九話
葵はいつもより早く起き、明人と自分の弁当を作ると次に三人分の朝食を作り始める。
コカトリスの卵で卵焼きを作り、マンドラゴラとケルビーの肉で作った野菜炒め。我ながら未知の食材でよくここまで作れたなと感心する。
匂いに釣られたのか明人が起き始め、次に押入れからレオが現れる。
レトルトのお米を三人分用意し、朝食の出来上がり。
「「「いただきます」」」
最近食べてわかったが、異世界の食材はどれも栄養価がとても高い。
明人のニキビが治り、葵に至っては最近カサカサ肌なのに今では赤ん坊の様なもっちり感が出てきている。これで味も美味しく、無料当然だからなんか贅沢をしている気分だ。
「おぉ、これなんだ?」
「ケルビーだって」
「マジ! なんか昔食った馬刺しよりもくせないな。しかもなんか所々鮭に近い味がする。すげぇ。これはなんだ?」
美味しいと言ってくれるのは素直に嬉しい。しかし、美味しいのは異世界の食材なのか葵の手料理なのかわからない。
レオに至っては目を輝かせながら黙々と食べている。
少し多めに作ったのに全て食べつくし、レオは異世界へと帰っていく。
明人もスーツに着替え、弁当を鞄に入れると元気よく部屋を出た。
葵は皿洗いを終えると制服に着替え、学校へと向かった。
道中レオンに出会うかと思ったが、さすがに出会わなかった。
生徒会長だからなのか、もしくは人混みが苦手だから早く出発したのかわからない。
葵は余裕を持って登校出来て安心しつつ、自分の教室に向かおうとすると昇降口付近で司が立っていることに気付く。
「相原さん。ちょっといいかな?」
葵は司に近づく。
「あの、先生。私に何か?」
葵が話しかけると司は誰にも見えないようにして3枚の写真を見せる。
そこにはレオと葵の二人が写った写真。アパートからスーパーまでの写真が写っている。
「君、確か両親を事故で死んじゃってるんだよね? なのに彼は誰なのかな? 兄にしては全く君と似てない。 仲良さげにしてさ、もしかしていかがわしいことでもしてるんじゃないかな?」
司は笑みを崩さずに写真を懐に隠した。
急に司から得体のしれない恐怖が葵に襲い掛かってくる。
さっきまでの優しそうな雰囲気が嘘のようだ。
葵はふとつい最近見たニュースを思い出す。
この近辺での女子高生が行方不明になる事件。
葵の頭の中で一つの答えが浮かぶ。
目の前の男が犯人なのではと。
「ま、まさか!」
葵が言う前に司が口を片手で封じ込めてくる。
口は笑っているが、完全に目が笑っていない。
「それ以上はいけないよ。相原さん」
司の脅しに、焦りが増す葵。
司は一枚のメモ用紙を葵に渡す。
「今日の放課後。ここに来て。もし今日来ないとか誰かに連絡とかすると、この写真をネットに売春の現場として公開するから。よろしく」
司は葵から離れるといつもの優しそうな雰囲気に戻り、葵の前から去って行った。
葵は困り果てた。
警察に連絡して司を捉えることが出来てもネットにレオの存在を公開すると誰かがあのアパートにやって来て、レオの存在を探り始めるだろう。
そうすればレオに迷惑をかけるし、明人にとっても迷惑をかける。
葵はメモ用紙をスカートのポッケにしまい、今後のことを考えながら一年の教室に向かった。
教室に入るとすでにグループが出来ており、葵は誰とも話すことなく席に座る。
中学の時と変わらない毎日。高校は友人を作るために地元から少し遠い高校を選んだはずなのに結局変わらなかった。
過去を振り返っていると予鈴が鳴り、ホームルームが始まる。
司は普段と同じ雰囲気で出席確認を始める。
「相原葵さん」
「はい」
「今日は余裕を持って登校してきましたね。先生は嬉しいですよ」
司は表情を一つ変えずに次々と出席を付け続ける。
悪人を前に何もできない自分が悔しく、そしてこれから自分がいろんな人に迷惑をかけようとするのが辛くてたまらない。
最初の授業は司の受け持つ化学。見たくも出会いたくもない教師の授業にサボりたくなる。
サボることに抵抗がある葵は席を立つことが出来ず、そのまま授業を聞くことに。
司の授業はかなりわかりやすかった。わかりやすく、丁寧にまとめられているのでノートにまとめやすく。すらすらと頭の中に入る。
「なら教科書の5ページを解いてもらおうかな? わからなかったりしたら遠慮なく手を上げてね」
問題はスラスラ解ける。大嫌いになったあの教師の言いなりになっていると思うと反吐が出る。
問題が解けたので何か打開策はないだろうかと考えていると急に視界が真っ暗になる。
上を見上げるとそこには司が相原を見下ろしている。
「……なんですか先生」
「いや、何か考え言をしているから問題は解けたかなって思っただけ。授業中なんだから別の事を考えちゃだめだよ」
司は別の席に行った。
あれは打開策を考えても無駄だと伝えたかったのか。
葵は誰にも聞こえないようにため息を吐きつつ、黒板の上に配置されてある壁掛け時計を見る。
永遠に授業をしていたいが、時計の針は少しずつ放課後へと迫っていく。




