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タロウ冒険記  作者: じょー
第4章 修行 ジパンヌ
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第94話 タロウ、感情を操る

お待たせしました!



「アクエス」

『はいなの!』


「力を貸してくれ。一気に片付けるぞ」


「ほう…。次は何をする?」

「身体強化 部分強化 足」


俺は足に魔力を流し、今できるギリギリまで強化を施した。本当なら全身に魔力を流したい所だがまだその段階まではいっていない。


「それくらいなら私にも出来るし、上手い。これで五分だが?」


「ハグ、ありがとう」

『ハグハグハグ…またいつでも…ハグハグハグ』


俺は呪傷を鞘に戻してアイテムボックスの中にある銘刀『虹陽』と入れ替える。虹陽の方が魔力の流れがいいからな。


「刀エンチャント 水 『水斬』」


水の斬撃を飛ばすが回避される。刀で受けなかった所をみると警戒はしているみたいだ。


「ほう…木々程度の硬さなら簡単に斬り倒してくるか」


「唸れ『水の鞭(アクアウィップ)』!弾けろ『水弾(アクアバレット)』!」


「多才よな。だが…、『東雲』よ、我が魔力吸い上げ斬撃を。はぁ!!」


目に見える訳ではないがカマイタチの様に何かが飛んでくる。小さい斬撃が数十もだ。


俺は足の魔力を調整して横へ回避する。そのまま接近する為走り出した。


思考解読(トレース)。うぐ…。よし、みえる!」


羽柴との斬り合いに危ない所もあるがついていけている。危ない所は水魔法で防いだり牽制したり。相手の動きを読み取る右目と普通の左目の誤差を間違えない様にちゅういしながら斬りあっていく。


「ほう…動きが変わったか、どれ、身体強化の範囲を広げるか…」


くそ、急に力が増している。この斬り合いの中でやってのける集中力と魔力制御は見事だな。


俺は1度下がり距離を取る。あのままだと力で押し込まれていただろうし。


くそ…あと1つ何かが足りない…何かないか?思い出せ…ヒントになり得る何かを…!


"近くで見たら分かるけど、離れてみたら分からないぞ~"

"声まで変わってるわよ"


エクストラスキルの『自由の象徴』。何者にでもなれる可能性だ。偽装として外側を変える。なら、内側は?内面を変えることも出来るのではないだろうか?…出来ない道理はない筈だ。


「つまり…心が止めている肉体の限界を擬似的に意図的に外し、本来の…負荷を気にしない心に偽れば!!」


おそらく、反動もあるだろう。上手く元に戻れる保証もない。人の心は単純な物じゃないから…やるのは肉体の制御をしている心の在り方を少なくするだけだ…。


外側を他の姿に変える偽装を『外なる可能性(アザーズ)』と、するならば…内側の自分を変える偽装は…。


「スキル『内なる可能性(マイセルフ)』!!変われ!『狂戦士の俺(バーサーク)』」



「なに!?気配が変質…しただと!?」


「ぐっ…ガぁアぁぁぁ!!殺す、殺ス殺ス殺ス!」


意識はある…だが、壊したい、衝動が…



「身体強化!感情を制御出来ない貴様など…」


「クっ…抑えてミせル。力だけヲ…操っテ…」


くそ…衝動が…これさて抑えられれば…


「獣じゃ勝てぬぞ…はぁぁぁぁ!!」


「身体強化!!ガァァァああぁ!!」


足からプチプチと音がする。血管が切れて血が流れているだろうが不思議と気にならない。痛みも感じない。体から力が溢れ出る感覚がある。



「くっ!先程までとは力が違い過ぎる…この私が、身体強化をしている私が押し返されるとは…」


腕からもプチプチと音がなり血が流れ落ち滴る。獣…か。この強者に勝てるのなら獣で構わない。


「グ…こノ体…動く内は止まラ無いと思え!!ラアァァ!!」


真正面から馬鹿正直に斬りかかる。身体能力の全てで圧倒する。足りないなら更に魔力を増やせばいい。


「ぐぁ!?ただの蹴りで…この威力…かはぁっ!」


少し分かった気がする。動かしたい様に動かせばいい。本能のままに体を動かせばいい。他の感情に邪魔させるな。そこだけ意識すればいい。これも俺だ、俺だから抑えなくていい。心を偽っているが本質は俺のままだ。それを忘れなければ…



「俺はオレトシテ戦えル!!気を抜くナよ!羽柴秀政ぁァ!!」


「くっ…勝負だ!!異国の子よ!」



◇◇◇



「翡翠!」

『分かってます!せい!!』


「いい、強い女はいい!!ふふっ、殺しがいがある!その角…貴女は式神というやつでしょ?死んでもまた喚び出して貰えればいいのだから…ズルい。ズルいズルい!殺す殺す!」



翡翠の使う普通の剣より、双葉と名乗った敵の短めの二刀の方が手数も速さも少し上のようでして~。翡翠1人では少し手強い相手なのでして~。


「翡翠、私は魔力を限界まで使い喚び出すのでして~。その間、集中しなければらならいので頼むのでして~」

『分かりました。足止めしてみせます』


私は気持ちを落ち着かせた状態で式札に魔力を込めていくのでして。今から私の魔力が空になるまで集中を続けないといけないし、タロウさんは半分なんて言っているけど、私は全ての魔力を使ってもギリギリなのでして。それほどに強い式神なのでして。



「ははっ!弱いぞ式神。お前が弱いから後ろの子供も死ぬ。お前が弱いからだ。弱さは罪だ守れないのは罰だ。後悔しながら死んでいけぇ!」

『うるさい!水魔法『水針(みずばり)』!!』


「へぇ…魔法もか。だが簡単に回避できる技に何の意味がある」


『水魔法『水牢(すいろう)』!!…これでこの空間には私と貴女だけです。無理矢理に外へ行こうとすれば水の刺が貴女を貫くでしょう』


「つまり、外へ出るにはお前を殺せば済む話だろ?問題ない。式神だろうがボロクズにしてやるよ…」


『守ります。守り通してみせます!貴女の過去に何があったかは知らない。が、今の貴女は…憐れだ。貴女の家族、大切な人、その人達の為に戦うなら分かります。けど、貴女は囚われてしまっている…復讐というモノに』



「…さい。…うる…い。うるさいうるさいうるさい!!復讐は私の全てだ!敵は殺す。男を殺す。守りたい人はもう居ない!!はは…はははははは!!……死ね、式神」


『ぐっ…やはり速い。でも…時間を稼ぐだけなら!水魔法『濃霧(のうむ)』!』

「気配を消したつもりか?そこだ!!…なに!?」


『妖しい鬼。妖鬼、私…翡翠の真骨頂は敵の感覚を惑わせる事にある。貴女は今、何人の気配を感じているかな?それとも気配を感じて無いかな?』



「くそ!霧で視界が…。気配もコロコロ増減しやがる!……くそ!また空振りか!」

『水牢の中で範囲は狭いが貴女には十分かな?』


「…舐めるなよ式神風情が!!風魔法『旋風(せんぷう)』!!…霧も風の前じゃ効果が無いね!!」

『風魔法の使い手でしたか…それは誤算ですが…水魔法『水蜂』!』


「この牢が仇となったな。ふん!…この中じゃお前の力は半減だろう。もう、私には通じない…じゃあな式神」


『うぐっ…勝負は…私の負けです…が。この試合は…』


「あん?」


「よく耐えました翡翠、後は任せるのでして!

おい出ませ、おい出ませ、我が魔力を糧に喚ぶのは水鬼の王、美しき水、強き鬼、2つを兼ね備えし鬼の王。我に代わり敵を倒せ、我に代わり味方を守れ!!おい出ませ!『蒼鬼王(そうきおう)』」


あぁ…少しずつ意識が遠くなるのでして~…でも、その前に…


『蒼鬼王…。双葉さんは殺さずにお願い…するのでして~…』

「えぇ、後は任せて眠りなさい。私の幼きご主人様」



◇◇◇



『おい、1つ尋ねる。紅緋はどこだ?』

「あ、そ、それが…四天王とかいう敵を気絶させた後に消えて…しまわれて…」


『そうか。倒したのだな?…なら良い』

「あの、紅緋ちゃんは…」


『我が主がまた喚び出すであろう。案ずるな』

「は、はい。良かったです…」


ふむ。こちらにも四天王の1人が来ていることを考えると、それぞれの方向から攻めて来ていると考えられるな。主の元へと急ぐか。



◇◇◇


「はぁ…はぁ…いてぇぇぇぇぇぇぇ!!痛い痛い痛い痛い痛い!」

『タロウ、大丈夫なの?』


「ヤバイ…これはヤバイ。死ぬって…か、回復薬じゃ血までは戻らない…。」

『敵は…死んじゃったの?』


「いや、多分…生きてはいる…と思う。きっと」


暴走状態だったから力の加減はしていないし、最後は強化した腕で殴り飛ばしたからな…。その後に偽装を戻して狂戦士を解いた途端に痛みで少し気を失った。


「痛い…。カルミナに無傷とか言っておいてこの有り様じゃ、顔向け出来ないな…」

『私も傷の回復は手伝うの!』


擬似的にだが、心の在り方…自分の感情を制御する事でリミッターを外せる事が分かった。その反動でどうなるかもな…。冷静な自分、熱い自分、七つあると言われてる大罪の様な欲求というか感情も制御出来たら…自分というモノを深く理解出来るのかもな。



「召喚 アトラス」

『ボロボロ…痛そうだな~?』


「アトラス…ちょっと、背負ってくれないか?」


流石に身長が1メートルくらいのアトラスには厳しいかな?でも、自分で動くとフラフラするしな…。


『いいぞ~』

「あ、やっぱり土魔法で簡単に台車みたいなの作るからさ…引っ張って行ってくれ。流石におんぶだと引きずっちゃうからな」


俺は台車というよりはもはやトロッコの様な物を作って車輪は付けたが森の中、ガタガタと揺れて少し気持ち悪くなりながらも森を抜けた。ちなみに羽柴秀政も連れてきている。



「タロウ!!」

「カルミナ…四天王を討ち取ったぞ!!」


俺は拳を空へ向けて突き伸ばし、報告する。攻めて来ていた敵陣営の人達も気を失っている羽柴秀政を見ると戦意を喪失したのか、簡単に捕縛されていた。


「すまん、カルミナ。流石に無傷は無理だった」

「でも、ちゃんと勝って帰って来た。それで十分よ」



「タロウ君、いつの間に戦って…いや、それはいいか。お手柄だ!羽柴秀政と言ったな。織田家の武将の1人で武人としても有名だ。良く打ち倒した!」


「ありがとうございます。まぁ、見ての通りボロボロになりましたけどね…」

「今は休め。後は任せておきなさい」


「はい。では…少し休ませて貰いますね…。」


俺が眠りについて次に目を覚ましたのは丸1日経ったお昼頃だった。



◇◇◇



「うぅ…ん?」

『目が覚めましたか?私のご主人様』


「蒼鬼王…。貴女が無事と言うことは…」

『えぇ、ちゃんと気絶させて縛ってありますよ』


「そうでして…ありがとうなのでして~」

『いえ、ご主人様の為ならこの力を躊躇い無く使いましょう』


気絶している彼女を見る。何があれば人をこんな憎悪で埋め尽くせるのでしょうか。そんな彼女を理解してあげられるのでしょうか?私のやろうとしている事は正しいのでしょうか?


「分からないのでして~」

『彼女の事ですか?直接戦った感想を言わせて貰うならば…。あれは奪われた側の者。つまり、奪う側の者に対して憎み恨み…そして殺意という感情を抱くのでしょう。彼女の心の傷を癒す事は難しいでしょう。それでも、手を差し伸ばすのですか?』


「私は…私の我が儘で、傲慢な考えで、偽善かもしれませんが…彼女を助けたいのでして~」

『ご主人様ならそう仰られると思いましたよ。私も手伝いましょう』


「ありがとうなのでして~。彼女は私の家で引き取るのでして~」



「ん…ん?痛っ…。私は…この縄、そうか…あの式神は強かったものな…」


『ご主人様、目を覚ましたようですよ?』

「でして。滝川双葉、私の…私達の勝ちでして~」


「あぁ、奴隷にでも男達の慰み者にでもすればいい。ま、私は舌を噛みきってでも死なせて貰うけどな!」


「違うのでして~違うのでして~」


「他に私の使い道なんてモノは無いぞ」

「そんな事無いのでして~。貴女には私の家に来て貰うのでして~」


「なるほど、捕虜…人質にでも使うつもりか?それも余り意味は無い。私は織田家の中でも異端だ」


「それは都合がいいのでして~。貴女には、これから私の護衛兼戦闘訓練の相手としてこちらに寝返って貰うのでして~」



「は、はぁ?そりゃ、どういう意味だ?私に寝返れだと?」


「はいでして~。貴女には、私の勝手な気持ちで幸せになって貰うのでして~。朝普通に起きて、ご飯を食べて、学んで、訓練して、たまには遊んで、恋をしたりなんかもいいでして~。とりあえず…貴女は私のモノになって貰うのでして~」



「そ、そんな…そんなものは幻想だ!私の人生に幸せなんてモノは無かった!あ、ありえない!!」



「これまでの事は忘れろなんて言わないのでして~。貴女が男性を憎む気持ちも否定しないのでして、でも、私は貴女を救いたい。傲慢かもしれませんが救いたい。私は誰かを救いたいんじゃなく、貴女を救いたいのでして~。これは勝者の命令でして。貴女は双葉。今日からただの双葉でして~」


「私は…お前らの近くにいる男性を殺すかもしれない」


「私や、翡翠、蒼鬼王がちゃんと止めてあげるのでして」


「私は…嫌になったら自殺もするかもしれない」


「そんな事にはならない様に頑張るのでして」


「私は…お前の期待通りに幸せにならないかもしれない」


「それでも、貴女には私の傍に居て貰うのでして~」


「私は…幸せになってもいいのだろうか?」


「貴女は、貴女の大切な人の分も幸せになって…いつか報告してあげる義務があるのでして」


「大切な人の分も…か。そうか、一葉…三葉…。二人の悔しさ、苦しさは忘れないよ。でも、もう少しそっちへ行くのは待ってて欲しい」



"えぇ、ゆっくり来なさい"

"幸せにね、お姉ちゃん"


「あぁ、あぁ…ああああああああああああああ…」


いつぶりだろうか…涙を流すのは…。この涙が枯れた時、少しは何かが変わるのだろうか?滝川双葉…いや、双葉として生きていく私は幸せになれるだろうか?



「でして~でして~」

『ご主人様、落ち着いてください。きっと、自分の中にある感情を吐き出しているのでしょう』


この少女と居れば少しは幸せになって、報告できるだろうか?



誤字脱字がありましたら報告お願いします!

(´ω`)

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「転移したよ in 異世界」 http://ncode.syosetu.com/n1888eg/ という物も書いてます!よろしくお願いします。 こっちはラブコメです! https://ncode.syosetu.com/n7917ej/ よろしくお願いします!
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