251日
海かプールかに行きたいと、そう言った彼女のために一度使った、僕たちだけの旅行の方法。
それを発明したおかげで、僕たちは自由自在に、どこへだって行けた。
どんな辺境の地だろうと、宇宙だろうと、僕たちならどこへだって行けた。
「他にも何かしたいことはないか? これでよければ、いくらだってさせてあげるよ。僕たちなら、二人でなら、なんだってできると思うんだ」
僕たち二人でなら、そう言いたいだけのことだったが、どうやら彼女はそれが気に入ったらしい。
いろいろなことをしたものだ。
他のだれにもできないこと、だれもしたことがないことを、僕たちはし続けていた。
夢を見るのが楽しくて、いつしか僕は夢に囚われたままで彼女との時間を過ごしたいと思っていた。願っていた。
彼女がいなくなってしまったときに、それを全て夢だったと片付けるためなのだろう。
夢見心地の気分のままで、いくらも時間を過ごしてきて、やっと僕はそれに気付いてしまった。
彼女との想い出から逃げようとしている。
縋るつもりもないけれど、逃げるつもりだってなくしたいのに。
「赤ちゃんが生みたいわ。子どもを残していけたなら、あなたに寂しい思いだってさせなくて済むはずなのに、苦しいわね。死ぬタイミングは同じだって、ずーーっと元気でいて、急死の方が楽なことね」
「そんなはずがないだろ。覚悟も準備もできていないのに、急に死んだと言われてしまったら、死んでも死にきれない。幽霊になって、死んでからだって、彷徨い続けてしまうさ」
この日の望みは初めて叶えられないものだった。
夢や空想を見ていたが、赤ちゃんを生ませてあげること、さすがの僕にもできなかった。
僕の抱えている想いも彼女の抱えている想いも、あまりに重かったからかもしれない。強い願いだったし、想いが複雑だった。
どうしたって手に入らない。
空想の生命を生み出すことは、したくなかったという想いもあったのだと思う。
「別に子どもなら、血が繋がっていなくたっていいじゃないか。それとも、子どもがほしいのではなくて、赤ちゃんを生むこと自体を望んでいるのか?」
けれども僕は彼女のこの日の言葉だけは、絶対に形にしたいと思った。
空想で叶えられないのなら、現実で叶えるしか道はないじゃないか。
ふわりと彼女は微笑んだ。
「血が繋がっていなくたって、その子は私たちの子どもでいてくれるの? あなたの心を癒してくれるの?」
「当たり前だ!」
答えは思わず叫んでしまっていた。
僕たちはインターネットで方法を調べた。
そうして後日、改めて引き取れる家を探してみることとした。
二人で質素な生活をするには十分であるが、贅沢な思いをさせてやるほどの金はない。
僕一人分の愛しか与えてやれないし、その僕だって血は繋がっていない。
引き取ったことにより、その子どもが幸せになってくれるかはわからない。幸せだと思ってくれるかはわからない。
わからないけれど、僕の幸せのために僕はそうしたかったんだ。
「何歳の子がいいかしら」
「何歳だっていい。年齢なんて関係ない」
「男の子と女の子、どちらの方がいいかしら」
「どちらだって構わないじゃないか。どちらも可愛いに決まっているさ」
「どんな子だって、いいのよね。どんな子だって、私たちの子どもよね」
「そうだ。どんな子だって、僕たちの子どもだ」




