足音に気づく。ハイヒールなどの特徴的な足音ではなく、ローファーを履いた人が歩くときのような足音だ。そして、アンジェラは待っていた。

 アンジェラは足音のする後ろを振り向いた。170センチメートルは超えるブレザーを着た女性、神守杏奈はたしかにここにいる。


「生きていたのね」


「生き残らないとあんたを倒せないからね。私は悪霊みたいにあんたを祟れない」


 杏奈とアンジェラはにらみ合う。世界を超えるという反則的な力を持った2人。どちらかが動けばもう片方はどうしようもないダメージを負うだろうという考えから、2人は冷戦のような状況を維持していた。


「できれば復讐者になりたくなかったが、この怒りだけはどうでもできないな。ねえ、アンジェラ。今私はどんな顔をしているか?」


「こちらの世界を超越した私には関係ないわ。どんな顔だなんて笑わせる!拒絶したこの世界への復讐者である私に向かって言えちゃうの!?」


 これは挑発。杏奈も理性ではわかっているつもりだった。が、もはや杏奈の怒りは理性で鎮めることなどできない。

 ――先に動いたのは杏奈だった。イデアを纏って鉄扇を開き、アンジェラに詰め寄る。一閃。

 対するアンジェラは拾った剣で鉄扇を受け止めた。吸血鬼であるアンジェラは杏奈よりはるかに力で勝る。片手で持った剣だけで杏奈を弾き飛ばした。


「歪め!捻じ曲がれ!人間を超えた私の力を見るがいい!」


 追い打ちをかけるように、剣を持っていない左手に赤いブラックホールが出現した。それが手から離れると瞬く間に広がり、杏奈を包み込んだ。杏奈はその中へと引きずり込まれた。


「この中では体のすべてがぐちゃぐちゃにされる。まるでミキサーにかけられた野菜のようにね。とはいえ、ゴキブリをミキサーにかけるのも気持ち悪い」


 アンジェラはつぶやく。が、杏奈はそのブラックホールを突き破った。

 一閃。杏奈はアンジェラの顔に深い傷を入れる。さらに刃を返す。アンジェラは首にも傷を負う。彼女の傷口から激しく血が噴出した。

 杏奈はためらわずにアンジェラの脇腹に蹴りを入れる。

 アンジェラは瓦礫にたたきつけられた。


「立ちなよ。たかがゴキブリにここまでやられるのは気分がわるくないのか?」


「神守杏奈……!」


 アンジェラは言った。彼女の傷は瞬く間に再生している。今度はアンジェラが杏奈に向かってくる。剣と鉄扇がぶつかる。お互いに赤黒いものと宇宙のようなものを纏い、とんでもないエネルギーが生じている。下手をすれば空間でもねじまがりそうなエネルギーだ。拮抗する二つのイデア。だが、少しずつアンジェラが押し始めていた。


「どうやら素の力の差が出たようね!人間は吸血鬼に勝てない!」


 アンジェラは杏奈の鉄扇を払い、首を狙った。対する杏奈は鉄扇で剣を受け止める。

 払って、振って、受け止められて。二人はその攻防を繰り返す。それでも受け流す杏奈は確実に追い詰められていた。


(持久戦になるのは正直まずい。ひとまず考えるのはどうやってアンジェラの首を落とすか、だ。二コラやジョシュアよりも厄介だよ)


「隙だらけね。捻じ曲がれ!今度こそお前は死ぬ!」


 赤いブラックホール。至近距離だった。杏奈はその中に引きずり込まれる。イデアを展開していた杏奈はブラックホールによって体をずたずたにされることはなかった。が、彼女はその場に倒れ伏す。

 杏奈の体のあちらこちらから血が流れ出た。アンジェラは彼女の手首を触れる。脈はない。呼吸もしていない。


「死んだか?いや、私を討ちに来たのだからこれくらいで死なれては困る。生きているんでしょう、神守杏奈。私はさっき本気を出すことをためらった」


 アンジェラは杏奈の首を片手で掴み、自分の目線より高いところで持ち上げた。杏奈は目を閉じ、呼吸もなく体は一切重力に逆らわず、だらんとしている。


「生きているのよね。仮に死んでいたらそれまでだけど」


 動かない杏奈を問い詰めるアンジェラ。まるで自白を強いる者のように杏奈の顔を見つめる。

 突如彼女の藍色の左目が血を噴いた。何者かの攻撃。狙撃か。違う。アンジェラの左目には細長いもの――ダーツが刺さっていた。

 その攻撃は1発だけにはとどまらず、杏奈をさけてアンジェラの左半身に15の穴をあけた。そのコントロールはダーツそのものがアンジェラに引き寄せられているかのような精度だった。


「……グランツ・ゴソウか。せめて私が人間であれば殺せていたものの、相性が悪かったわね」



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