1日
「眠っているのかい? ぐっすりと、よく眠っているようだね。このまま楽になって、きみは、苦しみから解放されるというのだね。……人のいいきみだから、神様が、早く修行を終わらせてくれるんだろうよ」
昼間に訪れれば彼女は眠っており、話によれば、昨日に僕が帰った時間から、ずっと眠り続けているのだそうだ。
ひょっとしたら、もう目を冷ますことはないのかもしれない、僕はそんなことを思った。
不思議と悲しいことには思えない。
彼女に語り掛けるうちに、その言葉を聞いた僕は気付いたのだ。
苦しみから解放されるのだから、彼女を尊敬する気持ちこそ生まれても、それ以外に何を思うでもなかった。
ぐっすりとよく眠っている。
ぐっすりと、よく眠っている。
いつも彼女は僕が寝顔を見ていると、どうして起こしてくれないのかって、膨れた顔で僕に言うのだ。
けれどこれほどまでに美しい寝顔を見せられてしまったら、この完成された芸術を前にしては、何を言えようもないのではないだろうか。
ましてやその安眠を妨害し、その美しさを損なわせるような真似が許されるものだろうか。許されてもいいものだろうか。許されるべきであろうか。
あぁ、そんなわけがない。そのようなことが許されるわけがないのだ。
「遂にきみは神になろうとしているのだね。僕を、僕たちを、優しく見守ってくれる神になるのだね。きみという神様の加護がある限り、きっと僕は想桜を幸せにできるはずだ」
瞳を開きはしないけれど、僕には彼女の答えが聞こえるような気がした。
桜の花はほとんどが花開いている。彼女の瞳は開かないまま。
そろそろなのか、そろそろか。そろそろときが、訪れるのだ……。
想う桜は彼女が残した素敵な愛だ。
桜に想いを馳せたなら、きっと彼女をいつでも傍に感じられるだろう。
だけどね、眠りが眠りであるうちくらいは、形を持った彼女の傍にいたいと思うんだ。
傍にいても、いいよね……?
僕の問いを投げ掛けた先が、何であるのか僕は知らない。




