六話
翌朝、いつもの時間に起きるとすでに明人はスーツに着替えてニュースを見ていた。
アオイも起き上がり、布団を片付けると一緒になってテレビを見た。
ニュースの内容は最近女子高生が行方不明になっていることだ。最後に目撃されたのは葵の通う学校付近らしい。行方不明になった女子高生は全員学校がバラバラで、とくに関係性もない。その事で警察は誰かが誘拐しているとして捜査しているらしい。
「これって私の通ってる学校に近い距離だよね」
「だから昨日の夜お前いなくて心配して警察に電話してたんだよ」
「ごめん」
「次からは気を付けろよ。お前が死んだら俺はどんな顔をして親父とお袋の墓に行けばいいのかわからねぇからよ」
「うん。心配してくれてありがとうお兄」
明人は笑みを浮かべながらコーヒーを飲んでいると押入れのふすまが思いっきり開いた。
葵は驚いて尻もちをつき、明人も危うくコーヒーを吹きそうになった。
「アオイ、持ってきたぞ!」
レオが泥だらけで部屋に入ってこようとするので葵はその場で立ち止ませる。
「待って! そんな泥だらけで部屋入ると掃除するのが大変だから待ってて」
葵は立ち上がって異世界に入ると視界に映った食材の量に頭を抱えそうになる。
レオの後ろにはとても三人で食べきれる量じゃない食料の山がどっさりと置かれている。
葵は引きつった笑みを浮かべ、大きくため息を吐いた。
「こんなに持ってきても料理しきれないよ」
葵はバケツに水をためると石鹸を放り込んでレオの体を洗い始める。
泥を洗い流し、髪を洗うのだが全く泡立たない。
「なにこれ! 全然泡立たないんだけど!」
水を汲みに何度か部屋と異世界を往復し、レオの髪とついでに体を洗った。
だいぶ綺麗になり、レオのごわごわの髪はさらさらの黒髪になった。ただ風になびくたびに邪魔くさそうにしている。
葵は自分の荷物からヘアゴムを取り出すとレオの髪を結わいた。
「髪で隠れてあんまり見えなかったけど。いい顔してるじゃん」
綺麗になったレオに満足している葵。そこに明人が声を掛ける。
「なぁ、そろそろ準備しなくていいのか?」
明人に言われ、スマホの電源を付けるともう準備しないとまずい時間だった。
「俺会社に送れるからもう行くけど。遅刻するなよ」
そういって明人は鞄を持って部屋を出て行った。
葵も慌てて部屋に戻り、急いでセーラー服に着替えて時間を確認する。
今電車に向かってぎりぎりつくかつかないかの時間だった。
慌ただしそうに支度をする葵を見たレオは部屋に入ってきた。
「レオごめん。ご飯は家に帰って来てからでいい?」
葵が焦っているとレオは葵に背を出す。
「急いでるんだろ。乗れ」
レオの好意に最初は遠慮しようと思ったが、さすがに時間が無いと判断して葵は甘えることに。
靴を履くとレオと一緒に部屋を出る。
レオに鍵を開けるやり方を教え、背におぶさる葵。
「なるべく人に見られないようにしてくれないかな? その身なりだとどうしても目立っちゃうから」
「分かった。どっちだ」
「えっと。あの建物まで目指して」
「分かった」
レオはアパートの二階から一軒家の屋根に乗り、走って行く。
屋根から屋根へと飛び、駅へと向かって行く。
さっそく目立ちすぎて歩いている人に見られ、写真を撮ろうとする人もいる。
「目立つ! 目立つから!」
「む? そうなのか? だが、どこを走ればいいんだ。下は人ばかりだぞ」
言われて確かにと思う葵。レオの様な巨体が裏路地なんか進めるわけがなく、それに葵はこの辺の土地勘は無いに等しい。
葵は考えることを放棄する。考えたっていい方法は見つからないし、もうすでに遅い。
「ああもう! レオ! 全力で向かって!」
「分かった」
レオは走る速度を上げ、駅へと向かった。
そのまま線路沿いに走って行き、本来一時間ぐらいかかる距離を30分で学校に到着してしてしまった。
葵の指示で学校近くの公園に下ろしてもらう。
「ありがとうレオ! お陰で遅刻せずに済んだよ!」
葵が感謝しているのを見てレオはどこか照れ臭そうにして頬を掻いている。
「それじゃ、私学校に行くから……。レオ、帰り道わかる?」
葵に言われてレオは少し考え、出た答えが「半分までなら」だった。
「ごめん私のわがままで付き合わせちゃって」
「別にいい。むしろアオイの世界を知れてよかった」
レオの優しさが葵は胸に刺さる思いだった。
自分がへましたせいでレオには迷惑をかけてしまった。罪悪感が葵の心を満たしていく。
「うーん。この辺歩かせると目立つし。どうしよう……」
「アオイ。俺待ってる」
「えっ! かなり待つことになるんだよ!? そんなの私が嫌」
レオと話しているともうすでに学校の方から予鈴が鳴り、席に座らないとまずい。
葵が考えている仲、レオが背中を押した。
後ろを振り返ると無表情ながらも校舎の方に指を指している。
「行け」
葵はレオに申し訳ないと思いつつも教室へと向かって行く。
階段を二段飛ばしで走って行き、一年三組の教室へと滑り込むとすでにホームルームが始まろうとするかしないかだった。
「相原さん。遅刻ギリギリですよ」
担任にすっかり名前を憶えられてしまい、苦笑いをするしかない葵だった。




