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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
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奈落の底

ボス戦突入です。もちろん一筋縄ではいかない相手だし、いわゆるチートです。

 「反応からするに、ジョシュアが戦っているのは吸血鬼みたいですね。どうしましょうか?」


「俺が助太刀するよ。光の魔法が弱点だってこともわかるし何より俺は吸血鬼との戦闘に慣れている」


 シオンは答えた。

 これに対してほかの4人に異論はない。シオンはできるだけ気配を消してジョシュアとビリーが戦っている場所に近づいた。




 他の4人が待っていた小部屋にシオンだけが戻ってきた。その顔は笑っていない。顔色の変化に気づいた二コラは言う。彼の傍らには治療を受けて歩けるようになったグランツがいた。その傍らでノエルは索敵用のイデアを展開し、付近の状況を探っていた。どうやら小部屋に残った4人は何があったのか気づいているらしく、二コラが口を開いた。


「ジョシュアに何があったのかは聞かねえ。俺もわかる」


「そうか。後悔もあれば俺も悲しいとは思っている。今は泣いている暇なんてないだろ」


 と、シオンは言った。ジョシュアは死んだ。シオンに降りかかった細かな2色の灰がその事実を物語る。この場で誰かが涙を流す、ということはなかった。


「さて、気持ちを切り替えるぞ。アンジェラの能力はビリー以上に得体のしれないモノだ。一応経験済みだが、アレは下手すれば精神がイカれるかもな」


 と、二コラ。彼は明らかに変な事を思い出した、と言いたげな表情だった。二コラとジョシュアはアンジェラと接触した経験があったのだ。二コラの(ゆが)んだ表情はアンジェラに対するよくない感情をものがたっている。


「シオン、ノエル、グランツ、杏奈。できるだけ短い時間で勝負を決めるぜ。反撃でもされたらよくて半分の犠牲、最悪全滅だからな」


 二コラは言った。




 ルーン石の置かれた部屋。アンジェラの気配はそこにある。部屋に一人たたずむアンジェラは自分が何者かに探知されていることを察した。彼女は部屋を出て探知する者の方へと歩いていく。

 そのアンジェラの視界にはヴィダルの遺体が入った。死してなお彼の顔は美しい。アンジェラは遺体から目をそらし、廊下にかけられているランプを見た。


「来るのね。いや、来なさい。私に触れられるのなら」




 杏奈たちは1階と2階にわかれてアンジェラへの攻撃を決行することにした。利用するのは階段と天井に空いた穴。

 1階でノエルとグランツとシオンが待ち伏せ、階段に杏奈、2階の穴付近に二コラが身を潜めることにした、


 やがてノエルの探知にアンジェラの反応が強く出るようになった。今がチャンスなのだろう。

 手始めにノエルは動きを止める文字列を床に配置した。


 来た。

 アンジェラはヒールの音を立てて歩いてくる。その足に文字列が絡みつく。これが攻撃開始の合図となる。

 先陣を切ったのはシオンだった。指先に溜めた光をアンジェラに向かって浴びせる。これがシオンにできる最大限の攻撃だ。

 煌びやかな光がアンジェラへと引き寄せられるように進む。


「ねじ曲がれ……!」


 アンジェラに向かって撃たれる光の魔法は何かの力を受けたかのようにねじ曲がった。まっすぐに進む特性のあるシオンの攻撃が曲がった瞬間、階段から見ていた杏奈は顔をしかめた。アンジェラには何があるのだ。

 アンジェラは攻撃を捻じ曲げても今は動けない。シオンはそれをチャンスととり、アンジェラの前に姿を現した。


「久しぶりだな。会いたかったんだぜ」


 シオンはアンジェラの前に現れるなり光の魔法を撃ち込もうとした。が、アンジェラは一瞬でイデアを展開し、空間を捻じ曲げてシオンをイデアで包み込んだ。


「奈落の底に落ちなさい。あなたが一番目障りなの」


 ブラックホールのように捻じ曲げられた空間に引きずり込まれたシオンはこの空間から消えた。あまりにもあっけない。


「嘘だろ……ジョシュアに続いてシオンまでやられちまった……」


 アンジェラから一番離れた場所に潜んでいたグランツはつぶやいた。次は誰だ、と言わんばかりのアンジェラ。彼女は何も言わなかった。




 暗い空間。かび臭い空気。シオンは一瞬にしてこの空間に閉じ込められた。

 ほとんど明かりのない空間が壁で隔離され、近くには人骨も転がっている。それはここで人が死んだ、または死体が持ち込まれたことを意味している。


「今日は二人もきたか。何があった」


 この暗い空間に閉じ込められた「何物か」が声を上げる。

 シオンが顔を上げると、そこには人間のようで人間ではない何者かがいる。そいつの傍らには大柄な人でも入るような棺桶が置かれ、何者かの血も付いている。気味が悪い、というのがシオンの正直な感想だった。アンジェラの言っていた奈落の底とはここだろう。


「ん、おまえ人間か?」


 そいつは言った。


「人間だ。お前は鎖でつながれているみてえだな。ひどい扱いでも受けてるのか?」


「ひどい……扱い……?」


 シオンが尋ね、彼の目の前にいる何かが戸惑っているとき、シオンの手が掴まれた。あまりにも突然の出来事であったのでシオンは頭が混乱していた。

 だが、シオンが手を掴まれた理由はすぐにわかった。


「そいつは危険だ。いくら鎖でつながれているとはいえ、改造吸血鬼だぞ」


 シオンの手を引いた男が言った。

 シオンが振り向いてみれば、そこには見覚えのある男がいる。薄紫色の髪と濃い化粧が特徴的な細身の男。シオンは彼を知っている。


「ディ・ライト!?なんでここにいるんだ。まさかアンジェラに……」


「アンジェラを殺そうとしたらここに落とされた。一通り見てみたが出口はない。穴壁に穴でもあけない限り俺たちは助からないだろう。そもそも壁に穴をあけられるかって話だな」


 と、ディ・ライトは言った。


「そうなのか……俺がいればアンジェラを倒すのが楽になると思ったんだがな。ここでリタイアというのも気分が悪いな」


 シオンはそう言うと、体中の力が抜けたかのように地面に座り込んだ。


「で、お前は俺を殺すか?ディ・ライト」


「それはしない。少なくとも今はな」


 ディ・ライトは言った。

 彼の言葉を聞くシオン。この状況がそれとなく読めてきた。ここからアンジェラとの戦いに介入することなどできないということ。ここからは出られないということ。鎖でつながれた男は危険であるということ。


「そうなんだな。安心したぜ。もう一つ聞きたいことがある」


「なんだ?俺がなんでもわかると思うなよ」


「あの吸血鬼の名前が知りたい。俺の個人的な興味でな。3年前に改造吸血鬼を生み出していた錬金術師を特定した。ひょっとしたらその被検体かもとおもってな」


「この状況で聞くか?いや、この状況だから聞くのか」


 ディ・ライトはフウ、とため息をついた。


「奴の名はエンゲル。アモット曰く学会を追放された錬金術師が生み出した改造吸血鬼らしい。今のところ杭を打ち込もうが光の魔法を当てようが日光に(さら)そうが死なないらしい。だからアンジェラも手を焼いてここに隔離したというわけだ」


「なるほどねえ。そりゃ捕食される可能性もありそうだ。で、ディ・ライト。お前はここで死ぬつもりか?」


 シオンは何かをたくらんでいるような顔ディ・ライトを見た。


「それは嫌だな。けどな、ここから出られないってのは事実だ。現実は残酷なんだよ」



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