91日
寒い寒い冬、彼女の体調はまだよくならない。
クリスマスイブのあの日から、一週間が経つが、彼女は起き上れるような状態ではなく、とても外に出るなんてできそうになかった。
体に悪いから、僕としては早く眠ってほしいのだけれど、明日にその分も寝るからと言って、彼女は眠ることを拒んだ。
除夜の鐘を聞いて、一緒に新年を迎えたいらしかった。
「不思議なものね。今、ちっとも眠くないの。眠くなってしまうだろうけど、あなたとお話をして、年越しまでは我慢って思っていたわ。だけど、眠くないだなんて、予想外だわ」
どうしてかしらと彼女は首を傾げていた。
その言葉は嘘ではないようで、うとうとしている様子も、それどころか欠伸さえ見ていない。
最近は彼女のことを考えて、遅くまで起きていることを控えているものだから、体がその習慣に慣れてしまっているのだろう。
僕だってもう眠くなってきているというのに、彼女はちっとも眠くないのだと言う。
「今年はとっても楽しいことばかりだったわ。来年もまた、今年みたく、いっぱい楽しいことをして過ごしましょ。私とあなたなら、きっとなんだってできるに決まっているんだもの」
「そうだね。今年にやり損ねたことは、来年に拾っていくとしようか。イルミネーションも、来年こそはちゃんと見に行けるといいね」
これは言ってはいけないことかと思ったけれど、彼女は気にしていないようだった。
時計が十一時五十八分を指し、もうすぐなようだったので、僕はテレビを付ける。
テレビの中の人たちは、新しい一年を待って楽しげに騒いでいる。
「……今年も見られたものも、素敵なものはもう一度、何度だって見たいわ。だから私ね、まずは桜を見に行くことを待っているわね」
イルミネーションまで見られないことを、確信してのことだったのだろう。
きっと無理だろうことは僕も思ってしまったけれど、今年一年を生きることだって、不可能であろうと思われていたことなのだ。
それができたのだから、信じてみれば、僕たちの力があれば、来年だって一年間を無事に過ごせるかもしれないじゃないか。
僕が諦めてはいけない。彼女自身が諦めてしまったら、もっといけない。
「桜を見に行って、今度こそ海へ行って山へ行って、イルミネーションだって見るの。初詣にだって行きたいわ。次のお正月は、眠って過ごしてしまって、駄目に決まっているもの」
「駄目なものか」
「駄目なのよ。今ちっとも眠くないと言ったでしょ。年が明けたら、きっと一気に眠さが来てしまうわ。それでね、せっかくおめでたいお正月だけど、丸一日眠り続けてしまうでしょう」
「眠り姫は、王子様のキスで目覚めるかい?」
「いいえ、目覚めないわ。…………あけましておめでとう」
背景に聞こえていたカウントダウンが終わって、日付が変わる、年が明ける。
あけましておめでとう、僕の言葉を待つ前に、彼女は眠ってしまっていた。




