五話
レオは無言で葵を右肩に乗せると無言で遺跡へと向かって行った。
いったいレオが何を考えているのか大まかにだが推測できる。
葵はルーの言葉やつい先ほどの戦闘を見て言ってたことは本当なんだろう。
確かにやってはいけないことをしたのだろう。だが、彼には何か深い事情があるのではと思ってしまう。レオがただ自分の欲望に任せて暴れていたには到底見えないのだ。
「ついた」
レオに下ろしてもらい、扉の前に立つ葵。
扉を開けようと手をかける。
「ア、アオイ」
初めて自分の名前を言ってくれたレオに驚きつつ、振り向く葵。
「あ、その……今日はごめん。それと、もうこっちに来ない方がいい。またアオイを傷つけてしまうから」
レオは罪悪感を抱いているのか明らかにしょんぼりとしている。
葵はレオのそんな顔を見ているとだんだん腹が立っていくのを感じていた。
「明日も来るから」
葵の言葉にレオは目を開いてこっちを見ている。
「な、何で」
「私は友達をほっとくほど薄情な奴じゃない。今日は流れでレオの過去を聞いちゃったけど、でもあなたがそんなことをする人には見えないもの」
葵はレオの手を掴んだ。
ゴツゴツした手。触れてわかるが少し震えている。おそらく葵を傷つけたことに自分のことを責めているのだろう。
「こんなに他人を思いやるあなたが人を殺すなんて何か理由があるんじゃないかって思うの。だから無理しなくてもいいけど、何かあったら私に頼って、少ないかもしれないけど、力にはなれるとおもうから」
葵はレオに笑いかける。
レオはまだ悲しそうにしつつも「ありがとうと」と言った。
葵は石の扉を開けると部屋にはすでに明人が帰っており、心配な顔で電話している。
「えぇ、電話しても繋がらなくて……」
明人が葵の方に気付くと目を丸くしていた。
それもそうだろう。まさか自分の押し入れが異世界と通じているなんて誰も信じられない光景だ。
「あ、あの。いました。はい、心配かけてすみませんでした。失礼します」
明人はよろよろと立ち上がり、アオイの方に向かってくるも見えない壁に阻まれているのかまるでパントマイムみたいに何もない空間を叩いている。
葵は後悔した。きちんと時間を守っていればこんなことにはなかっただろうと。
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「それで、葵はなぜか俺の押入れから異世界に行けるようになって。そこのレオに出会った。それで今日学校帰りに異世界に遊びに行ったと?」
「はい」
部屋には明人を前に青いとレオが正座して座っている。
「俺はアニメやゲームは好きだし、異世界なんて行きたいと妄想上思ってもいた。にわかに信じがたいんだが、本当に押入れの奥は異世界に繋がっているのか?」
「うん。お兄も見たでしょ」
「まぁ、そうなんだけどさ……」
明人はレオの方に視線を向ける。
「えっと、レオさん? あなた異世界の住人なんですよね?」
レオは眉を寄せている。明人の方に耳を傾ける。
「異世界の住人なんですよね?」
明人はさっきの声よりも大きい声で質問するもレオは首を傾げていた。
「アオイ。こいつはなんて言ってるんだ?」
「えっ? レオが異世界から来たのって聞いてるんだけど。もしかして意味が分からなかった?」
「この男はウガウガ言ってる。俺はこいつが何言ってるかわからん」
レオは明人に向き直り、睨み付けながら高圧的な口調で話す。
「おい、アキヒト! わかるように喋れ!」
明人は少し腰が引きそうになるも「なぁ、レオさんは何を言っているんだ? 俺異世界の言語わからないからわからないよ」と葵に話した。
「何って普通に日本語で話してるでしょ。レオもこの人の話何となく通じるでしょ?」
「「分からん」」
二人の答えに頭を抱えそうになる。
葵も異世界の全てを知るわけではない。何でレオと明人の言語が通じないなんて全く見当もつかない。
――二人の言葉を理解できるのって私だけ。もしかして異世界の言語が分かるのって私だけなのかな?
考えてもらちが明かないので葵は気分転換代わりにコーヒーを三つ用意する。
「はい、お兄。レオも」
「ん、ありがとう」
「すまない」
明人は砂糖をたっぷり入れて飲み、葵は普通にブラックで飲む。
そんな二人をレオはまじまじと見た。
「な、なに? もしかして嫌いだった?」
「いや、お前らよくこんな泥水を飲めるなって」
「もしかしてコーヒー知らない? 慣れてないと苦いかもしれないけど、結構おいしいよ」
葵に言われてレオは恐る恐るコーヒーを飲む。
苦いって言って吐き出すかと思ったら意外と飲み始め、あっという間にマグカップの中は空っぽに。
「ガシャドリクの白花よりは苦くはない。おいしい」
「へぇ、コーヒー初めてなのに結構気に入った?」
レオは頷いた。どうやら相当気に入ったらしい。
「それにしても異世界ねぇ。俺が行こうとしても何かに阻まれたし。なぁ、異世界には何があるんだ? やっぱりゴブリンとかドラゴンとかいるのか?」
明人からゴブリンと聞いてあの時の惨劇を思い出してしまう。
葵の変化に気付いたのかレオが心配してくれる。
「大丈夫か?」
「う、うん」
深呼吸すると明人に自分が見て聞いたことを明人に話した。
「もちろん。他にもたくさんの種族がいるし、こっちじゃ存在しないような動物や植物もあったし。見たことも無い様な絶景も沢山あったよ」
「マジか! いいなぁ。俺も行きてぇ」
明人は子供みたいに喜び、葵を羨ましそうに見ている。
葵は何か明人が異世界の喜びをわかる方法を考えていると今日のお昼頃を思い出した。
お昼ご飯を食べるときにドラゴンの肉をこっちに持ってきて調理したのだ。もしかしたら食料とかだったら持ってけるのでは? 葵は一つ不安なところがある。
明人は口がそこそこ堅いが、万が一周りの人にばらしたら馬鹿にされるか大パニックになるかだ。なるべくなら異世界の物は極力持ち込まない方がいいのだが、目の前にずっと押入れを見ている明人を見ているとあの喜びを感じてほしいと思うのだった。
「ねぇ、一つ約束してくれるならレオに異世界の物持ってくるように頼んでみるけど」
「本当か!? それで約束ってなんだ!」
明人は目を輝かせ、まるでおもちゃ屋に来た時の様な子供の反応を見せる。
「う、うん。これ以上誰かにこの存在を教えないこと。もし異世界に行けるって他の人が知ったら大パニックになるでしょ?」
「そうだな。わかった誰にも言わない。まぁ言ったところで馬鹿にされるのがオチだしな」
明人は約束言をきちんと守る男だ。恐らく大丈夫だろう。次はレオの方だ。
「レオ、一つだけ約束して。もしも私以外にも友達が出来てもここの存在を教えないで。もし教えちゃうとそっちの世界が大パニックになるから」
「俺はお前以外の友はいない。お前以外は作る気ない」
「もしもの話。それともし食料を持ってきたら私が作ってあげるから遠慮なく持ってきちゃっていいから」
「本当か!」
こちらも明人同様目を輝かせている。似た者同士は引き寄せ合うと言うが二人を見ていると納得する。
「だけど約束は守って。いい?」
「ああ。お前以外の友は作らない」
なんか変な解釈になったが、問題ないだろう。一番の問題は葵だ。
「なぁ、俺やレオさんはいいとして。葵は大丈夫なのか? 言わないと思うけどお前天然だからへましたらパニックになるだろ?」
明人の言う通りだ。今日のこともそうだが、天然のせいでアクシデントになる事もしばしばあった。
「うん。気を付ける。とにかくこの部屋にいれなきゃいい話なんだし」
なんかフラグっぽいことを口にしたが、回収は絶対にしないと誓う葵。
「さて、葵。今日夕飯どうするんだ?」
「……あ」
明人に言われて今日買い物に行っていないことに気付く。
急遽コンビニで弁当を買ってそれで夕飯をしのぐことに。
レオはどうやらコンビニの弁当はまずいらしく変な味がすると言って異世界に帰ってしまった。
仕方なくレオの分を明人と一緒に食べ、夕飯を終えることに。
「なぁ、本当に大丈夫なのか? 申し訳ないけど結構不安だよ」
明人に言われ、葵も本当にレオのことを隠し通せるのかと思っていた。




