第2話 新学期
ぐるりと囲むように聳え立つ山々。
その麓には小さな町がある。
古風な雰囲気を残す建物とその町並み。
町のあちこちに紫陽花や金木犀などがあり、人々に季節ごとの違った景観を楽しませてくれる。
窓から見える庭に目をやると、桜が満開に咲き誇り、散ってゆくのが見えた。
(懐かしいな…)
「…桜ちゃーん、楓くーん」
窓からぼんやりと外を眺めていると、私を呼ぶ声が聞こえた。
「はーい」
私は急いで居間へ向かう。
そこには既に、私の祖父と祖母が待ってた。
「遅いぞ、何してたんだ」
「大して待ってないでしょう?そのくらいでイライラしないの」
少しイラついていた祖父を、祖母がなだめる。
小さい時は怖かったけれど、怒る理由がわかってからはそんなに怖くない。
「おじいちゃん、ごめん」
そういうと気が済んだのか、朝食に目を向け待っている。
「じゃあ、食べましょうかね」
祖母はにこやかに言い、みんなで手を合わせ…
「「「いただきます!」」」
朝食を食べ始めた。
「今日から二人とも学校だねぇ、迷わないように気を付けてるんだよ?」
「大丈夫だよ、ばあちゃん。入試で1回行ってるし、道も覚えてるから」
「通学ルートも電車で1本、最寄り駅からも道沿いに行けば着くから!」
「でも、桜ちゃんは方向音痴だからねぇ。
それに、3年生で編入なんて可哀想なことをさせてしまったから…」
…そう、私と弟はこの春から新しい高校に通う。
半年前、両親が交通事故により亡くなってしまい、祖父母が引き取ってくれたことにより、この狐花町にきた。
自分たちだけで生活することもできたが、一緒に暮らしたいという祖父母の願いを断ることは出来なかった。
しかし、弟が中学を卒業するまで二人で暮らし、近くに頼れる大人がいるというのは心強いことが分かったため、一緒に暮らすことにして良かったと思っている。
「あ、姉ちゃん、そろそろ出ないと」
「後から入学式には行くからねぇ」
「ありがと!じゃあ、行ってくんね」
「行ってきます!」
私達は新しい高校生活に胸を踊らせながら、学校へ向かった。
******
(わぁ…!)
新しい学校の校門を抜けると、昇降口までの数十メートルの道の脇には桜が咲き誇っている。
そよそよと吹く風が花びらを散らしてゆき、花びら舞う様はまさに春の雪だ。
「…ねーちゃん、桜に見惚れてるのはいいんだけど、新入生はそのまま体育館に行くみたいだから、俺についてきても行き先違うよ?」
「あ、そうだった…!私は職員室に行かないと!」
「…俺、このまま入学式行って、終わったら先に帰るけど、道迷わないでね」
「さすがにもう分かるよ!」
入学、編入の手続きで何回か来ているのだ。迷うわけない。
そんなやり取りをしつつ、私は弟と別れ、職員室に向かった。
******
「失礼します。」
「お、やっと来たな。遅刻ギリギリだぞ?それじゃあ、教室行くか。」
職員室に行くと、すぐさま教室に行くこととなった。どうやら、少し迷ってしまっていたらしい。
(おかしいなぁ…。)
「じゃあ、先生が先に教室に入って軽く説明するから、呼んだら入ってきてくれ。」
教室の前まで来ると、そう説明されたので、扉の近くで待つ。
少し待つと呼ばれたので、教室に入った。
ガラガラッ
「それじゃあ、自己紹介をしてくれ。」
「はい。初めまして、山乃桜です!事情があり、祖父母の家へ引っ越してきました。1年という短い時間ですが、よろしくお願いします!」
『よろしくー!』
『よろしくね!』
クラスメイトは口々に挨拶を返してくれた。
しかし、その反面…
『え、山乃って『あの』家の?』
『あそこの家ってうちらと同い年の子いたっけ?』
(…?)
なんだか気になる会話も聞こえる。
私はその会話が気になったが、転校初日、聞けるような人はいない。
そのまま先生に促され、指定された窓際の後ろの席に座った。
(あ…、窓から今朝の桜が見える。綺麗だなぁ…。)
そんなことを考えつつ、その日のHRを終え、帰ろうかと思っていると…
「…ちょっといい?」
私は1人の女の子に声をかけられたのだった…。