第1話 子狐
初投稿です!
スローペース投稿ですが、お付き合いいただけると幸いです。
雪がひらひらと空に舞う季節。
その日、私たちは高校の入試と編入試験の帰り道、山の中にある神社に向かっていた。
山の麓からの一本道。
道沿いに歩いていけば、30分くらいで着く。
はずだった…。
「なぁ、姉ちゃん」
「ん?」
「まだ着かねえの?もう1時間くらい歩いてんけど」
「…だよね。おかしいなぁ、たしかこの道だと思ったんだけど…」
ここは私が子どもの頃、何度も遊びに来ていた場所だ。いつの頃からか行くことを禁止され、そのまま来ることはなかった。やはり、記憶が曖昧になっていたのか。
「ていうか、試験終わった後に神頼みって意味あんの?こういうのって普通、やる前に行くだろ…」
「だって、神社があるって思い出したのさっきなんだもん。お祈りしておけば、気休めにもなるでしょ?」
「だからってなぁ…」
……きゅ~ん
「「…?」」
私と弟が言い合いになる直前、かすかに何かの鳴き声が聞こえた。
「…今、なんか聞こえたよね?」
「…うん。」
…きゅ~ん
「ほら、また!あっちから聞こえるよ、行ってみよう!」
「えっ、ちょっ、姉ちゃんっ!?」
私は鳴き声のする方へ駆け出した。
…きゅ~ん
(どこからだろう?)
私は鳴き声を頼りにその声の主を探した。どんな生き物か分からないが、その声は弱々しい。怪我をしているのではないか、他の生き物にやられているのではないか、色々なことを考えていた。
きゅ~ん
なんにせよ、このまま放っては置けない。鳴き声は少しずつ近くなってきている。その声のほうへ、道路脇の坂を少し登り、草を掻き分けた。
「きゅーん」
(…いた!)
鳴き声の主は小さな狐だった。猟師が仕掛けた罠にかかっており、足をケガしたようだ。
「きゅ……ヴー」
子狐は私に気がつくと、威嚇した。痛みがあるからだろうか。力のない声ながら、敵意をあらわにしていた。
「大丈夫だよ」
私は子狐を落ち着かせるため、少し離れたところからゆったりとした声で話しかけた。
「あなたの傷の手当をしたいだけなの、終わったらすぐに帰るから…」
そう言うと、私は昼食の残りのおにぎりを一口サイズ手にとり、子狐に差し出した。
「ヴー……」
威嚇しつつも、子狐はこちらに頭を向けてきた。しばらくおにぎりのにおいを嗅ぎ…
パクっ
子狐はおにぎりを食べた。
すると…
「キャン、キャン!」
もっとくれ、と言わんばかりに子狐は鳴き出した。弱々しかったのは、罠のせいでごはんが食べられなかったからのようだ。
「ちょ、ちょっと待って、ごはんはあげるから先に罠外そう?」
「キャン!」
私の言葉が通じたのだろうか。子狐は返事をするように大きな鳴き声をひとつ上げ、大人しくなった。しっぽを振りながらじっとこちらを見ている。
(か…可愛い…!)
私はすぐに罠を外し、薄ピンク色のハンカチで傷口を保護して、残りのおにぎりを与えた。子狐はそれを必死に食べている。
一体、いつから罠にかかっていたのだろう…。
「…姉ちゃん!!」
考えにふけっていると、弟が呼ぶ声が聞こえた。
「こんなとこにいたのかよ、めっちゃ探したんだけど…」
「あ…、ごめん、置いてきてたことすっかり忘れてた」
「ひでぇ…」
弟は私の横にいる子狐に目を向けた。
「え、狐?」
「うん、この子が罠にかかってた」
子狐はおにぎりを食べ終え、私をじっと見ていた。
「お腹いっぱいになった?」
「キャン!」
子狐は元気に返事をした。もう大丈夫だろう。
「もう罠にかからないようにね、気をつけて帰るんだよ?」
「キャン!」
そういうと、子狐はチラチラとこちらを振り返りつつ、最後は元気に走って山の中へ帰っていった。
「じゃあ、俺らも帰ろっか」
「え、神社は!?」
「もうすぐ日が暮れるだろ、暗い山道は危険だよ」
そう言われ、辺りを見回すといつの間に夕陽が向かいの山に差し掛かっていた。
(しょうがないか…)
それに1度、道を確認してから来たほうが良さそうだ。
「そうだね、帰ろう」
私達は元いた道へ戻り、帰宅をしたのだった。