八話
一方葵の方は教師から一通りの教科書を貰い、部活の紹介が終わるとその後は放課後になり、校舎やグラウンドは一年生を誘おうとする先輩たちが躍起になって勧誘をしてくる。
「ねぇねぇ! サッカー部に興味ない? もしよかったらマネージャーにならない?」
「いやいや、君は陸上部になるべきだ。僕と一緒に青春の汗を流そうじゃないか」
「彼女は漫研に来るべきだ! お前らみたいな熱い野郎よりもこっちの方が絶対にいいに決まってる」
葵は誘ってくる先輩たちに笑みを作りながら「ごめんなさい。興味ないんです」と断り、急いで向かおうとするも別の部活の先輩たちが勧誘してくる。
葵は最悪の状況を考え、冷や汗を流す。
――どうしよう。もしレオが捕まったりしたら大変なのに。
先輩から逃げるように廊下を走っていると誰かとぶつかる。
「あっ、すみません」
「校内は走ると危ないよ。相原さん?」
ぶつかりそうになったのは担任だ。
「あ、すみません。えっと……」
「九十九だよ。九十九司」
担任――司は眼鏡を掛け直し「また何か急いでいるの?」と話しかけてきた。
「あ、えっと。友達探してて。途中ではぐれちゃって」
「でも校内は走っちゃいけないよ」
「すみません」
司は大荷物を持ち直そうとするとズボンのポケットから黒色のデジカメが落ちたので葵はカメラを拾って司に渡す。
「ありがとう。あ、僕写真部の顧問だから。よかったらどう?」
司からの誘いに葵は苦笑いしつつ「遠慮しときます」と言って昇降口に向かう。
外に出ても部活の勧誘はしてくる。
振り切ろうとしても運動部なんかはすぐに追いついてくる。
葵が困り果てていると誰かが葵の腕を引っ張る。
「お、おはははよう!! きょ、今日もいい天気だね」
レオは挙動不審になりながらも葵の腕を引っ張って校門まで連れて行ってくれた。
「はぁ、はぁ、はぁ。お返しは出来たかな?」
「うん。ありがとう」
葵がお礼を言うと安心したのか獅生は大きく息を吐いた。
「連れて行ったとき、かっこいいと思ったよ。その調子で頑張れ」
葵は獅生に応援の言葉を送るとレオの待つ公園へと走って行った。
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公園に到着するとそこには子供と一緒に遊んでいるレオを見つける。
レオの腕に掴む子供達にレオは持ち上げてスクワットしたり回ったりしている。
微笑ましい光景を葵が見ていると、レオは気付いたのか子供達と別れて葵の方に向かってくる。
「アオイ。終わったのか?」
「まぁね。ところで何で子供と遊んでたの?」
「武装した老人の後を追いかけていたらこいつらに話しかけられて、いつの間にかやっていた」
葵は誰にも見つからないでと言ったのだが、もう怒る気はなく「それじゃ、帰ろうか」と言ってレオの腕を掴んだ。
「連れて行っちまうの! せっかく盛り上がってきたのに」
「ごめんね。これからこの人と用事があるから行かなきゃいけないの」
子供に事情を説明すると子供は渋々納得してくれたので葵はレオを連れ、誰もいないところでおぶさる。
するとレオは何か感ずいたのか急に辺りを見渡し始める。
「どうしたの?」
「誰かが俺らを見ている」
レオに言われて葵も見渡すもいるのは老人や子供だけだ。
怪しい人物なんてどこにもいない。
「いないよ? 気のせいなんじゃない?」
「……まぁいい」
レオは納得のしてなさそうな顔だが、葵をおぶり直してアパートへと向かった。
今日はレオをいろんな人に見られてしまった。
でもさすがに異世界からやってきたなんてわからないはずだろうし。大丈夫だろう。
何しろ本人が喜んでいるならそれでいいやと思う葵。
「アオイ、どうした? すっごく笑ってるぞ?」
「いや、何か微笑ましかったなって」
レオにおぶさり、さっきのことを思い出しながら笑みを浮かべているとアパートが見えてくる。
アパートに到着し、部屋の鍵を開けると中に入る。
「それじゃ、私これから買い物に行ってくるから。レオは待ってて」
「食い物なら朝持ってきたぞ?」
「調味料とかこの家少ないからそれの補充だけ。後はお弁当用のおかず買わなきゃいけないから。レオが持ってきた分はちゃんと食べるから大丈夫だよ」
葵はレオを置いていこうとするもレオはどこか寂し気だ。
一応人だから外見さえ誤魔化せればいいのだけど何しろ体格が大きいので貸せる服など現在持っていない。
葵は何かを思い出したかのようにクローゼットを開け、5Lぐらいの大きさのグレーのコートを取り出す。
「はい。あなた外見が目立つからこれ着て」
「誰のだ?」
「お兄の。昔かなり太ってたから全部大きいサイズだったの」
レオはコートを受け取るも着方が分からないのか悪戦苦闘していた。
葵が手助けして無事に着ることに成功する。かなりぱっつんぱっつんだし、ズボンはかなりボロボロだが、まぁなんとか誤魔化しはきくだろう。
葵はレオを連れて部屋を出るとスーパーに向けて歩き出す。
何とか周りの視線は受けずに歩けることから安堵していた。
すると突然後ろから声が掛けられる。
「あ、相原さん」
「篠山君か、今学校帰り?」
後ろに立っていた獅生はどうやら学校帰りらしく、まだ制服のままだ。
「そ、そうだよ。あはは、また会うなんて奇遇だね」
「そうだね。もしかして篠山君もこの辺に住んでるの?」
「そ、そうよ。奇遇ですわね」
緊張しているんだろう。急に女性口調に思わず吹きそうになる。
「えっと、隣の人は相原さんの父親ですか?」
「あ、違うよ。えっと……遠い親戚の叔父さん。ちょっと事情があって住まわせてもらってるんだ」
「そ、そうなんだ。あ、あの篠山獅生と言います」
レオは身動き一つしない。
何か一つでもアクションを起こせよと言いたくなる。風貌と相まって正直怖く感じる。
「あ、叔父さん外国から来ているから、ちょっと日本語が分からないんだよね」
「そうなの? ぼ、僕日本語以外わからないから。ちょっと難しいかも」
「叔父さんには言っておくから。大丈夫ですよ」
これ以上は流石に怪しむと踏んだ葵は急いで獅生と別れようとする。
「私、これからスーパーによらないといけないから今日はこの辺で失礼しますね」
「あ、またまた奇遇だね。僕もこれからスーパーによらなきゃいけないんだよ」
レオンの発言に葵は仕組んだのでは疑いたいが、ここで別れるのも不自然なのでこのまま一緒に近くのスーパーに向かうことに。
スーパーまでは約十分。遠くもなければ近くもない。そんな距離である。
葵はレオンと色々と話し、たまにレオの様子を見るの繰り返しでいつもより倍疲れてしまう。
スーパーに入ると獅生はどこかに行ってしまったので葵はレオと一緒に買い物をすることに。
「ア、アオイ! これなんだ! こっちも見たことない植物だぞ! ここはすごいな全
部食べ放題だぞ!」
レオは嬉しそうに商品に手を出すので葵は軽く叩いて止めに入る。
「勝手に触っちゃだめだよ。この世界は物と物を交換しないといけないの」
「そうか。わかった」
なんだか子供の様なレオに葵は将来子供が出来た時に向けていい練習になるかもとポジティブに考えていた。
調味料を中心にお弁当用のおかずやレトルトのお米を買い、レジに向かう。
「いらっしゃいませ。商品をお預かりしますね」
レジをしていたのはさっき別れた獅生だった。
驚きつつも葵は鞄から財布を取り出す。
「び、びっくりした?」
「びっくりしたよ。まさかここでバイトしてるなんてさ」
「あはは、家から近かったからね」
レジを終え、離れようとすると獅生に呼び止められる。
「あ、あのさ。……やっぱ何でもない。ごめんね呼び止めて」
獅生は顔を真っ赤にしながらレジに戻った。
葵は獅生が言おうとしたことが分からないが、本人がいいならいいのだろうと思い地球はしなかった。
葵は荷台に荷物をビニール袋に入れ始める。
荷物を入れ終えると葵が持って行こうとするとレオが軽々と荷物を持ってくれた。
「ありがとうレオ」
レオは何も言わない。最近感じたが、レオは照れているのを隠そうと無言になる傾向がある。
葵とレオがアパートに向けて帰っているとレオが何かを感じたのか周りをよく見渡している。
「どうしたのレオ?」
「また誰か俺らを見ている」
レオに言われて葵も見渡すがそんな気配はない。
「やっぱり気のせいなんじゃない? 慣れない環境だからきっと敏感になってるだけだよ」
「む、そうか」
レオは辺りを見渡すのをやめる。
葵は今朝明人に言われたことを思い出す。
レオは戦いを得ていろんな気配に敏感になっているはず。もしかしたら例の犯人の気配を感じているのかもしれない。
――まさかね。
そんなわけない。場所だってここから遠いから狙う必要性がない。
まさか自分みたいなみすぼらしい女なんて狙わないだろうと考えつつ、アパートへと帰って行った。




