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240日


 雨はちっとも止む気配がなく、翌日になっても降り続けていた。


 思ったよりもよく眠っているものだな。

 苦しそうにしていたので、すぐに起きてしまうかと思われた彼女も、まだ眠り続けている。

 狸寝入りを始めた時間から数え始めて、これで二十時間だ。


 さすがに、そろそろ起こした方がいいのだろうか。

「眠るのも大事だけれど、いくらなんでも、食事は必要だよ。もう一日が過ぎてしまう。早くお目覚め」

 体を揺らして呼び掛けるけれど、息が更に詰まったようになるばかりで、彼女は瞳を開く気配もない。

 起きない、起きてくれない。

「食事を作るから、何を食べたいか言っておくれ。何も食べたくないのなら、食べやすいように、お粥でも作ってこようか? ジメジメと蒸し暑いし、それとも何か別のものがいいかい?」

 声を掛けても、全く言葉は返って来ない。


 気持ちよさそうに眠っているというようには、とても見えない。

 不味い。異変は感じていたのだし、もっと早く気付いておくべきだった。

「担架がなくっちゃ、運ばれる側も辛いよね。動けるかい? 声も、出せないのかい?」

 呻くばかりで彼女は何も返さない。


 二十時間も放っておいているのだから、今になって慌てたところで、なんら変わりはしないだろう。二十時間も、二十時間と五分も、ほとんど変わりはしない。

 だけれど気付いてしまって、落ち着いてなんていられなかった。

 冷静でいなくっちゃいけなくたって、冷静でなんていられるはずがない。

「救急車を呼ぶからね。少し待っていてね」



 すぐに救急車に来てもらって、すぐに病院へと向かった。

 詳しく診てもらえば、疲れによるものだというが、念のために入院をすることになった。

 できるだけ家で一緒にいたいと、彼女はそう望んだけれど、本人の望みをできるだけは優先してあげたいけれど……ごめんね。

 それよりも、体調はもっと優先したいから。


 帰れとは言われたけれど、眠っているだけだとは言ってもらったけれど、安心だなんてできなかった。不安な気持ちは消えなかった。

 目覚めたときに、たった一人、病室だったら悲しむに決まっている。

 そうはならないように、僕は彼女の傍にいてあげよう。


 それに僕は、心配で心配で、今、家になんて帰れない。

 無理矢理に家に連れて行かれたとしたって、生霊になってでも、彼女の隣にいる自信があるくらいだ。


 彼女が目覚めたときに、僕がいてあげたいと思うのと同時に、彼女が目覚めたときに、僕がいたいと思う気持ちも強くある。

 目覚めて元気になれるまで、心配なく家へと一緒に帰れるようになるまで、僕は彼女の傍にいたい。

 ……心配で不安で、なのに眠くなって来ていて。


 「夢の中にお邪魔して、眠り姫を閉じ込める悪魔を、僕がきっと祓ってあげるよ」なんて。


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