第98話 タロウ、お菓子代を稼ぎに行く
よろしくお願いします!
「タロウ、朝よ!」
…え?おいおい…嘘だろ?そんな事があるのか?ありえるのか?
「う…ん…今日は…雪でも降るんじゃ…ないだろうか?」
「あら?よく分かったわね?というか、もう降ってるわよ!なんか少し早めの初雪みたい!」
あぁ、雪が降っているのか。なら納得だ。…カルミナが1人で起きて俺を起こしに来るなんて事も…な。
「寒い。…おやすみなさい」
「ちょ、ちょっと!寝ないでよ!?今朝のランニングはどうするの!?」
「カルミナ、寒くないか?」
「え?そりゃ寒いわよ…?」
「よし、今日はやっぱりこの布団の中で過ごそう。せめて、外が温かくなるまではこうしてる…」
「あー!ダメダメよ!起きなさいよ!」
しばらくは粘っていたが、無理矢理布団を引き剥がされて寒い中をランニングしに行くことになった。外は積もる程じゃないが本当に雪が降っていて子供達の姿がいつもより多く見られた。
ちなみにカルミナが早く起きたのではなく、俺がいつもより寝ていただけで…よく考えれば雪が降ったのも偶々の話だったな。
「カルミナ、今日はこの後どうするんだ?」
「予定という予定は…ないわよ?」
「あー、そうだ…お菓子の補充しておかないと。ってなると、お金も稼いでおかないとなぁ」
「やっぱりギルドに行く?」
「俺かカルミナのどっちかが中まで行ってテキトーにクエスト受けてこよう」
「分かったわ。私が行くから…どんなクエストがいい?」
「そうだなぁ…報酬と労力が見合ってるやつならどれでも」
「じゃあ、ランニング終わってご飯を食べ終わってから行きましょうかね」
◇◇◇
ランニングを終えて俺とカルミナは遅めの朝ごはんを食べるために食堂に足を運んだ。
「タロウさん、カルミナさん、おはようなのでして~」
「あ、おはようございます晴海さん…双葉さん」
「ふん…」
「おはよう晴海さん、双葉さん」
「あぁ、おはよう」
ま、まぁ。こういう人だから。知ってるから大丈夫…。挨拶くらいはして欲しいとは思うが…時間は掛かりそうだな。
「晴海さん達は…時間をズラして?」
「そうでして~。いつもの時間だと混んでいるのでして~」
「なるほど…。晴海さん、今日はどうするの?まだ忠晴さん達の話は進んでないんでしょ?」
「そうなのでして~。ですから、今日は双葉の身の回りの必需品を買いに行くのでして~」
「すまないな。武器とあの時の服しか持っていなくて」
「私が連れてきたから気にしないでいいのでして~。父上からお金は預かってますからその事も気にしないでいいのでして~」
「そうだ、カルミナ…マツリ様はどうしたんだ?一緒の部屋だったんだろう?」
「ちょっと夜更かししたからまだ眠ってるわよ?」
「じゃあ、書き置きくらいはした方がいいかもな。どちらにしても騒ぎそうだけど」
「どうして連れていってくれなかったのですか!…って感じかしら?そうね…書き置きには資金稼ぎとも書いておきましょうか。遊びじゃなく仕事って感じで」
「そうだな。あ、そうだ…。双葉さん、マツリ様にはどの武器を扱わせるとか決めてますか?昨日、武器とか見に行きましたけど本当に初心者ですよ?」
「キッ!」
ひぇぇ…質問しただけなのに…やっぱり無理じゃないか?無理だろう…これは。照れ隠しでつい睨んでしまうみたいな可愛いやつじゃないからな、殺意が込められてるやつだからな…。
「カルミナ、頼む」
「う、うん。それで、双葉さんは何か考えてたりするの?」
「そうだな。まずは体力だ。有ると無いじゃ練習の効率にも関わってくるからな。あと武器は私と同じで短刀かナイフでの二刀流にするつもりだ。数と速さで勝負させる。クソ男共の力に対抗するために…安心しろ、麻津里を立派な殺し屋にしてやる」
いや、先生を辞めて欲しい。この人を先生にしちゃいけないと思う。絶対に人格が歪むぞ…。ちょくちょく様子を見て矯正しないと大変な事になりそうだ……主に俺が。
「色んな武器を試すよりはその方が良いかも知れないわね…。タロウ、早くご飯を食べてギルドに行くわよ!」
「お二人はギルドに行かれるのでして~?」
「うん。まぁ、最近のお菓子に掛かる費用が大変な事になってるからね。まだお金はあるにはあるけど、こういう稼げる日に稼いでおかないとね」
「なるほどでして~。双葉、買い物ついでに甘い物でも食べに行くでして~?」
「晴海の好きにするといい。が、甘味は嫌いでは無い」
お互いの予定が決まった所で先に食べていた晴海さん達が朝食を終え、先に出発して行った。俺達も食べ終わると置き手紙だけ書いて、ギルドへ向けて動き出した。
◇◇◇
「お待たせタロウ。私達にとっては楽々なクエストあったわよ!」
「ほー。何のクエスト?」
「荷物運びよ!なんか、街に散らばってる廃材を集めてるらしいからそれを街の外まで運び出したり、綺麗な木材を別の場所から運んだりするクエストよ。ね、私達にとっては楽々でしょ?」
アイテムボックスが使える俺達に取っては確かに楽だな。問題は報酬の方だが…
「え?報酬?それは歩合制らしいわよ。その話を説明されたからこのクエストを受けてきたのよ。運んで欲しい量の下限や上限はあるみたいだけど、それでも十分に稼げるわ!運んだらその場所の責任者に、量の確認をして貰った後にサインを貰って最後にギルドに提出するだけの簡単なお仕事よ!」
「運ぶ場所は何ヵ所かあるんだろ?他の冒険者と被らなければいいけど…」
「いや、それが…。今回の戦に参加した冒険者って結構良い報酬を貰ったみたいで…ね?」
しばらくはクエストを受けなくて良いって訳か。俺達に取ってはチャンス…かな。
「それならそれでありがたいな。俺達で報酬を独り占め…二人占め出来る訳だし」
「えぇ、ですからちゃちゃっと終わらせちゃいましょ!まずは廃材を取りに行くわよ!」
カルミナについて行き、街の中を走って廃材が集められている場所を何ヵ所か回った。冒険者達は居るが1人か2人で、ほとんど姿も無く…アイテムボックス持ちの俺とカルミナは凄く喜ばれた。廃材は結構な量が集まってあり、外へ運ぶにしても人手が足りないと困っていたらしい。
「ここもこれで大丈夫だな」
「坊っちゃんお嬢ちゃん、助かるよ。ほら、俺の店で売っているリンゴの果汁を搾った飲み物だ。後で飲んでくれ」
「ありがとうございます!」
「タロウ、美味しそうよ!おじさん、ありがとう」
「良いって事よ!じゃあ、よろしく頼んだぜ。南の方の門の所に立っている門番にでも聞けば、廃材を置いてる場所も分かるからよ!」
「分かりました、早速行ってきます!」
南の方ならこの前行ったばかりだから迷わずに済むな。リンゴジュースは2リットルくらいの一瓶も貰ってしまったからクエストの後でカルミナと試飲してみようかな。
「南の方なら走って行けるな」
「そうね。速く行きましょう!今度は綺麗な木材も色んな所に運ばないと行けないし」
「そうだな。二人で分担したいけど…サインを書いて貰う紙が1枚しか無いからなぁ…。頑張って走るか。身体強化は…余裕を持たないとまだ失敗するから街中では普通にな」
「私も身体強化をモノにしないといけないわね…」
俺達は普通に走って南の門の所まで行ったが朝の出発が遅めだった事もあり、時刻はすでに太陽は真上を少し越えてしまっているぐらいの時間みたいだった。
「ん?廃材の置き場がどこにあるかだって?」
「そうです。何処に集めているんですか?」
「あぁ、それなら…ここを出て右の方に進んで行くと…ほら、ここからでも少し離れているが見えるだろ?あそこだ。廃材は使えない物は処分するが使えそうな物は再利用するからね、街から少し離れた所でその作業をしているんだ」
「なるほど、ありがとうございました」
「はいよ。何かあったらまた聞いておくれ」
俺達は廃材置き場まで走って行くことにした。
「ふぅ…。今日は走ってばっかだな」
「そうね…。まぁ、ちょうど良い運動変わりかしら」
「お、坊主とお嬢ちゃんこんな所に何の様だ?危ないからあまり近寄るなよ」
ここで先に廃材を持ってきましたなんて言っても、面倒なやり取りが交わされるだけになる事は目に見えてる。だから先に廃材を少しだけ出す事にした。
「お?もしかしてアイテムボックス持ちか?どれだけ持ってきた?」
「二人で結構な量です。どこに置いたらいいですかね?」
「結構な量か!そりゃあ良い!こっちに出してくれ!」
「あ、はい。せーのっ!」
とは、声を出してみたがアイテムボックスからチマチマと取り出して、テキトーに置いて良いと言うことだったのでポンポンと放り投げた。
「おぉ……おぉ!?お前さん方、どんだけ運んで来たんだ?冒険者達が働きやがらねぇから時間が…何日も掛かるかと思ったが…これはありがてぇ!」
「いえ、僕達もお金目的な所がありますし…立派な気持ちで動いてる訳じゃないんですけどね」
「構わないさ!やらない善よりやる偽善…って言うしな。お前さん達を偽善なんて言うつもりもねーけど…実際に動いて貰ってこっちは助かってる!それが事実さ」
「まぁ、お互いに益があるって事で」
「だな。サインの紙は持ってるか?」
「私が持ってるわよ。はい、これ」
「お嬢ちゃんが受けたのか?…あぁ、パーティーか。少しだけ…気持ち分を上増ししといてやるからな」
「ありがとうございます」
「やった!助かります!」
「建物の補強に使う新しい木材を運ぶクエストもやっていくのか?」
「えぇ、その予定よ!」
「そうか。なら、少し離れてるが…ここから街の西側の入り口に向かう途中にある木材置場に向かわねばならんぞ?…走っても2時間くらいは掛かると思うが…?」
また走るのか…。しかもそんなに離れているとは。緋鬼王を喚んで…いや、あのジェットコースターは本当に急ぎの時だけで十分だな…俺が走るか?
「カルミナ、身体強化で走ろうと思う…おんぶするから背中に乗ってくれ」
「だ、大丈夫なの?血が噴き出したり…」
「ギリギリまでじゃなくて、余裕をもって強化させるから大丈夫だと思うよ?とりあえず…はい」
「わ、分かったわ。お願いね……すんすん」
「ちょっ!すんすんするなっつーの!」
「ちょ、ちょっと嗅いでみただけでしょ!?そ、そんな事より…重くは…無いわよね?」
「軽装とローブの分は重いけど、カルミナ自体は軽い方かな?いや、鍛えてる分他の人より…?まぁ、全然背負って走れそうだし軽いのかな?」
「なんか釈然としないわね…っ!!タロウ、今太もも揉んだ!」
「揉んでない。手の位置を膝裏へと通す為に位置を変えようとちょっと勢いつけて動かしただけだ。気にするな」
「タロウって太ももが好きなんでしょ!?ま、前も揉まれたもん!」
「違う。それはカルミナが挟んでただけで俺は悪くない。一旦この話は置いておいて、走るぞ」
「まさか、ロングパンツスタイルじゃなくてショートパンツスタイルが良い…なんて事は思ってないわよね!?」
ふっ…。そんなのは思ってるに決まっている。決まっているが今の季節はは寒いから俺も我慢してあげてるだけなのを察して欲しいね。夏はショートパンツにローブを来て貰って風ではためいた時にチラッと見える足が……よし。走ろう。自分でも邪念が凄いと思うから走ろう。
「身体強化 部分強化 足」
「ちょっと質問に…!あ、速い!…けど、紅緋よりマシね!」
「せっかくの防寒が付与されてるローブなんだから顔も埋めれるだけ埋めておけよ」
「え?なんだって?顔を埋めておけ?分かったわ!」
「ちょ、なんで俺の肩にピッチリくっついてんの!?聞こえて無いのかー?ローブのせいで胸の感触とか無いから楽しくもないんだけど!」
「え?…誰の胸がピッチリで無いですって!?」
「言ってないよ!?何で全部聞き取れて無いんだよ!」
最初はポカポカ叩かれたり、かと思ったらくっつかれたり…途中からは少しペースを上げたから話も無くなり、最後の方は俺がバテてカルミナが心配したりしたが、何とか1時間も掛からないで目的地までやって来ることが出来た…と思う。時間は計ってないからもしかしたら1時間は越えてたかもしれない。
「こひゅーこひゅー…」
「タロウ。私が話を聞いてくるから少し休んで。おんぶしてくれてありがとう」
「こひゅー……ま…こひゅー…ど…」
「任せた、どういたしまして…ね?」
よく分かったな…。とりあえず寝転がろう…。ふぅ…ギリギリを狙わなければ余裕はあったな。そう考えるとまだまだ速く走れたって事だが…その分早めにバテてたかもしれない。身体強化の使い方も色々だな…。
リンゴジュースでも少し貰って飲んじゃうかな…。
「あっ、うま…なんだこれ後味すっきりで飲みやすいぞ…。けっこう良いやつなのかもな…」
「タロウ~って!飲んでる!私にも一口ちょうだい!」
「ほら、美味しいぞ」
「ん!美味しいわね。乾いた喉を潤してくれるわ」
「残りは今晩にでも飲むとして…話はどうだった?」
「運んで欲しい場所と運ぶ数の書いてあるリストを貰ったわ。私達なら運べるって言って、結構なリストを貰ってきたわよ!」
「このリストにサインを…って訳じゃ無さそうだな」
「えぇ、サインはギルドで貰った紙のスペースに書いてもらわないといけないみたいよ。あ、そうだ。丁度よく木材を運ぶ為に連れてきた馬が居るらしいのよ。戻りは乗せていって貰えるみたいよ!」
「ホントか!?そいつはありがたいな…帰りも走るのは無理っぽかった所だ。いつ出発?」
「私達が木材をアイテムボックスにしまったらいつでも出発してくれるみたい。だから…タロウには悪いけど急ぎましょ?」
「あぁ、そういう事ならもう少し踏ん張りますよ…っと!」
木材をアイテムボックスにせっせと入れ込んで、街へと乗せて貰った。西側の入り口から入り、目的地の近くまで行った後は、目的地の正確な場所を住人の方に聞いて回りながら、リスト通りに木材を届けに走り回った。
「ん~。終わった~」
「いや~走り回ったわね…」
「途中で気付いた…紙が1枚でも俺等は二人。交代で行けば良いじゃんって話」
「そうね…二人で走り回らなくて良かったって事ね。あれには驚いたわね…」
「「ぷっ、はははははは!!」」
「なーんで思い付かなかったかな~」
「いや、ホントよね…電撃が走ったようだったわ!」
「もう、日が暮れそうだし…どうする?ギルドには明日行くか?」
「今日出来る事ならやっておいた方が良いわよ。行きましょう」
俺達は今日の内に報酬を貰っておこうと思いギルドに向けて歩き出した。
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