第97話 タロウ、ようやく落ち着く
もう100話が目前に!?
とりあえず、着地点はどうなるか分かりませんが今後もよろしくお願いします
「すまない晴海、もう一度言ってくれないか?」
「だからでして~、双葉を私の護衛とか練習相手として引き取ったのでして~」
なるほど、解らん。いや、分かるけど…解らん。しかも、晴海さんの中じゃ決定事項みたいだしで。忠晴さんも困ってる様子で、その双葉という女の人はこの場に居る俺と忠晴さんと駿様を睨み付けて来る。敵として戦ったんだよね?友情なの?芽生えたの?
「駿様、どういたしましょうか?」
「うむ…タロウはどう思う?」
「いや、見てくださいよ…めちゃめちゃ睨んでますよ…カルミナとか他の女性にはそんな事なさそうな所を見ると、男が苦手…というか憎んでますよ、アレ…」
「そう思いますよね…私も晴海の意見は出来るだけ呑んであげたいですが…」
「余も、今回活躍を見せた者には褒美をと考えていたが…」
「何コソコソ話てんだ!切り刻むぞ!」
「ひぃ!忠晴さん、この道場には男も居るんですよ!?厳しく無いですか!?」
「双葉、あれは、私の父上と徳川駿様とタロウさんでして~味方なのでして~」
「味方が敵になる可能性もある!特にあの異国の奴は怪しい…殺すか…」
ヤバくない?ヤバくない?狙われてるんだけど!!
「ちょっと!タロウは私のこ、恋人なんだから物騒な事言わないでよね!」
「そうか、でも、男なんて乱暴で下衆なだけだ。隙を見せたら襲われるぞ!」
「そ、そうなのですか?隙を…見せる…」
「ちょっと、マツリ様。何を考えてらっしゃるのですか?」
「い、いえ!何も考えてないですよ!…双葉さん、そう睨んでばかりで疲れませんか?…心の方が…」
「大丈夫だ。男が居る所だけ気を張ればいいからな。そこまで疲れはしない。それで、いい加減結論を出してくれないか?ダメなら直ぐにでも出て行く…」
「なるほどでして~、双葉と一緒に出ていくのもアリでして~」
「双葉さん、この家で良かったらずっと居なさい!」
「ちょ、忠晴さん!」
「忠晴…気持ちは分かるが…」
「晴海が責任を持つと言うなら私からは何も言うことはありません。けして、晴海が出ていくのが嫌だからなんて事は無いのです」
「父上、ありがとうなのでして~。双葉、今日からここで暮らすのでして~」
「あぁ、晴海には世話になる」
双葉さんは黒くて長めの髪を結んでポニーテールにしている。前髪は目元を少し覆っていてそこから見える眼光が怖い。けど、晴海さんには懐いているみたいだから…多分…大丈夫なのかな?
「改めて自己紹介しておこう。滝川双葉…と名乗っていたが今はただの双葉だ。嫌いな物は男。好きなものは姉と妹だ。得物は二振りの刀だ。私は晴海の護衛をする。基本的に晴海の命令は聞くが内容によっては聞かない。男は近寄れば斬るし、時と場合によっては魔法で仕留める。もし殺してしまっても悪びれないし、出ていけと言うならいつでも出ていく。そう…他の者にも広めて貰えると助かる…以上だ」
「双葉、よく頑張ったのでして~」
晴海さんは甘やかしてるのかもしれないけど、要約すると男は殺す…の一言だ。色々と大変だぞ。安倍家に来る度に、すれ違いそうになる度に、殺されそうになるとか爆弾過ぎてどうすればいいか分からんぞ…。
「双葉さん。私は晴海の父で安倍忠晴で安倍家当主をしております。晴海の事をお願いしますね。門下生の内、男性にはちゃんと言っておく様にしますが、双葉さんの方も出会い頭に斬らないくらいはお願いします。双葉さん、安倍家は貴女を歓迎します」
「…助かる」
「そうだ、余からも1つ。双葉とやら、手が空いている時で良いから余の娘、麻津里に武器の扱いを教えてやっては貰えぬか?」
「お、お願いします!双葉さん」
「麻津里、お前は…鍛えて無さそうだな。それじゃ後悔するぞ。私が男を殺せる術を教えてやる」
「いや、そこまで求めて無いんじゃ…それに流石にマツリ様って言わなきゃダメよ?」
「別に良いんですよカルミナさん。これから先生になって貰うのですから」
「まぁ、マツリ様がそう言うなら良いんだけど…。というか、武器の扱いなんて覚えてどうするのよ?」
「カルミナさんも、様付けは不要ですのよ?…ほら、淑女の嗜みともうしますか…」
「どうやら麻津里はそなたやタロウに憧れというか凄いと思っている様でな」
「ま、まぁ、そういう事ですわ」
「駿様、我が儘姫が手の付けられない我が儘姫になりますよ!"いざ"という時困りますよ!?」
「この間の事もあるからな。"いざ"という時の為だ」
俺には分かる。カルミナの"いざ"と駿様の"いざ"が違うことを。麻津里様は俺達について来るつもりなのかなぁ…やっぱり。
「双葉殿、私とも模擬戦とかして欲しいでござる!」
「貴女は強い。その辺の男じゃ勝てはしないだろう…私よりもずっと強い。私が教えて欲しいくらいだ。男の臭いがしないから貴方もこちら側なのだろう?ぜひ、ご教授して欲しい」
「あっ…」
あ、ヤバいちょっと声に出てしまった。双葉さんは近寄らせないのかも知れないが…ベリー先生は近寄って来ないのだ。結果は似ているが中身が違いすぎる。笑えない…物理的に死ぬからだ。
「そ、そうでござる。私は…強い男じゃないと近寄らせないでござる」
「やはりそうか…時間がある時で構わない。私を鍛えて欲しい。」
ベリー先生…いつか、いつか良い男を見付けたら紹介するから…強く生きてください。
「じゃあ、とりあえず話は終わりかな。私や駿様、六道さんはこれから話し合いや色々とする事があって忙しくなるけど…皆は普段通りにして下さい。一段落したらまた集まって貰う事になると思うのでそれまでは修行してもいいですし、休んだりしても構いませんので」
「では、余と忠晴は先に席を外させてもらう」
「失礼しますね」
二人が先に出て行き、部屋には俺たちだけ残った。
「カルミナはどうする?」
「私はとりあえず桐華にでも会ってくるわ」
「分かった。晴海さんは?」
「私は双葉に家やこの周辺を案内するのでして~」
「なるほど、ベリー先生はどうなさいます?」
「私は1度家に戻ったりギルドに行ったりするでござる!」
「分かりました。…よし。解散だな」
「ちょっと、タロウさん!?私の予定だけ聞かれて無いですのよ!?」
「…あるんですか?」
「無いです!タロウさんはあるのですか?」
「いや、特には無いですけど…」
「まぁ!奇遇ですわね!私も無いんですよ?」
「それは…今聞きましたけど…」
「無いんですの!よ!!」
こうなりそうな顔をしていたから飛ばしたと言うのに…。別にどこかに行く予定があるわけでも無いし、これから修行って感じでもないし…
「カルミナ、マツリ様が暇だってよ」
「そうね、なら私と桐華さんに会いにでも行きますか?タロウと二人っきりになんかさせませんよ!?」
「い、嫌です!せっかくのチャンスなんですから!」
「はぁ…ならマツリ様街にでも出掛けますか?暇ですし…本当に暇ですよ?」
「タロウさん、よろしいのですか!?ありがとうございます!父上ー父上ー、タロウさんが街に連れていって下さるみたいなのでー行って参りますねー」
少し離れた所から気を付けろと返事が聞こえて来た。良いのかなぁ…それで。
「タロウ!タロウ、ダメよタロウ!」
「まぁ、カルミナ。マツリ様も頑張ったんだ本人が行きたいと言うなら叶えてあげようよ」
「なら、私も頑張ったわよ!」
「タロウさん、私もでして~」
「タロウ君、私も頑張ったでござるよ!」
「ベリー先生、悪のりが過ぎますよ!」
「なんで、私だけでござるか!?」
「晴海!こんな軟派な男はやめておけ!女誑し男は不幸の素だ!」
「くっ…。とりあえず皆解散。後の事は後で考えよう…じゃ、マツリ様行きましょうか?」
「はい!どこまでも…」
◇◇◇
「ふんふーん~ふふ~」
「ご機嫌ですね、マツリ様」
「えぇ、こうして歩いてるだけでも楽しいです。街も被害が少なかったですし…ありがとうございましたタロウさん」
「はい。ですが、みんなで頑張ったからですよ!もちろんマツリ様もね」
「皆のお陰ですね。私も徳川家の一員として戦死された方の家族の方達に頭を下げなければなりせん。……修行はもう少し後で始めますね」
「やる事が多いんですね…。マツリ様が修行するのって…」
「はい!タロウさんやカルミナさんについていく為ですよ!…やはり、迷惑ですかね…?」
実際の所、マツリ様の持つエクストラスキルは強いし居てくれた方が絶対に良い。だけど、今のままだと足手まといだし、魔王や魔族と戦う時に人質や衝撃の余波で死んでしまうかもしれない。
「僕達はいつ旅立つか正直のとこ、自分達でも決めてないというか、分かってないんです。時が来たら行く…みたいな感じです。今のマツリ様なら連れて行くのは出来ません。戦場では勇敢な者から死んでいくなんて言われますが、弱い者はそれより先に死にます。…マツリ様のエクストラスキルは強いです。でも、マツリ様は弱い。後は…分かりますね?」
「強くなれと仰いますのね?」
「はい。せめて、自衛は出来るレベルには。マツリ様が努力をなさって強くなったその時には僕もカルミナに頭を下げますから」
武器を扱った事もなければトレーニングもまともにした事が無さそうなマツリ様に自衛が出来るレベルは少しばかり厳しいかもしれない。手にマメが出来て潰れて少しずつ女の子の手じゃなくなっていくし、髪も傷むだろう。修業はツラい事キツい事ばかりだ。それでもマツリ様が逃げずに続けたのなら…カルミナに頭を下げるのは容易い事だ。
「双葉先生に教えて頂きますから…どうなるかは分かりませんが頑張ってみますね!」
そうだった。先生はあの双葉さんか。マツリ様の性格が歪まなければいいけど…。
「俺も鍛えてる途中だし、頑張らないと。そうだ!なら武器屋とか防具屋とか見に行ってみる?使いやすそうなのとかを調べておくのもいいんじゃない?」
「そうですね、行ってみましょう!」
武器屋で色々と物色したり、防具屋で使い方の説明をしたりとマツリ様の今後の為になりそうな所をブラついて暗くなる前にはちゃんと帰って来た。
六道さんはまだ帰って来ておらず、明日になりそうなので織田史郭とその四天王達の処遇はまだ決まっていなかった。領地と財産の一部を没収して財産から壊れた家の修理費や戦死された方の家族への補償金に充てる事は決定しているらしいが。
「タロウ!どこに行って何をしてたの?」
「えっとだな…」
「武器屋に行ったり道具屋に行ったりしただけですのよ。それでも楽しかったですが」
「と、言うことだ。カルミナの方は?桐華さん大丈夫だった?」
「えぇ。最初は桐華の家に行ったんだけど、ギルドで仕事をしてるらしくてそっちに行ったわ。特に変わり無く仕事をしてたわ」
桐華さんも問題無しか。それは良かった。カルミナと行くと嫉妬の嵐が凄いから俺は行けないんだよな…。
「無事なら良かったな。さて…明日からだけど…」
「そうね…どうしようかしら?修行に戻ろうにも先生達は忙しそうなのよねぇ」
「自主トレにでもする?それとも、クエストでも受けに行くか?」
「そうそう。けっこう色んなクエストが出てたわよ。街の清掃とか廃材の片付けとか」
「よし、明日は休息日として各々やりたい事やろう。それがいいと思うな」
「う~ん。まぁ、桐華の所に並んでる冒険者達がやってくれるでしょ。そうね、明日も軽く運動したら休みでいいかも知れないわね」
「じゃあ今日は休むか、色々慌ただしかったからな…ぐっすり眠れそうだ」
「今日は私も泊まるのですわよ?カルミナさん、一緒のお部屋で寝ませんか?もっとカルミナさんからお話をお聞きしたいのですよ!」
「まぁ…いいわ。じゃ、タロウそういう事だから」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみなさいです!」
◇◇◇
『タロウ、今回は気を使って貰って感謝します』
「ルミナスか。いや、気にしないでくれ。俺がそうした方が良いって勝手に思って…ルミナスの力を借りなかっただけだからさ」
『ありがとうございます。でも、必要ならばいつでも頼ってくださいね…』
「勿論。頼りにしてるよ!」
それにしても今回、まさか魔族が絡んでるとは思わなかった。というか、こんなに早く動いてるなんて予想もしてなかったな。元々動いてる奴等だった…という可能性もあるけど、今後は動き出す魔族も増えてジパンヌだけじゃなくもっと色んな所で魔族による被害が増える事になりそうだな。
ルールトでも動いてくれているとは思うが…ジパンヌの様に連絡が来ていなかったりすると大変な事になるかもしれない。今回はまだマシな結末だったけど、国が滅ぶなんて事もあり得る訳で…。魔王や魔族の事をベリー先生以外に教えて無かったのは失策だったかもしれないな。
「何はともあれ、俺に出来ることはひたすら強くなる事だけかな…」
『根を詰め過ぎないでたまの息抜きも必要ですよ。』
「そうだな。よく遊びよく学べって事だな。ふぁ~…とりあえず、よく眠るとしますか…」
『お疲れ様でした、タロウ。おやすみなさい』
「あぁ、おやすみ」
俺は翌朝カルミナが起こしに来るまでぐっすりと眠りについた。
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(´ω`)




