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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
102/107

バイバイ・ビューティフル

思ったより町破壊が地味ですが。

 様々なものが流れ込み、混沌ともいうべき空間。これが二つの世界の狭間だ。遺骨、建物、そのほかのものが不規則なスピードでうごめく中、アンジェラは自分で切り開いた「行先」へと足を進めた。




 夜だ。

 時間のずれがあるにしては珍しく、二つの世界は同じ時刻だった。

 アンジェラが穴から出たその先はビル街や商業施設がある。私はここを知っている、とアンジェラは感じ取った。そう、ここはレムリア大陸7大都市のひとつであるディサイド。

 アンジェラは手ごろなビルの屋上に飛び降りた


「妙な気分よ。だけど、高揚しているのは確かにわかる。一晩でこの町を制圧するわ」


 アンジェラはイデアを最大限に展開し、町のメインストリートを進み始めた。

 その女、道行く人々は全員無差別に殺し、血を吸飲する。アンジェラの体は一般人の血で赤く染まっていた。逃げる者は彼女の能力で体をぐちゃぐちゃにされ、道端に投げ捨てられた。

 ディサイドの住人たちはなすすべもなく死体となって路肩に積み上げられていった。

 アンジェラは人殺しだけでは飽き足らず、町に植えられた街路樹を引き抜いてビルに投げ込んだ。割れるガラス。建物の中では騒ぎが起こる。聞いているだけで気分が悪くなったアンジェラはイデアを一瞬にして展開し、ビルを中心とする空間を湾曲させて瓦礫の山にした。


 降り立った場所付近の通行人はほとんどアンジェラに殺された。アンジェラは破壊しつくされたメインストリートを離れ、まだ破壊されていないビル街の通りに出た。

「青白い金属」を動力源とする車やバイクがとめられている場所にアンジェラは近づき、鍵のささったバイクを拝借した。

 アンジェラはそのバイクでディサイドの郊外へと向かう。鮮血の夜明団本部へ。アンジェラがかつて所属していた組織へ。彼女に差し向けられた刺客の所属する場所へ。邪魔だと思ったものすべてはその破壊的なイデアで捻じ曲げながら進んでゆく。



 鮮血の夜明団本部。アンジェラが所属していた6年前とは打って変わり、教会のようであるがどこか近未来的な様子となっている。アンジェラはバイクを乗り捨て、中へ入っていった。



「侵入者か?」


 異変に気付いたウォレスは会長室を出た。

 まがまがしい気配。魔法とは全く異質の気配。だが、それは確実に敵意を持っていた。ウォレスはその気配のする方へと向かった。


「久しぶりね。貴方が迎えてくれるとは思わなかった」


 その一言でさえ、アンジェラは圧迫感を込めていた。押しつぶされそうな空気の中、ウォレスは何も言わない。ウォレスがわかることはただ一つ。アンジェラは変わってしまった。もはや彼女は6年前のアンジェラではない。


「せめて何しに来た、なんて言ってほしいわね。それとも恐怖を覚えたの?」


「違う。今度こそお前を討たなくてはならない。監視カメラにも映り込んでいただろう」


 ウォレスはすっと光のチャクラムを出した。1つにはとどまらず、彼に出せる限界まで。

 そして光のチャクラムを放つ。光の輪が高速回転しながらアンジェラに向かって進んでゆく。記憶を取り戻したわけではないが、ウォレスの実力は6年前から格段に上がっている。まるで別人のように。


「捻じ曲がれ!私はもはや6年前の私ではないっ!」


 ウォレスとアンジェラの間の空間が激しく捻じ曲がる。それが全く理解できないうちにアンジェラはねじれを飛び越え、ウォレスの首を掴んだ。

 そこで赤いブラックホールをウォレスの心臓に叩き込む。ほどなくしてウォレスは絶命する。


「さて、この建物もろともぶっ壊す。私には邪魔でしかないわ」


 アンジェラのイデアがかつてないほどの強まりを見せる。

 ディサイドのメインストリートで何人かの吸血鬼の血も吸飲していたためか、アンジェラの力は異界にいたときよりも格段に強まっている。

 赤いブラックホールは直径3メートルほどとなり、建物のパーツを引きずり込んでゆく。その勢いは衰えることを知らない。


 ――赤いブラックホールに引きずり込まれたものはどの世界にもたどり着かない。ただ、無数に存在する世界の狭間を漂うにすぎない。アンジェラはその特異点だ。




 アンジェラは消えた。茫然とした杏奈がたたずむ中、グランツが2階からおりてきた。


「今のは何だったんだ!?俺、ずっと見ていたぞ。それでも俺の理解の範疇を超えていた。一体何が起こったんだ!?」


「アンジェラは別の世界へ行ったみたいだ。あいつが言うにはこの洋館も長くはもたない。多分、落ちるんだと思う。私たちの負けだ」


 淡々とした声の杏奈。彼女は口調こそ感情をこめていないが、グランツにはそのくやしさが伝わってくる。杏奈はため息をついた。


「きっと、あんたと心中することになるんだろうな。私にかける言葉はあるかい?」


「縁起でもないこと言うなよ……それにお前だったらきりぬけられるかもしれないぞ!ヴィダルいわくお前の能力はアンジェラと同じタイプらしいからな!あいつがやったのと同じようにできればうまくいくかもしれないぜ?」


「同じタイプ?私が?」


 杏奈にはほんの少しだけ思い当たるところがあった。アンジェラが杏奈の目の前で挑発したとき。杏奈はあのとき、自分の周りで渦巻くイデアの感触が今までと明らかに違うことに気づいていた。それがアンジェラと同じタイプの能力であることの証明か。

 そして、杏奈はもう一つの要素も思い出す。ルーン石だ。アンジェラは言葉からしてルーン石の力を借りて消えたのかもしれない。


「やってみるよ。ただし、うまくいかなければ私もあんたも死ぬ。それでいいか?」


「おう。努力してうまくいかなければそれまでだろ」


 グランツは答えた。

 杏奈は彼女の持てる限りのイデアを展開した。これまで、彼女から50センチほどの範囲しか覆うことのできなかったイデアは明らかに範囲を広げていた。まるで、杏奈そのものが銀河となったようだ。激しくうねるイデアは杏奈の力を証明していた。


 まだいける。

 もっとだ。

 まだだ。

 もっと力を。

 まだまだアンジェラには。


 力を解放していく杏奈の頭にはこれまでの旅におけるできごとが浮かびあがってきた。異界に体が馴染まなかったことから、直近の出来事――二コラの死まで。杏奈はぐっと歯を食いしばる。


「最終決戦ということだね。すべてのルーン、私に力を!私はかならずアンジェラを倒す、そしてこの館の生存者は絶対に死なせない!アンジェラを倒さなくては!」


 館全体が凄まじいエネルギーに包まれると同時に、落下が始まった。効力が切れたらしい。


「杏奈!!!無理なのか!?俺も力を貸せるなら……」


 グランツが叫ぶ。杏奈はその声に耳を貸さず、力の解放を続ける。やがて、彼女のイデアは超新星爆発のような光を放ち、館全体を包み込んだ。


 ――激しい光を最後にタリスマンからアンジェラの館は消えた。



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