239日
「よく眠れた?」
眩しい朝日と優しい声、痛む体の節々。
僕は彼女のベッドに突っ伏したまま、すっかり眠ってしまっていたらしかった。
彼女を待っていたはずなのに、いつの間にか、眠っている僕を彼女が見る形に逆転してしまっていたらしい。
顔色もよく、元気そうには見えるけれど、どこか疲れているように感じられた。笑ってはくれているけれど、彼女はまだ辛いのかもしれない。
もしかしたら、そもそも、残りの体力がほとんど残っていないのかもしれない。
近頃は元気だったもので、嫌な予感は感じつつあったけれど、まさか、こんなにも突然に、その日は訪れてしまうというのだろうか。
笑顔だから怖かった。
元気だから怖かった。
「なんて顔してるの。こんなに私は元気になったのに、何が不満だっていうのよ。ちょっと疲れちゃっただけ、救急車を呼ぶなんて大袈裟なんだわ」
「大袈裟なものか。僕がどれだけ心配したと思っているんだ」
こんなことを彼女に言うものではない。
それなのに、彼女の言葉に僕は腹が立ってしまったのだ。
愛しい彼女の言葉を腹立たしく思うなど、僕は初めてのことだった。
愛おしい、それだけに、僕は嫌だったんだ。
「もっと自分のことを大切にしないといけないよ。僕のことを、心配性だとか大袈裟だとか言うけれどね、無頓着すぎるんだよ。大切に想う人がいるってことを、忘れないでくれ……」
細い腕が伸びて来て、その胸に僕を包み込んでくれる。
冷たいのに、残酷なほど温かかった。
彼女の温もりが伝わって来て、彼女の心臓の音が聞こえて来て、やっと僕は安心ができた。やっと僕は、どれだけ自分が不安であったのかを知った。
今、彼女が本当に生きているのかさえ、疑ってしまっていたのだ。
「あなたが私を想っているように、私もあなたを想っているの。わかっているから、私の気持ちを、あなたにもわかってもらいたいの」
窓の外、桜の花弁が舞っていた。
この夏の日に咲いているはずのない桜の花弁が……――




