第99話 タロウ、ちょっと東の島へ
99!
よろしくお願いします!
カルミナがギルドに入ってからしばらく経って、暗くなり始めた頃にようやく出てきた。
「どうだった…?」
「喜びなさい!結構な報酬よ!」
「おぉ!マジか~良かった…走り回った甲斐はあったんだな」
「えぇ、金貨2枚よ!大金貨や黒貨を見てるせいで少なく感じるけどクエスト1つで金貨は大儲けよ!」
そうだな。二人で分けても金貨1枚…10万円くらいの価値はあるから1仕事10万円は大儲けだな。これでお菓子代には困らずに済みそうだ…。機会があったら買い溜めしておかないとな。
「そうだな。食費もとりあえずは大丈夫だし、クエストもたまに受けるくらいで良さそうだな」
「そうね。桐華には会いに来るとしてもクエストはたまにで、その時に稼ぐ様にしていきましょ」
「もう…暗いし、帰ろうか。とりあえず…安倍家の方に」
「分かったわ!」
俺は暗視のスキルで夜目が利くから平気だけどカルミナには暗いみたいだから、帰りは手を繋いで帰って来た。寒いから手も暖まるし丁度良かったかもしれない。
安倍家に戻って来ると玄関先で命さんに迎えられた。それで…
「昼間に六道さんが帰って来て、忠晴さん達と今も集まっているからご飯の前に、先にそっちに行って貰えるかしら?」
…という事で俺とカルミナは忠晴さんの部屋へと向かった。
「すいません、タロウですが…」
「帰って来たんですね、どうぞ入ってください」
「失礼します。…六道さん、お疲れ様でした」
「タロウ殿、それにカルミナ殿も活躍したそうじゃないか。お互いにお疲れ様…だな」
部屋には、駿様、忠晴さんに六道さん。ベリー先生と晴海さん。それに、まさかの双葉さんまで居て広めの部屋が少し狭く感じる程だった。どうでもいい情報だが、警備にあたっていた人員も更に減らしてほぼ通常通りに戻したらしく北で残っていた安倍晴太なんかも帰って来たらしい。
「それで…今は何についてのお話をなされていたんですか?」
「それがですね、織田史郭を死罪にするかそれ以外に処すかの話し合いで中々決まらなくてですね…。それが決まらないと他の処罰の裁量も決めにくくて…と、いった感じです」
「対立というか、死罪とそれ以外で考えが別れていると…」
「余が最終決定するのであるがな…。実際に戦場へ赴いた六道は死罪を、忠晴が重罪と申しておってな…どちらの話も理解出来る分、悩んでおる。本来ならば悩まずして死罪なのだが…魔族が関与していた事を考えると…な」
なるほど。大きく言えば国家転覆を狙った訳だから死罪は当然なんだろうが…例えば魔族が関与してなくて、戦場から動かなければ…島流し的な刑ぐらいで済んだ可能性もあったのかな?まぁ、可能性の話なだけで今はもう過ぎた事だな。
「魔族…。実は…まだこの国には連絡が届いてない様ですが…魔王が動き出して魔族の活動が活発になっているんです」
「タロウ、それは本当か?」
「はい。この先、各国で魔族によって混乱する事態が増えると思います…今回の様に」
「タロウ殿、魔王が動き出したというのは…」
「詳しくお伝えしますと、魔王は竜の加護を集める事とより強くなるために動き出しました。ですから、実際に国を混乱に陥れるのは魔族の幹部やその手下でしょうね」
「タロウ君を信じてない訳ではありませんが…そんな情報は入ってきてませんね…」
「恐らく、ルールト王国が動いている筈です。…手紙は出しましたから」
「手紙を出した…。タロウ、お主は何を知っている?」
「そういう感じなら、私からも話すわよタロウ」
「あぁ、補足があるなら頼む」
「実は…」
俺とカルミナでここに修行に来ようと思った経緯を出来るだけ詳しくこの部屋にいる人達に伝える事にした。魔王と出会ったこと、戦った事、戦って負けた事。その後ベリー先生に鍛えて貰おうとジパンヌに来ようと思った事なんかを話した。
この歳で修行に熱を入れている事に納得したり、悲痛な面持ちだったりと反応はまちまちだったが最後まで静かに聞いて貰った。
「…という訳でして、今回で魔族の襲撃が終わったとも言い切れない状況ですね」
「「「……」」」
「あ、や、その!違うんですよ?重たい空気にしようとした訳じゃ無くてですね!?ほら、生きてますしまだまだ強くなれますし…次は負けませんから!」
「良く言ったでござるよタロウ君!」
「ふむ、世界がそんな風に動き出していたとは…ジパンヌも強固な国にせねばな」
「ですな。タロウ殿でも勝てぬ相手ですから…相当な強さですし」
「国が1つになって戦わないと魔族に突け入れられますね。今回の様に」
「で、あるな。と、すれば…織田史郭の処刑は得策では無いか…」
「落とし所が難しいな。忠晴、お前ならどうする?」
「そうですね、織田史郭を支持する者も多いですから…いっその事、ジパンヌの西側を統一させるというのはどうでしょう?未開拓の地も多いですし、忙しくなってこちらにちょっかいは出せなくなるでしょう」
「だが、そうするとまた反逆の芽が出て来ぬか?」
「東と西、魔族と戦う際には手を組むように条件を織田史郭に呑ませます。まぁ、西を統一させる時には私達の寿命も終わっているでしょうし、その後の事は悪いですが時代と子孫に任せる事にしますよ。魔族の戦いを機に、良い方向に流れ出してくれる事を信じて」
「忠晴にしては確実性のない策よな」
「主に織田家を抑えていれば反逆する者も他に居ませんからね。織田に魔族の事や今後の事を話してみて後は織田史郭自身に任せてみます。駄目だと判断すれば命懸けで私が織田家に損害を与えてみせますから」
「忠晴…」
「分かった。そなたの気持ちを汲んでそなたの策に余も手を貸そう」
「織田やその家臣達には明日にでも話すとしましょう。タロウ君、話してくれてありがとう。こんな結論になってしまったけど…」
「はい。僕はそれでいいと思いますよ。ここで織田史郭が死んだら生まれてこない物や助からない人なんかもあるでしょうし」
「そう言って貰えると少しは楽になるよ」
「皆、明日からもまた忙しくなるが…ジパンヌの為によろしく頼む。では、今日は解散にしよう」
駿様に続き、当主達も出ていった。残ったのは、俺とカルミナとベリー先生と晴海さんと双葉さんだけだ。
「タロウ君、魔王はどのくらい強かったでござるか?詳しく聞きたいでござる!」
「そうですね…魔王の見た目は僕と変わらないくらいでした。なのに魔王になれたのは…とにかく竜の加護ってヤツのお陰だと思います。上位精霊みたいなものだと思ってもらって構いません。その上、身体能力、それに魔法の扱いの上手さにおいても上をいかれましたね…」
「タロウ君の上をいくのでござるか…」
「タロウはなんとか一矢報いたけど…」
「普通に腕も再生してるよなぁ…きっと」
「そんなに強い敵と戦っていたのでして~?」
「まぁ、魔王と会ったのは本当に偶々なんだけどね。火山の上に行ってる途中に異変を感じてね」
「おい、魔王は男か?」
「えっ…と、見た目も言葉遣いも男っぽかったかな?」
「なら、殺す」
「ハ、ハハ…頼りになります…」
この人、クレイジー過ぎて怖い。男なら敵味方関係ないんだな。
「魔王も修行しているのでして~?」
「そうみたいよ!竜の加護が8種類あるらしくて、それを集めるのと…完璧に扱いきる為にきたえるって言ってたわ」
「更に強くなるのでござるか…。私でも手に負えないでござるな」
「大丈夫よ、私とタロウが必ず倒してみせるわ!」
「と、なると…修行を厳しくする必要があるでござるな」
「うぇ!?ま、まあ…どんと来い!って感じだよな、カルミナ」
「そ、そうね。…完全に口が滑ったわ」
「あっ、ベリー先生」
「ん?何でござるか?」
「確か東の大陸に上位精霊が居るらしいんですが、知ってますか?」
「あー…ちょっと待つでござるよー、何か思い出せそうな感じでござる~」
ベリー先生が唸り始めてしばらく経って、ようやく思い出せた様だ。
「ジパンヌよりもう少し東の島に居るとか居ないとか聞いたような気がするでござる!」
「けっこう曖昧ですね…」
「精霊について調べる人なんてほとんどいないでござるから仕方ないでござるよ!…どうして上位精霊なんて探しているでござるか?」
「竜の加護に対抗するためですよ。カルミナなら十全に精霊の力も引き出せますからね」
「なるほど…それでカルミナさんの魔法が凄いのでござるな。行くなら船で行かないといけないでござるよ?あと、この辺の島は未開拓の島が多いでござるからそこも気を付けないといけないでござる」
「情報ありがとうございます。カルミナ、いつ行く?」
「うーん、やっぱりなるべく早くが良いかしらね…」
「なら、明日か明後日にでもここに居る皆で行くでござるよ!面倒事は父上達に任せるでござる!」
「「え!?早くない!?」」
「双葉はどうしたいでして~?」
「私は晴海についていくだけだ。そこの男が危険だが…しかたあるまい」
「善は急げでござる!」
「ですが、船とかどうするんですか?」
「それはちょちょいっとやればいいでござるよ。私に任せるでござる
大丈夫かなぁ?でも、確かに早めに契約出来た方が絶対に良いのは間違いないからな…。行ける時に行っておくか?
「カルミナ、どうする?」
「ベリー先生が居るなら危険も少ないだろうし…行けるなら行っておきたいわね」
「私と双葉も参加するのでして~」
「苺さんの実力を見れるのと晴海の護衛として行ってやる」
「皆やる気でござるな?いつ行くでござるか?」
「明日行けるなら明日ですかね?」
「じゃあ明日に……」
「お待ち下さい!!」
扉がバンッと開かれてマツリ様が少し怒った感じで部屋にいる入って来た。そのまま俺とカルミナの前に座り、私は怒ってます!というアピールをしてくる。
「マ、マツリ様?どうなさいました?」
「今日は!お仕事なので!我慢!しました!」
「今の話を聞いて、私も連れていけ…と?」
「そうです!」
「いや、流石に危険かなぁーっと…」
「タロウさんが!守って!下さいませ!」
「マツリ様?隣の島に行くと行っても遊びではないんですよ?私にとって大事な用なんです」
「私も遊びでついて行こうとしてません!お邪魔…にはなるかも知れませんが!連れて行ってください!」
「カルミナ…」
「うーん…」
「ダメ…ですか?」
「タロウ君、カルミナさん別に良いのではないでござるか?」
「そうだ、麻津里にも鍛えて貰うんだ。その予習とでも思えばいいだろう」
「でして~」
意外と反対意見が出なかったな。うーん…駿様がいいと言えば良いのかな?
「賛成派が多いので連れて行くのは構わないですが、駿様にはマツリ様から説明してくださいね。装備は…とりあえず僕のローブとナイフを貸しますので」
「まぁ!タロウさんの装備品を貸して頂けるのですね!大切に扱いませんと」
「マツリ様、はしゃぎ過ぎないでくださいよ?ベリー先生が居ますから大丈夫ですけど何が起こるか分からないのが冒険なんですから」
「はい!ちゃんと言うことは聞きますわ!では、父上に話して参りますね」
そう言って部屋を出て行き、すぐに了承を得て帰って来た。少し話してから明日は朝に玄関先に集合する予定に決まって今日は解散になった。
「あ…ご飯まだだったな…。行こうかカルミナ」
「そうね、ちょっと遅めだけどお腹空いたしね」
それから晩御飯を食べて俺の部屋で装備の点検を行い、シェリーフやフレイミア、ランディアに東の大陸に居る精霊について聞いてから眠りについた。
◇◇◇
「船は用意しましたのよ!」
翌朝、玄関先に集まって最後にやって来たマツリ様がそんな事を言い出した。仕事が早い…というか、昨日今日でどうやって…。でも、普通にありがたい。
「流石は徳川家でござるな一声かければすぐでござる!」
「ありがとうございますマツリ様」
「どういたしまして、タロウさん!この国でしたら少しだけ有名人ですから」
「素直に感謝はしたく無いけど…でも、助かったわありがとう」
「いえいえ、少しでもお役に立てたらと思いまして」
「マツリ様…このローブを着てください。内側にナイフとか仕込んでありますから少し重たく感じるかもしれませんが…」
「暖かいですわね!これくらいの重さなら平気ですのよ!」
準備も整った所で俺達は港へ向かった。
港で、準備してくれた漁師が扱う様な船に乗ると、この船の持ち主らしきガタイのいいおっちゃんが居て簡単な挨拶を交わし、早速島に向けて出発する事にした。
「少し寒いけど…良い天気に良い海風だな」
「おい、男。このナイフと針はどこで仕入れた?あと、ローブも良い物だな」
おっと、双葉さんに声を掛けられると心臓がキュッとなるから声をかける前に他の誰かが声をかけて欲しい。武器には興味あるのかな?
「えっと、ここに来る前に居たヒートテ国の火山の近くにある街ですね。ドワーフの職人さんとかも居るので武器や防具関連は充実していましたよ。双葉さんて、男が苦手なんですか?嫌いなんですか?」
「なるほど、ナイフ1つ取っても良品だ。そうとう腕が良い鍛冶職人が居るんだろうな…。あと、苦手でも嫌いでもない、憎くて殺したくなるだけだ」
うーん…ん?モノは試しだ、やってみるか。
「偽装 ニーナ姉様」
「おい貴様…それは魔法…なのか?」
「タロウさんが女の人になったのでして~!?」
「なに騒いで…って!誰でござるか!?」
「ニーナさん!?……じゃないわね!タロウ!」
「正解!…あ、いや、カルミナ…これはふざけてる訳じゃないぞ!双葉さんに試してるだけだから」
「あぁ、なるほど…。顔と声は変わるものね。…それって体はどうなってるの?…どうなってるのかしら!?場合によっては封印してもらうわよ!!」
「お、落ち着け、体は自分のままだから。これはあくまで偽装だぞ?顔と声は知ってるから真似られるって事だ」
「それって…つまり可能って事じゃ無いの!」
「いや、可能だけど不可能みたいなモノだろ!」
「それは…信じるわよ?」
「あ、あぁ…任せておけ…。それで、双葉さん…どう?」
「その顔と声で男の言葉遣いというのは違和感しかないが…体のシルエットが出ない様にして貰えれば…何とか…」
「そうか…偽装 解除」
「キッ!」
「ん~、完全に男だと分かるとダメなのかな…」
「貴様、私で遊んでる訳ではないだろうな…殺すぞ…」
「い、いやですね~、遊んではいませんよ…これは今後の為にも、ね!晴海さん」
「確かにでして~双葉の男嫌いも治るなら治った方がいいのでして~」
「ふんっ!私はあの日から15年間も憎んで来たんだ」
「無理強いはしないのでして~」
「…晴海も男には気を付けるんだぞ」
色々と試したり、話したりしながら1時間と少しくらいで目的の島に上陸した。漁師さんには明日の朝にもう一度来てもらう事になっている為、一旦ここでお別れだ。
「さて、探索にいきますかっと!」
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(´ω`)




