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316日

 急いで帰った僕が、家に到着したのは日付の変わる頃。

 早く会いたくて、明かりの消えた家を見ると、不安で苦しくなった。

 彼女に何か逢ってしまったのだと、慌ててしまうほどに気が動転していた。


 この時間ならば、いつも彼女は寝ているのだし、不安になるのではなくて僕は安心するべきだったのだ。

 無理して起きていて、僕を待っていたなどと笑顔を向けられる方が、僕からしてみれば困ったに違いない。

 彼女は何よりも正しいと思うのに、どうしてこんなにも不安なのだろう。


 間違えなくここは住み慣れた自宅だというのに、全く知らない場所のようで、僕は玄関の扉を開けることさえ恐ろしく思えた。

 ここを開けて、僕の知っているものがそこになかったとしたら――。

 怖かった。


 震える手で扉を開けた僕を、出迎える声はどこにもない。

 もう彼女は眠ってしまっているのだ。

 ここで寂しがってしまうのは、彼女に無理させようとする、極悪な僕の考え方といえるだろう。

 もう彼女は眠ってしまったのだ。それだけだ。


 一人でいても退屈だし、なんだか疲れてしまったものだから、僕も早く休みたかった。

 素早く風呂に入って、食事も食べる気分でなかったので、すぐに彼女が待っているであろう寝室へと向かった。

 部屋に入って、僕は異変に気が付く。

「大丈夫かいっ?!」

 聞こえてくるのは苦しそうな呼吸。

 汗も随分と掻いているようであるし、とてもこれを健康な状態であるとは呼べない。


 ずっと悪い予感がしていたのは、こういうことだったのか……。


 どうして僕は帰ってすぐに彼女の顔を見に行かなかったのだろう。

 そんなのは、心配のしすぎなのかもしれない。そうだというのならば、彼女の元気な姿を信じているのだとしても、できるだけ早く彼女の顔を見たくなるのは当然のことではないか。

 どうして僕は今まで彼女を一人にしていてしまったのだろう。

 後悔と自己嫌悪が重なったが、今はそんな場合ではない。


「大丈夫か、僕の声が聞こえるかっ! しっかりするんだ!」

 ゆっくりと瞳が開いて、意識があるのはわかったけれど、それも朦朧としているようである。

「暑いのか寒いのか、まずは教えてもらえる? 僕が触ったところ、かなり熱いように感じるから、僕としては冷やしてあげたいのだけれど」

「えぇ、少しだけ暑いわ。それと、汗を拭いてもらえる? ごめんなさい、きちんとお留守番ができなかったかしら」

 氷とタオルを用意して、暑さを訴える彼女に手渡す。

 それから手拭いを持って来て、彼女の額の汗を拭う。


 顔も赤く、呼吸の仕方からして、鼻も詰まっているのだろうと思う。

 「鼻も喉もすっきりして、呼吸がしやすいわ。乾燥知らずのこの季節、最高にいいものね」そう言っていたのは、ほんの数日前だというのに。

 辛そうだから、呼吸のしやすい体勢にしてやらないと。


「食事は食べた? 食べていないのなら、何か作るよ。食欲がないのだとしても、具合が悪いのなら、何かを食べた方がいい」

「せっかく作ってくれたのだから、食べたかったのだけれど、ごめんなさい、残してしまったの。朝には食欲もあったのだけど、……やっぱり一人は駄目だわ。一緒にいないと苦しくて、体調まで悪くなってしまうみたいなの」

 嬉しいことを言ってくれると、喜んではいられない。


 ある程度のことをしたなら、あとはゆっくり眠ることが一番だ。

 僕が帰ってから約二時間ほどで、彼女は安らかな寝息を立て始めてくれた。

 スムーズな呼吸にはまだ見えないけれど、帰ったときに比べればいくらも楽そうに見えるものだから、これで休めればもっとよくなることだろう。


 安心したら、急に僕も眠くなってしまった。

 そう思う頃には僕の意識は手放されていた。



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