表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

プロローグ

 その日は、いつもと変わらない朝だった。

 いつものように起き、いつものように身支度をして、いつものように学校へ行く。ただ少し違うのは、今日が俺の18歳の誕生日だということだけ。だがこれも、1年前と変わらないだろう。そう、思っていた。

 通学時間の朝。横断歩道の真ん前で信号待ちをしていた。車通りが少なく、歩行者が多い道。

 歩行者信号が青に変わり、そこで信号待ちをしていた誰よりも早く前に歩き出した瞬間、車に轢かれた。

 スピードを緩める気配のなかった車は、俺をいとも簡単に突き飛ばし、衝突の衝撃で体が宙を舞い、数十メートル離れた地面に頭から叩きつけられた。頭からは赤黒い血が流れ出し、地面に面積を広げる。

 遠くに聴こえるのは事故を目の当たりにした人達の悲鳴。走り去っていく車のエンジン音。そして、一拍毎に間隔が長くなる心臓の鼓動。

 息もしづらく、指さえも動かせない状態で悟る。


 ……死…ぬ………か――


 そう思い終わる間もなく、意識が途切れた。




 目の前にはただ白が広がっていた。四方八方上下左右白一色。地面も空も白だから、空間認識力が鈍くなる。

「どこだ? ここ…」

 確か…事故ったんだよな…。それで、死を確信して…! そうか!

「天国か」

「半分正解」

 俺の独り言に答えた声に振り返ると、そこには、後光が差し、貫禄を携え、それでいて優しさを持ち合わせた男が立っていた。

 一目見て確信する。

「神様だ…」

「いかにも。私は、神である」

 …偉そ。

「偉そうではない。偉いのだ」

 心読むのかよ。下手なこと考えられないな。

「見た目結構若いんですね。神様ってもっとお爺ちゃんみたいな感じかなって思ってました」

 目の前の神様は見た目30代。といっても人間年数で何年生きてるかなんて分からないが、きっとそこらのお爺ちゃんより長生きだろう。

「最近赴任したのだ。今日は神になって初出勤日だ」

 赴任? しかも初出勤って…会社?

 気になることは多々あるが、まずは最初の疑問だ。

「半分正解って、どういう意味ですか?」

「うむ。ここは天国、地獄、そして人間界を繋ぐ空間。界廊だ。廊下だと言えば分かりやすいかな。つまりは天国の途中。死後の世界には変わりない」

 そういう意味で半分正解か。やっぱり死んだんだな。俺…。

「それで、俺はどっちに逝くんですかね? 出来れば、地獄は遠慮したいんですけど」

 地獄なんていいイメージが無い。そりゃ天国がいいに決まってる。

「天国逝きか地獄逝きかを決めるのは閻魔の仕事だ。私には決められない」

 なんか訊いたことあるな。舌を抜くとか抜かないとか。幼稚園の絵本で見た気がする。

「私がここに来たのは、君に一つ、提案をするためだ」

「提案? 何ですか?」

「君、異世界に興味はないか?」

「異世界?」

「そう。君が生前いた科学文明の世界ではなく、魔法文明が発達した世界」

「魔法…」

「その世界で生まれた者は魔力を宿し、何も無いところから火を出したり水を出したりして、生活に役立てている」

「すげぇ…」

「その顔は興味ありって顔だな。希望に満ち溢れているぞ。だが、無理にとは言わん。天国に逝きたいのなら、私から閻魔に多少の口利きは――」

「行きたいです! 魔法文明の世界!」

 右手を真っ直ぐ上げ懇願する。反射的にしてしまった。

「いい返事だ。そうこなくてはな」

 そう言うと神様は、俺の頭に手をかざした。体に熱が伝わるが、不快感は無く、むしろ心地いい。

「なにを…」

「君は魔法世界の生まれではないからな。魔法は使えない」

「えぇ…」

「期待させてすまないな。だが、そんな顔するな。変わりといってはなんだが、能力ちからを与える」

「能力?」

「数秒間だけ直視したものの時間を遅くする。名を『刹那の眼差し』という」

「チートじゃん」

「距離が近ければ近いほど秒数は長くなる。剣術との相性もいいだろう」

 そんなこと一言も言ってないのに、俺が剣道をやっていることを知ってる。心読まれたか。

「あの、何でこんなことしてくれるんですか?」

 ふと、疑問に思った。話を訊く限り普通は天国か地獄に逝くのに、なぜ異世界行きの提案をしてくれたのだろう。

「それは、」

 かざしていた手を下げると、白の世界に光が溢れ、目の前の神様を覆い隠した。

「今日が君の誕生日だからさ。来栖亮君」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ