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三話

葵が元の世界に帰った後、男は飯を探すために大剣を持って遺跡を出る。

 夜風が髪をなびかせ、ドラゴンや怪鳥の鳴き声が夜の森にこだましている。


「こんにちはバーサーカーさん」


声のした方に視線を向けるとそこには人の王国からやってきた研究員が立っていた。

 相変わらずしつこく付きまとう研究員に男はうんざりし、そしてかなり嫌っていた。


「邪魔だ。早く消えろ」


「まぁまぁ、そんなに冷たい態度をとらなくてもいいじゃないですかぁ。私はただ誘いに来ただけなんですよ。まぁどうせ拒否するでしょうから無理やりにでも連れて行きますけどねぇ」


研究員が合図すると後ろからそれぞれ違う頭を3つ持つ化け物が5体現れる。

研究員の傑作品らしく、名前はキマイラと言うらしい。

キマイラを作るだけで何百もの命を弄んで、作っているのか。そう考えると男は心の底から怒りと憎悪がこみ上げてくる。


「グォォォォ!!」


キマイラの咆哮。空気が震え、怪鳥やドラゴンの鳴き声が止む。


男は命を弄んだルーに対して怒りを込めた咆哮を轟かせる。

 


「ガアァァァァァァ!」



男の髪は咆哮と共に淡い赤色に変色し、同時に体から淡い炎に包まれた。

男の視界は自分を邪魔する奴ら以外写っていない。

男は大剣の柄を強く握りしめ、キマイラに向けて突っ込んでいく。


邪魔するならば殺す。今の男に理性等なく、あるのはただただ目の前の敵を排除するほかない。


「ガアァァァァァァ!」


 キマイラが炎のブレスが直撃して体中火傷を負ったとしても止まる事は無く。キマイラに近付く。


 キマイラの鉤爪が男の胸を深々と切り裂き、大量の血を噴き出そうが男は倒れず、大剣をキマイラの胴体目掛けて振り下ろす。


 地面は深々と抉れ、キマイラの腹部からは内臓が飛び出していき、絶命してしまった。

残り四体。キマイラは臆することなく、男に向かって襲い掛かってくる。


「おぉ、おぉ。怖いですねぇ。私は一足先に退散するとしますかねぇ。貴重な戦闘データありがとうございますぅ」


ルーの声など男は聞いてなどいない。今目の前にいる敵をどう始末してやろうかとしか考えていない。


● ● ● ● ● ● ● ●


葵が目を覚ますと、スーツに着替え終えた明人が座ってコーヒーを飲んでいる。

葵は布団をたたみ、押入れに入れようとするも昨日の件を思い出し、入れるのをやめる。


「お兄。押入れ開けてくれない?」


 明人は何も言わず立ち上がり、押入れを開けてくれる。

 これはこれでかなり不便だな。どうにか対策できないだろうかと考えるもらちが明かないのでやめることにする。

 冷蔵庫にはもうビールしかないので朝食は食えない。


「食費渡すから後まかしていいか? 余ったら好きに使ってくれて構わないから」


 明人はそう言って自分の財布から五万を取り出して葵に渡す。


「分かった。私もすぐにバイトするから。それまで借りるね」


 葵は明人からお金を受け取り、大事そうに自分の財布に入れる。

 明人は立ち上がりつつ、葵の頭に手を乗せて優しく撫でた。


「お前は家賃だとか、食費だとかは考えなくていい。バイトはしてもいいが、それは自分のために使え。たった一度の高校生なんだから大切に生きろ」


 明人は葵に話すとどこか照れ臭そうにしつつ「俺先に行ってくるから」と言って部屋を出て行った。

 葵は泣きそうになるのをこらえつつ、立ち上がった。

 兄の思いやりに感謝するが、甘えすぎるのは良くない。

 葵は急いでバイトを探さなきゃと考えつつ、制服に着替えるために立ち上がる。

 クローゼットを開け、セーラ服に着替えると学生鞄を持って部屋を出る。

 今日はいよいよ高校の入学式。嬉しさ半分、不安半分の心意気で葵は部屋の鍵を閉めようとするとふと押入れが目に入る。

 あの人は今頃何しているだろうか? 傷は治っているだろうか? また暴れたりしないだろうか?

いつの間にか心配している自分に苦笑しつつも、葵は部屋の鍵を閉めて学校に向かう。


豊吉駅から学校に一番近い駅に降り、後は歩くだけ。

やはり同じ制服の学生を見かけ、不安が募る葵。

本当にやって行けるのだろうか。勉強は追いつけるのだろうか。友達は出来るだろうか。きりがないくらい沢山の不安があるが、今はとにかく未来に向かって歩くしかない。

葵は校門前に到着すると深く深呼吸をした。


意気込んで校舎に入ろうとすると後ろが妙に騒がしい事に気付く。

 後ろを振り返るとなぜか女子生徒が集まり黄色い声を出している。

 有名人でも来たのだろうか? 葵は気になって近付くとそこには明らかに爽やかそうな青年が女子生徒に囲まれながら歩いているのが見える。

 髪はクリームっぽい金色で、顔は端整で肌も羨ましい程真っ白。これがイケメンかと世の中の女性は思うだろうが、葵自身どこがいいのか全然わからないでいる。


 女性に囲まれてどうせ下卑た笑みを浮かべているのだろうと思っていたが、明らかに辛そうに苦笑している。

 女性から話しかけるも「あ、はい」と言っており、全然会話になっていない。


葵は見てるのに耐えかねて、青年の腕をつかむと校舎に向かって走っていった。

 女子高生達は突然青年を連れ去った葵を睨み付け、取り替えそうと追いかけてきた。

 校舎裏の倉庫に隠れ、探しに来た女子高生達から何とかやり過ごした。


葵が息を整えていると、青年が頭を下げてきた。


「あ、あの。ありがとう。困ってたから助かったよ」


「困ってるならちゃんと自分で言った方がいいんじゃないの?」


 葵の言葉に青年は苦笑した。


「それが……あまり知らない人と話すの苦手で」


青年の言葉に葵は眉を寄せた。


「本当は話せるんじゃないの? 現にこうして話してるし」


「話せないよ! 本当に!」


 葵が疑っているとチャイムが聞こえてくる。

 スマホの電源を入れて時計を確認するとあと五分で入学式が始まろうとしていた。


「やばっ! 入学式間に合わなくなる!」


「えっ!」


 葵は名も知らない青年と一緒に校舎に向かった。

 途中で男子学生と別れ、葵は一年三組の方に向かう。


 教室の扉を開けるとそこにはクラスメイトが座っており、丁度担任が入学式の案内をしていた。


「えっと、相原葵さん? もう少し早く来ないといけないよ?」


 眼鏡を付けている大人しそうな担任は苦笑交じりに葵の席を指さしていた。


「はい。すみません」


 初日からの遅刻で大恥をかき、真っ赤になった顔を隠そうと俯きつつ、自分の席を探して静かに座った。

自業自得だから仕方ない。これも一つの経験だ。

気持ちを切り替え、担任の話を聞く葵。

一通りの説明が終わると葵を含めた一年三組のクラスメイトは体育館に向かって移動を始める。


 体育館に到着すると、指示に従って自分たちの椅子に座る。

 後から一年生がぞろぞろと体育館に集まる。

 それからスムーズに入学式が始まる。

 校長の話、来賓の方の言葉。生徒会長の言葉。退屈で仕方なかったが、我慢して聞いていると次は新入生代表の言葉に入った。

 

「新入生代表、篠山獅生(しのやましき)


「ひゃい!」


壇上に上がったのはついさっき会った青年だった。

足はかなり震えているし、手が震え、目は完全に泳いでいる。


「あ、あたたたたかな日差しの中、桜の花が風で舞ってま、まるで私どもを祝福しているようにか、感じられます」


 獅生は緊張しすぎで噛みながらも 何とか新入生代表の言葉が終わり、入学式は無事に終わった。その後は担任の指示で教室に向かった。

明日の日程を担任かっら説明があり、そのまま今日は解散となった。

葵は異世界にいる男に急いで会うためにアパートに向かう。


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